旅行が好きです。
なぜって、そりゃあ気心の知れた友人と遠出するのは楽しい。よく知る仲間と過ごす、よく知らない土地での非日常。それは、年に数回と経験できない素敵なひとときでござる。
昼間はわいわいと観光地をめぐり、夜はぐだぐだと酒に郷土料理に溺れる。そんなことができるのも、ちょっと特別な “非日常” である旅行中ならでは。布団に潜ってからもすぐには眠らず話し続ける、あの修学旅行のような楽しさは、大人になっても変わらない。
──でも、ひとりぼっちだって、悪くない。
そう、僕は一人旅が好きだ。大好きだ。予定は未定、目的もなくふらふらと見知らぬ街を歩く、自由気ままな非日常。そんな、ひとりならではの旅情もまた大好きだ。
次の目的地を誰かと相談する必要はなく、風の吹くまま気の向くまま、どこへ行こうが自分の勝手で自己責任。うっかりバスに乗れずとも、怒る同行者の存在はなく、「それなら歩けばいいじゃない!」で間髪入れずに一歩を踏み出せるお気楽感。
人ひとりの全身で受け止める見知らぬ街の雰囲気と空気は、何物にも代えがたい。それは文字どおり “等身大” の刺激的な体験として、己の記憶にのみ記録される。──もちろん日常に戻ったら、自分なりに感じたこと考えたことをブログにまとめたって良いわけですし。
──というわけで前置きが長くなりましたが、そんな「一人旅情の魅力」をどことなく感じられるマンガ『ぱらのま』を読みましたので、ざっくりと感想をば。
「一人旅あるある」に共感する
きっかけとなったのは、Twitterでふと目に入ったツイート。もう2年はろくに遠出もできていない自分だけれど、それでも思わず「わかるわ」と共感してしまったマンガのワンシーン。それがこの、『ぱらのま』のものでした。
至言すぎる。 pic.twitter.com/hOckRWoJnA
— クローン社畜 (@shachiku_slyr) 2017年2月5日
そうそう、旅先ではいつも以上に財布の紐が緩み、ちょっとでもビビッときたらお金を払ってしまうもの。それこそ「買って応援」ではないけれど、自分の手の届く範囲で貢献したくなるのです。
……などと言いつつ、僕の場合はほとんど自分のためなんですけどね! お酒が飲みたいから、おいしいものが食べたいから、せっかく遠くまで来たのだから、そうすることで自分が満足したいからこそ、スッと懐から財布を取り出すのです。ビバ! 自己満足!!
でも振り返ってみるとたしかに、旅館のサービスが良かったがために「本当は帰りがけに駅で買うつもりだったけど、こっちにしよう!」などと、フロント前のおみやげコーナーで買い物をしたことは少なからずあったかもしれない。お夜食も買えるしね! 缶チューハイ&お菓子もぐもぐ。
加えて、自由な一人旅なればこそ、その場のノリと勢いでお金をガンガン使っていきたいという思いも。同行者がいると、どうしても周りに合わせた(消費)行動に終始しがちだけれど、ぼっちならばそれも関係なし。自由に消費し、自由に散財し、時にはおみやげのつもりで買ったお酒を、その晩の宿泊先で飲んでしまってもいいのだ! ヒャッハー!!
kashmir『ぱらのま』(1) P.36より
そして、ノリと勢いでお金を使うことがあれば、その逆もまた然り。
あえての途中下車、あえての徒歩移動、さらにはあえて迷い人になる──などなど、道草&まわり道はドーンと来い! それもまた、一人旅の醍醐味でございましょう。……べっ、別に方向音痴なわけじゃないんだからねっ! 自ら進んで、あえて迷ってるだけなんだから、勘違いしないでよねっ!
ともあれ、本作『ぱらのま』は主に「鉄道旅」をテーマとして扱いつつ、同時に「一人旅」を描いた作品でもあります。自分のように電車に詳しくない人でも、純粋に「一人旅あるある」として共感しながら(ツッコミながら)読めるマンガ。ぼっち旅はいいぞ!
週末はふらっと電車に飛び乗りたくなる
kashmir『ぱらのま』(1) P.44より
実際にパラパラと読んでみると、この「神社」の話とかすっごいよくわかる。
僕自身、旅先では山やら丘やらに登って、かるーくハイキングに興じることがしばしばあるのですが、どこにもたいてい大なり小なり「社」がある。見かけたら欠かさず立ち寄るようにしており、あらかじめお賽銭用の小銭を用意しているくらいなので、共感しました。
気づけばそれが習慣になっていたので、特に何かに影響されて──というわけではないと思う。ただ、強いて言うなら、ある土地をふらっと訪れた自分は「よそ者」であり、見方によっては異物でしかないんじゃないかと。だからこそ、最低限の礼儀は示しておこう……と考え、お参りしているようなイメージです。相手が人だろが神だろうが土地だろうが、挨拶はたいせつ。
kashmir『ぱらのま』(1) P.110より
他方では、各路線の沿線ぶらり散歩にはじまり、路面電車に難読駅名、さらには上記のような小ネタもございます。なんとなく、友達と居酒屋でダベっているなかで出てくる小話のようで、読んでいて楽しい。池袋……ライバル型……リーゼント……ヤンキー……カラーギャング……。
また、全体を通して読んでいて思ったのが、本作ならではの魅力として、各話における「旅先」の描き方があるんじゃないかと。何と言うか、訪れる街はあくまで一要素でしかなく、その土地土地の魅力を「おすすめポイントォ!」としてむやみに前面に出していない印象。
もちろん、「この街にはこんな観光スポットがあり、こういう名産があり、こういった魅力がありますよ」と端的には示しているものの、その紹介がメインかと言うと、そうでもない感じ。どちらかと言えばその道中、「移動中の景色」や「旅の楽しみ方」に焦点を当てているイメージです。
kashmir『ぱらのま』(1) P.88より
こちらの地図の見方なんて、まさしく。
我が身を振り返れば、ハンディサイズのガイドブックを持ち歩くことはたまにあれど、最近はいつもGoogleマップのお世話になりっぱなし。地図を眺めてあれこれ考えることがすっかりなくなっていたため、興味深く読めました。今後、旅先で地図を眺めるときには意識して見てみよう。
考えてみると、こうした「街の見方」って、一人旅ではなかなか培うことが難しいものなのかもしれない。ある意味、 “一人” であることのデメリットと言えるかしら。
それこそ誰かと一緒なら、複数の視点で街並みを眺めつつ、やれおもしろい看板があった、やれ猫がいただのとお互いの気づきを “報告” することができるけれど、一人だとそれは叶わない。自分の目で見た風景しか記憶されず、旅先で得られる情報も限られてくる。
“一人” の知識と目線でしか認識できないからこそ、目に入る風景や道中の出来事を存分に噛み締めて味わえる一方で、それを同時に別の角度から見ることは難しい。なればこそ、本作のように「一人旅」の楽しさや歩き方を教えてくれる作品が生きてくるのではないかしら。
言うなれば、本作は「一人旅」が好きの人の指南書ともなりうるもの。単なる交通機関・移動手段にとどまらない「鉄道」の魅力や歴史を知ることができたり、旅先でぶらっと歩くにしてもその道中をより楽しくする「歩き方」を示してくれたり。
ノリと勢いであっちゃこっちゃへと飛びまわる、自由闊達な “残念系お姉さん” の主人公に導かれ、週末はふらっと電車に飛び乗り、思わずどこかへ出かけたくなる素敵なマンガでございました。身近な “非日常” としての小旅行気分を味わいたい人に、おすすめの作品です。
© kashmir 2017