『お金2.0』紙幣・仮想通貨の“価値”とは?新しい経済圏の未来予想図を描く本


 「お金」というよりは「価値」の話であり、「物事の捉え方」を再考することを促す1冊。そんな印象を受けた。

 もともとお金や経済にあまり関心がなく、親からも「常識を知らなすぎる……!」と嘆かれるほどの自分。そんな世間知らずの目線で読んでも理解しやすく、かつ納得のいく内容でした。ピンときていなかった経済の仕組みも、「なーんだ、よく見る “アレ” と同じじゃん」と感じられたくらい。

 それが本書『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』です。

 今となっては「○○2.0」という表現も食傷気味ではあるものの……それはさておき。むしろ大切なのはサブタイトル「新しい経済のルール」が指し示すものであり、それが本書のメイントピックだと感じました。

 2018年現在の世界がどういった仕組みで動いているのか。最新のテクノロジーによって生まれつつある「変化」とは何か。そして今後10年、どのような経済圏が誕生するのか──。社会・経済・技術といった複数分野を跨いで俯瞰しつつ、顕在化しつつある “新しいルール” を紐解いた1冊です。

「経済システム」の5つの要点と、仮想通貨に代表される「分散化」の流れ

 冒頭でも触れたように、本書のテーマは「お金」「新しい経済のルール」

 “新しい” と書くからには、それ以前の “経済” の予備知識も必要になってくるんじゃないか──と感じた人もいるかもしれませんが、そんなことはなかった。なんたって、少し前まで「投資」と「投機」の違いすら知らなかった自分が、一度も詰まることなく読めたくらいなのだから。

 小難しい説明や専門書の引用はほとんどなく、本書に書かれているのは、筆者目線で考え抜かれたと思しき等身大の言葉。専門用語は少なめに、わかりやすい表現と事例を駆使しつつ、「お金」や「経済」をいくつかの要素に分割しながら説明。高校生にも勧められそうな印象を受けました。

 筆者曰く、経済とは「人間が関わる活動をうまく回すための仕組み」。3人以上の人がそこにいて、生きるために活動しているのであれば、そこには必ず「経済」の要素があるのだとか。企業も、Webサービスも、商店街も、サークルも、どれもが小さな経済のシステムだと考えられる。

 では、そのような経済を動かす仕組み──「経済システム」には、どのような特徴があるのだろう。漠然と働き、収入を得、消費している日常生活のみならず、前述のような企業やWebサービスや商店街にも共通する、「経済の仕組み」ってなんぞ?

 それを説明するべく、第1章では筆者の分析結果をもとに、「発展する『経済システム』の5つの要素」を提示。システムを複数の要素に分解して紐解くことで、順を追って「経済」の特徴を理解することができる構成となっています。門外漢にも嬉しい、親切設計。

発展する「経済システム」の5つの要素
  1. 報酬が明確である(インセンティブ
  2. 時間によって変化する(リアルタイム
  3. 運と実力の両方の要素がある(不確実性
  4. 秩序の可視化(ヒエラルキー
  5. 参加者が交流する場がある(コミュニケーション

 なるほどーと納得しながら各要素の説明を読みながら、同時に、ふと感じた違和感があった。「経済システム」の説明ではあるけれど……これってもしや、ほかのコミュニティやコンテンツにも当てはまるのでは……?

 ①の「報酬」は、金銭的な利益はもちろん、承認欲求もインセンティブになる。②の「リアルタイム性」は、仕事でもゲームでも、状況や数値が変動するのは常である。③の「不確実性」は、何事も結果がわからないからこそ、挑戦しようと思える。④の「ヒエラルキー」は、肩書きや格付けが、行動の動機付けとなる。⑤の「コミュニケーション」は、同じ共同体にいる仲間と協力したり、議論したりすることで前へと進める。

 これら5つの要素を並べてみると──どうでしょう。「経済」に限らず、思い浮かぶモノ・コト・システムがあるのではないかしら。

 たとえば、職場とか、部活動とか、オンラインゲームとか、SNSとか、ビットコインとか。「インセンティブ」をお金に限定せずに承認欲求や競争欲まで広げれば、当てはまるサービスやゲームはいくらでもあるように思う。自分の場合、「ニコニコ動画かな?」「往年のモバゲーっぽい」とか考えてた。

 この章では最終的に、「こういった『経済』の仕組みって『自然』と酷似してるよね!」というところまで話を展開。そして、経済にも自然にも社会にも共通する、複数の個が相互作用して全体を構成する「ネットワーク」の重要性を述べるようなかたちでまとめています。

 「……あれ? お金の話はどこいった?」と思わなくもないですが、「経済」を構成する諸要素や「ネットワーク」の重要性といったこれらトピックは、続く章で議論を展開していくにあたって欠かせない大前提。

 そもそも、現代社会において「ネットワーク」の存在は必要不可欠。インターネット上でのつながりもそうだし、最新のテクノロジーを駆使したサービスや機器の多くはネットワークによって結ばれ、お互いに働きかけることで動いているという現状がある。

 ネットワークによってヒト・モノ・コトがリアルタイムでつながっている現代では、あらゆる仕組みの「分散化」が進むと筆者は予測。その例として、「共有経済(シェリングエコノミー)」「トークンエコノミー」「評価経済」を、第2章で紹介しています。

 既存の中央集権的なシステムに対して、ブロックチェーンなどの技術が「分散化」を促進するのではないか──。すっかり投機対象としてのイメージが根付いてしまった仮想通貨の特徴や魅力についても改めて整理されているため、理解の助けになるはず。

“新しい経済のルール”の選択肢「価値主義」とは

 インターネットによって気軽に他人とつながれるようになった今、趣味や志を同じくする仲間が集まり話す光景は、今やまったく珍しくないもの。SNSひとつ取っても多種多様なサービスが存在しており、千差万別のクラスタが思い思いに交流を楽しんでいます。

 言うなればそれは、無数の小さな経済圏がネット上に点在している状態。ただし、個々のコミュニティは完全に独立しているわけではなく、インターネットのネットワーク上でゆるくつながっている場合がほとんど*1

 これもひとつの「分散化」の流れであり、良くも悪くも多様性が保証されていると言えるのではないかしら。「多様性」という言葉が声高に叫ばれるようになって久しいですが──主義主張の違いによって議論が紛糾し、時として罵詈雑言が飛び交うことはあっても──十人十色の価値観が認められ、自由に発信できる環境は、それなりに健全な状態と言えるのではないかと思います。

 ところがどっこい。そのように多彩な価値観が認められ、各々に好きなコミュニティを選択することができる一方で、いまだに特定の価値観が社会を独占し、選択肢が限られているものがある。

 それが「資本主義」であり、続く3章以降では、従来型の経済システムとは異なる選択肢として、「価値主義」を提案していく内容となっています。分散化が進んだ現代では、資本主義が前提としていた「価値」も揺らぎつつあるのではないか、という問題提起。

 一例として挙げられているのが、世界で流通しているお金の9割近くが、お金からお金を生み出す「資産経済(金融経済)によって量産されているという指摘です。僕らが労働や売買をすることで回る「消費経済(実体経済)よりも、少数の人が回すお金のほうが主流となっている現状。

 特に、先進国では消費経済が縮小すらし始めているのに、資産経済はどこまでも拡大を続けているというアンバランスさが可視化されつつある、とも。消費はしないのにお金は増えるため、相対的にお金そのものの価値が下がっていく傾向にあるそうです。

 また、お金の重要性が強調されすぎてしまったことで、逆に「お金にはならないけど価値のあるものって存在するよね?」という考え方をする人が増えつつある、という見方も*2

 資産価値や金額の多寡ばかりが見られ、サービス自体の魅力や個々人の能力が考慮されにくくなってはいないか。数字ありきの評価基準でそれ以外は顧みられず、「お金」が「価値」を置き去りにしてしまっている。ゆえに、疑問を感じる人が増えているのではないか──と。

 つまり、今起きていることは、お金が価値を媒介する唯一の手段であったという「独占」が終わりつつあるということです。価値を保存・交換・測定する手段は私たちがいつも使っているお金である必要はなくなっています。

 (中略)

 手段の多様化により人々が注力するポイントが「お金」という手段から、その根源である「価値」に変わることは予想できます。価値を最大化しておけば、色々な方法で好きなタイミングで他の価値と交換できるようになっていきます。「価値」とは商品のようなものであり、「お金」とは商品の販売チャンネルの1つみたいなものです。

(佐藤航陽著『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』Kindle版 No.1457より)

 たとえば、もしその瞬間に貯金が少なくても、10万、100万人単位でフォロワーを抱える人なら、クラウドファンディングで容易に資金を募ることができる──というように。そういえば先日も、奄美大島のホテルの「フォロ割」が話題になりましたよね*3

 「フォロワー」という数値はお金に換算することが難しいものの*4、そこには “他者からの注目” という「価値」がある。何もしなければ「注目している人の数」に過ぎないそれも、場合によっては、人脈・お金・情報といった別の「価値」に変換することが可能になる*5

 今後はこのように、金銭として可視化された「資本」ではなく、資本に変換される前の「価値」を中心とした世界に変わっていくのではないか──。筆者は、この流れを「価値主義(valualism)と呼び、「資本主義(capitalism)」以外の選択肢のひとつになるのではないかと書いています。

 「お金を増やす」ことを追求してきた資本主義に対して、「お金」の価値が絶対とは言い切れない今。金銭化される前段階の「価値」を増やすことが、何よりも重要になってくるのではないか。「お金」になる前の「価値」を高め、それを「お金」以外の「価値」に変換する流れ。

 あらゆる「価値」を最大化しておけば、その価値をいつでもお金に変換することができますし、お金以外にものと交換することもできるようになります。お金は価値を資本主義経済の中で使える形に変換したものに過ぎず、価値を媒介する1つの選択肢に過ぎません。

佐藤航陽著『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』Kindle版 No.1560より

 とは言え、「価値」という表現もなかなかに曖昧でしっくりこない。

 そこで、筆者は「価値」を3つに分類。①有用性としての価値、②内面的な価値、③社会的な価値の3種類があるとして、資本主義の問題点を「①の有用性のみを価値として認識して、その他の2つの価値を無視してきた」点にあると説明しています。

「価値」の3分類
  1. 有用性としての価値:「役に立つか?」という観点から考えた価値。使える・儲かるといった「リターン」が前提となる。
  2. 内面的な価値:愛情・共感・興奮・好意・信頼など、個人の内面にポジティブな効果を及ぼすもの。
  3. 社会的な価値:慈善活動やNPOのように、社会全体の持続性を高めるような活動。

 つまり、これから来る(かもしれない)「価値主義」の時代においては、①よりも②や③を重視することで自身の「価値」が高まり、結果として、①だけを重視するよりも多くのリターンを得られるようになる──そう言えるのではないでしょうか。

 改めて考えてみると、小説でもイラストでもブログでもYouTubeでも、ネット上で何らかの創作・表現活動をしている人──特に第一線で活躍しているクリエイターである──ほど、その人がどこに「価値」を置いているかが明確であるように見える。

 誰かの役に立ちたいのか、儲けたいのか、人の心を動かしたいのか、はたまた社会貢献のためなのか。自分がなぜ創作に打ちこみ、どこを向いて、何のために表現しているのか。それがはっきりしている人ほど、多くの固定ファンがついているような気がする。個人的な印象に過ぎませんが。

 そして、ファンはそこに「好き」「共感できる」「おもしろい」といった「価値」を感じ、商品を買ったり投げ銭をしたりすることで応援するわけです。正の循環が巡るファンコミュニティも、小さな経済圏のひとつと言えそう。

 とは言え、今のところは「お金」を前提に回っている社会がまだまだ主流ですし、ブロックチェーンをはじめとする技術や、トークンエコノミーなどの経済圏が、どこまで広がるかも未知数。

 本文では評価経済に対する懸念なども示されており、なんだかんだで現状の資本主義経済が最適解なんじゃないかという印象も受けました。実際、仮想通貨関係の話題をTwitter上で追いかけてみると、「これだけ儲けた」「あの通貨は来る」といった話ばかりで、「実際に使ってみた」「こういう使い道はどうだろうか」という体験談・提案はあまり目にしないので。その点、モナコインはいいぞ

 また、「これでもか!」というくらい価値主義の魅力と可能性を書き連ねているこの本ですが、何も資本主義を全否定しているわけではありません。

 “本当に言いたいのは「複数のシステムは並存し得る」という点” とあるように、資本主義の欠点を補った、あくまで別の選択肢として、この価値主義を提示している格好です。

 現在の資本主義経済の中ではうまく居場所を作れない人も、全く違うルールで回るオンライン上のトークンエコノミーでは活躍できるかもしれません。また1つの経済の中で失敗したとしても、いくつもの異なるルールで運営される小さな経済圏があれば、何度もやり直すことができます。

(佐藤航陽著『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』Kindle版 No.1847より)

 ゆえに、本書が示しているのは「お金に縛られない生き方」ではなく、「お金・価値とは何か」を考え直すきっかけであり、「所属する経済圏は自分で選べる」という選択肢の存在。「お金」という当たり前の価値観を再考し、より根源的な「価値」の本質に迫ることができる1冊です。

 お金の稼ぎ方や価値の作り方をまとめたハウツー本ではなく、「価値」と「技術」を媒介に「社会」と「経済」を俯瞰する解説書。読んですぐに役立つ内容ではないものの、2018年現在の世界を動かすシステムのひとつを紐解き、今後の展望を予測した本として、おもしろく読めました。

 

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*1:※限定公開を主とする閉鎖的なSNSでないかぎり。

*2:前々からよく聞く考え方ではあるものの、テクノロジーの進歩や現代ならではの価値観の変化とあわせて説明されており、いわゆる「お金よりも大事なものがある」的な切り口とは異なる印象。

*3:参考:フォロ割 | 奄美大島 The SCENE

*4:こう書くと、人をお金に見ているようで嫌ですが。

*5:もちろん、何をもって “注目” されているかは人それぞれであり、必ずしも「価値」と言えるかは怪しいとも思います。