昨年、ふらっと入った書店で見かけて気になり、珍しくジャケ買いしてしまったマンガ『なでしこドレミソラ』。
自分にも縁のある「和楽器」が題材ということで共感できる部分も多く、いま楽しみにしているマンガのひとつです。「音」の表現がすんごい素敵なんや……。
そんな『なでソラ』の2巻が、本日発売。
ひとまずは電子版を購入し、先ほど読了したわけですが……いやー、たまらん! 和楽器が奏でる「音」と演奏シーンの描き方はやっぱり素敵だし、2巻で新たに掘り下げられたキャラクター各々の背景や関係性も魅力的。あたたかさがじんわりと熱を持って感じられるような、最高の読後感でした。
──というわけで、ざっくりと感想をば。
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色とりどりの和柄によって描かれる「音」の描写
『なでしこドレミソラ』においてまず欠かせないのが、劇中での美しい「音」の表現。
“ガールズバンドもの” ということで、作中ではしばしば楽器の演奏シーンがあるのですが……その和楽器が奏でる「音」の姿形がおもしろい。
多くのマンガで見られる擬音・文字などは極力使わず、勢いや疾走感を表すのに欠かせない集中線すらも多くの場面で排除して表された「音」。
揺蕩うような曲線と雅やかな和柄でもって描かれるそれは、「和楽器」ならではの個性と魅力を可視化した雅やかな表現となっています。
2巻でもこの「音」の描写は変わらず、むしろパワーアップしている印象まである。
たとえば、1巻では楽器の「種類」だけでなく「奏者」によっても、異なる形で音色が描かれていました。
三味線初心者の主人公・美弥の奏でる音は、どことなく曲線が不安定だったり、ささくれ立っていたり。一方でプロが奏でる音は、安定した線でありながら抑揚も感じられる曲線として描かれている(ように見える)という、そのような違い。
また、前者は少ない種類の柄で描かれているのに対して、後者は市松、菱菊、青海波といった多種多彩な和柄で表現されているようにも見えました。
実際、まだまだ初心者の域を脱しない美弥も、1巻と2巻とを見比べてみると上達の兆しが見受けられておもしろい。
上のコマだけを見ても “ささくれ” が1巻と比べて減っており、音の波間に浮かぶ “花” の数が増えている──ように見えます。これは……「抑揚」や「感情」の表現なのかしら?
個人的に好きなのが、この1ページ。
引っ込み思案であがり症ぎみの女の子・香乃が琴を奏でながら独白するシーン。ちょっとうまく言語化できないのですが……「音」の表現と「台詞」のふきだしとのバランスが好きです。
和柄として背景を流れる洗練された琴の音色と、その波のまにまにポツポツと落とされたふきだしの台詞。
小分けにされた自信なさげな小さな台詞のふきだしが、雅やかな琴の音色に乗せて描かれることで、異なる2つの「音」の表現が視覚的に交わるだけでなく、香乃自身の意志の強さと説得力を生んでいるような印象を受けました。
ほかにも、今回はメンバーがそろったことで「合奏」の表現などもあり、より一層「音」を目で見て楽しめる内容になっているものかと!
同じ「好き」を追いかける、あたたかい関係性
他方で、肝心のストーリー面ではバンドメンバーがそろい、各々のキャラクターと関係性が掘り下げられていた2巻。
まだ若干の距離感を残しつつも繰り広げられる仲睦まじいやり取りは、見ていてすんごい癒される。デフォルメ含めて表情豊かに描かれる女の子たちは、みーんなかわいい。癒やし。高校デビューによって見た目はギャル化したけれど根は真面目で不器用な主人公……いいよね……。
そんななか、表紙にもなっている尺八っ娘・陽夜の背景と意識の変化には、どことなく過去の自分ともつながる部分があって共感させられてしまった。
転勤族ゆえの孤独感とか、「好き」に対する向き合い方とか、仲間と「好き」を分かち合えることのかけがえのなさとか。
そもそもの立ち位置としては、主人公である美弥を和楽器の世界に連れこんだ張本人であり、見るからに天真爛漫でアクティブかつポンコツな彼女。
自身の演奏を憧れの人から「もったいない」と指摘されたときにも、キョトンとした顔で悩みはしても極度に落ちこむことはない、マイペースながら前向きな性格だとわかります。
どこかひねたキャラクターが多い(※個人のイメージです)「転勤族」という属性を持っていながら、持ち前の明るさと自由奔放さでもって乗り越えていく彼女。元転勤族としては、その明るさになんとなく浄化された──というか、勇気づけられたような気持ちになったのでした。
多分、 “バンドもの” の読み方としては間違っているのでしょうが……。
でも、そんな明るさを持った陽夜と、同じく和楽器という「好き」を見つけて夢中になる美弥の2人が、この作品全体の雰囲気を左右している部分もあると思うんですよね。ほかにメンバーが増えつつも、同時に2人の関係性が深まったことで、作品から受ける印象もちょっと変わった感じ。
ただかわいらしいだけじゃなく、キャラクターたちが育む関係性にもしっかりと「熱」が感じられ、読み終えたあとにはあたたかさすら感じるという。
最後、読みながら抱いた感情がそのまま見開きページの台として目に入ってきて、これはもうたまらんなあ……と。
つまりは何が言いたいかって、「『和楽器』の要素にホイホイされて読みはじめたマンガだったけれど、キャラクターの関係性や展開も含めて大好きになってしまったので最後まで絶対に読もう!」という話でございます。
「好き」を追いかける青春マンガは数あれど、わずか2巻時点でこんなにも感じさせられることはあまりなかったので。
──とまあ変に熱が入ってしまいましたが、和楽器好きはもちろん、バンドもの全般や部活マンガが好きな人にもおすすめの『なでしこドレミソラ』(もしかすると、百合クラスタにも……?)。気になった方はぜひ読んでみてください!
© みやびあきの/芳文社