DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube
映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を観てきました。原作のテレビドラマは観たことがなく、前情報としてはCMとスタッフ陣をチラ見したくらい。「夏っぽいアニメ映画なら観るしかあるめえ!」という勢いで、映画館へ足を運んだ感じです。
感想を一口に言えば「個人的には好きなやつだ!」と言い切れるものの、具体的にどこが──と問われると、ちょいと言葉が続かなくなる感じ。
ただ、映画館を後にしてからしばらく時間が経過し、冷静になってくると、いろいろな感慨がわいてきたのもまた事実。で、実際に感想を書き出してみたところ、思いのほか印象に残った部分が多かったので、ざっくりとまとめてみました。
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アニメファンにはおなじみの制作陣によって描かれる「テレビドラマ原作のアニメ映画」
昨年末に発表され、ちょっと気になっていた本作。アニメーション制作はシャフト、総監督が新房昭之*1さんと聞いたら、そりゃあ気にせずにはいられない。公開されたメインビジュアルも、見るからに〈物語〉シリーズ*2を思い起こすものだった。
それもそのはず。同作の渡辺明夫*3さんが本作のキャラクターデザインを担当しており、スタッフ・キャスト陣も一部共通しているとのこと。メインの2人は俳優さんを起用しているものの、周りの声優陣がそれっぽい。……というか、ヒロインがガハラさん*4に見える……。
その一方で驚いたのが、本作が「テレビドラマを原作としている」という点。「アニメの実写映画化」なら、例を挙げるには困らないほど今や当たり前な印象もあるけれど、その逆はあまり思い浮かばない。
自分は『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に関しては、原作のテレビドラマはノータッチ。ただ、その監督が岩井俊二*5さんだと聞いて、「あ、ちょっと観てみたいかも」と心を動かされた部分はありました。『リリィ・シュシュのすべて』とか、結構好きなので(感想記事)。
そんな感じで気にしつつ、公開初日となった今日。とりあえず、あらすじくらいは予習しておくかー……と開いた公式サイトで、MVを観た。……あかん、すっごい好きなやつじゃん、これ。
しかも、このときは単に「公式MADだー! めっちゃ映像きれい!」と思いつつ観ていたこの動画。映画を観賞したあとに改めて観ると、また違った印象で受け止められるという、一粒で二度おいしいやつだった。これから観に行く人は、先にMVを観ておくと幸せになれるかもです。
「もしも」の空想ゆえに儚く鮮やかな、ひと夏の打ち上げ花火
で、実際のところどうだったのかと言いますと。冒頭にも書いたように、「個人的には好き!」であることは間違いございません。ただ、万人に勧められるかと問われると軽く躊躇するし、人を選ぶ作品であることは否めないんじゃないかなーと。
それは、新房さんの作品特有の「演出」という意味でもそうだし、全体を通して感じられる「物語の起伏」の有無という点でもそう。劇的な展開や人間関係のぶつかり合いを期待している人にとっては少々、退屈に感じられる展開なんじゃないかと思いました。
ただ、そもそもが「閉じた世界の物語」とも言えそうな作品なので、その辺は好みの問題かと。自分としては、海沿いの夏真っ盛りな情景描写はむっちゃ好みだし、男子中学生のアホみたいなやり取りはほかのどのアニメ作品よりもリアルに感じたし、繰り返される「もしも」のテンポも演出も印象深く刺さるものだったので。男性声優陣の迫真の「中学生男子」の演技がすごい。
そう、本作は「もしも」を中心に据えて描かれたひと夏の物語であり、「もしも」がキーワードとなっているのです。
劇中でも主人公が幾度となく叫んでいた「もしも」の言葉に、選択をやり直すため、繰り返すたびに大きく映し出される「if」のフィラメント。それに、舞台となっている街の地名からして「茂下(もしも)」ですしね。一瞬、茂原かと思ったら、まんま「もしも」で「安直か!」と。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告2 - YouTube
そんな「もしも」がテーマの本作は、いわゆる「タイムリープもの」として注目されている様子。Twitterで検索しても、タイムリープつながりで『時かけ』と比較して感想を書いている人が見受けられました。メインビジュアルにも「繰り返す夏休みの一日」と書かれているくらいだし。
ところが、徐々に冷静になってきたところで改めて考えてみると……「この作品、本当に “タイムリープ” しているの?」という疑問もわいてきたんですよね。
もちろん、劇中の描写としては、やり直し・繰り返し・巻き戻していることは明らかだし、選択によってその後の展開も変わっている。だけど、それが「時を遡って」のものなのかと言われると、微妙に首を傾げる部分もあったので。──これはむしろ、並行世界もの、なのでは?
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」予告3 - YouTube
というのも、主人公の行動によって「やり直し」が起こったあとの世界では、いくつかの事象が明らかに別のものに置き換わっていたから。現実にはありえない「打ち上げ花火」の表現もそうだし、「こんな世界はおかしい」的な台詞も何度か挿入されていたはず。
そうだとすれば、劇中で起こっていたのは時間を逆行するタイムリープではなく、近似の並行世界への跳躍だったのではないだろうか……と。あるいは「空想世界」「可能世界」的な何か。そのように考えると、ラストシーンも解釈しやすくなるので。なぜ、 “いない” のか。
DAOKO × 米津玄師『打上花火』MUSIC VIDEO - YouTube
そのうえで本作を、「どうあがいても結末は変わらない、でも『もしも』の可能性を繰り返すことは可能な箱庭世界の、ひと夏の青春物語」と捉えてみると……むっちゃ切ない話じゃないっすか。途中、「『銀河鉄道の夜』っぽい」と思ったら、原作のモチーフがそうなのだとか……?
夢みたいにきれいで色鮮やかな打ち上げ花火も、それが空想のものだから。そう意識して見ると、ただでさえ夏の思い出とノスタルジーを感じさせる「花火」の存在が、余計に儚いものとして感じられる。途端にキャラクターたちが愛しく思えてくるし、より一層MVが素敵に見えるのです。
ほかにも、「メイン2人の素朴な演技が中学生然としていてよかった!」とか、「どこぞの狂気のマッドサイエンティストじみたイケボの悪友キャラが好みだった!」といった感想もありますが、長くなりそうなので以下省略。
そんなこんなで、振り返ってみれば、これだけの感想がこみ上げてくるくらいには魅力的かつ印象的な映画でございました。もう一度観に行くか……と考えると躊躇われるものの、気になる部分がちらほらあるのは事実なんですよね……。
また、観客の年齢層は意外に幅広く、カップルはもちろん、中学生の男子グループやJK2人組、さらにはシニア夫婦の姿なども見受けられてびっくり。評価ははっきりと二分されているようではあるものの、個人的にはおすすめしたく思います。よかったら、ぜひ。
「横から見る」という選択肢は排除されていた。 pic.twitter.com/78ZwH5idXq
— けいろー (@Y_Yoshimune) 2017年8月18日
© 2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
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