1年ほど前に、『やがて君になる』というマンガの感想を書きまして(参考リンク:初めて読んだ百合漫画『やがて君になる』が好きすぎてハゲそう)。当時はまだ1巻しか発売されていなかったものの、並々ならぬ衝撃を受けた作品です。なるほど……これが、百合……っ!
そのときにブログで書いた感想では、語彙が貧相になりながらも「いいぞ……」と息も絶え絶えに作品に対する想いを綴っておりました。で、そのコメント欄で「じゃあこれも読んでみそ?」といくつかのマンガをおすすめしていただいたのですが、そのうちのひとつを昨年末に読みまして。
それが本作、『ななしのアステリズム』です。
もう1巻の1話時点で「ほげえええええええええええ!!??」と好みの展開に悶絶し、既刊4冊を読みきったあとには完全燃焼。
灰も残らぬほどに燃え尽き、「もうやだ……辛い……でもわかる……共感できちゃう……そしてみんなかわいい……尊い……癒される……だけど辛い……どうか……どうか幸せになって……」などと、これまた語彙を喪失して突っ伏していたのでした。ちくしょう……最高かよ……。
結果、「あまりに好きすぎて感想が書けない」という状況に陥ってしまい、年始のおすすめマンガの記事で取り上げるにとどまっていたのだけれど……(参考リンク:【2016年発売or完結】最近読んだおすすめマンガのまとめ(ラブコメ多め))。それなりに冷静になってきたので、ざっくりと感想をば。
仲良し女子中学生3人組の片思いトライアングル
『ななしのアステリズム』は、ガンガンオンラインで連載中のマンガ。中学高校時代はジャンプでもマガジンでもサンデーでもなく『ガンガン』を読んで育った自分としては、それだけで「あ、肌に合いそう」となんとなくビビっときた。(出版社としての)スクエニ作品はいいぞ。
ところがどっこい。冒頭にも書いたように、本作の魅力はその想定を遥かに上回っていた。 “肌に合う” なんてチャチな話じゃない。自分の好み直球ドストレートがストライクゾーンド真ん中に突き刺さるどころか、そのまま鳩尾にめりこんで背中へ貫通、ついでに不意のアッパーカットの追撃を食らったような面持ち、読後感でございました。哀れ読者は跡形もなく爆発四散! わぁい! むしろ本望だ!!
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.3より
『ななしのアステリズム』で描かれるのは、仲良し女子中学生3人組の友情と、その背後で各々が抱え交差する “秘密” の行方。どうあがいても泥沼にしかなりえない恋慕の大三角形を中心に、その外にありながらも少なからず関わってくるイケメン男子と女装男子を含めた5人の物語です。
メインとなるのは、男勝りで天真爛漫、とにかく元気で明るい黒髪ロングのボーイッシュ娘・白鳥司と、3人のなかでは “イマドキ女子” な印象が強い恋愛大好きゆるふわ女子・琴岡みかげ、そしてクールで冷静沈着かつ高身長のスタイリッシュ美人・鷲尾撫子。
周囲も認める仲良し3人組、親友同士である彼女たちが、本作の主要キャラクターとなっています。司の天真爛漫っぷりは、個人的にも大好きなキャラ造形。ボーイッシュ元気っ娘、いいよね……。主人公としてもヒロインとしても、見ているこっちが元気になるタイプ。
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.35より
しかし、3人には各々に “秘密” がある。そもそもの3人の出会いからして、何の因果か、偶然に巡り会った彼女たちが、その邂逅の場面で、別々の誰かに恋心を抱く――という、実は思いのほか複雑な関係性。意識しなければ、ただの仲良し3人組……なのだけれど。
お互いに胸の内は知られていないし、周囲からも円満な女子グループにしか見えない。けれどその実、3人のあいだを飛び交う “恋” のベクトルを覗いてみると、そこには決して交わらない片思いの三角形が。司は撫子が、撫子はみかげが、みかげは司が好きという……泥沼の予感しかねえ! わぁい!
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.12より
しかしそれも、序盤わずか10ページ程度で明らかに。司が、撫子のみかげに対する想いを知ってしまうという――見方によっては、間接的な失恋である。それでもなお “友達” として撫子を慮り、果ては恋の応援までしようとする司。さすがの主人公だ……イケメンだ……。
とはいえ、それもバレた “秘密” のひとつに過ぎず、司の撫子への想いと、みかげの司への想いはまだ知られず。その一方で、実際は裏で勘付いている部分もあり、さらには “勘付いている” ことを知っているような描写もありと、どうも一筋縄ではいきそうにない複雑なトライアングル。
それが、本作の魅力のひとつです。
思春期ならではの“好き”と“友達”、名前のない感情の行方
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.205より
それと忘れちゃいけないのが、少なからず3人の関係性に影響を及ぼす2人の男子の存在。2人ともに他校に通う男子生徒で、ひとりは司に告白したさわやかイケメン眼鏡・朝倉恭介。もうひとりは、司の双子の弟・白鳥昴。この2人も加えた “5人” が、本作の主要人物と言えるかと。
特に恭介に関しては、司を揺さぶり「好き」の感情を考えさせるような役割のキャラクターなのかと思っていたら、その後も物語にガッツリ関わってきたから驚いた。過去に何らかのトラウマ(?)を抱えているような節もあり、昴との関係性も含めて今後の動きが気になるところ。
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.108より
そして “双子の弟” という、作品によっては独特の関わり方をしてきそうな立ち位置の彼、昴。姉の女装をするほどに開き直った重度のシスコン、かつ恋愛感情としての「好き」に嫌悪感を覚えているという、一癖も二癖もあるキャラクターでござった。自分としては大好きなタイプでひゃっほい。
他人にそういう意味で好かれるって
(小林キナ『ななしのアステリズム』(2) P.177より)
気持ち悪いよ 普通
恭介にとっては想い人、昴にとっては大切な姉である、司に関わる形で男子2人が何らかの役割を果たしていくのかと思いきや、そうでもなかった。むしろ2人は女子3人の関係性に影響を与えつつも、彼らも別個に悩みを抱えており、本作のテーマ自体にも深く関わっているように見える。
そもそも本作は「ピュアな青春ハートフル・ラブストーリー」(by 公式サイト)を謳いながら、そこで描かれる人間模様は複雑であり、行き交う感情も多種多彩。「3人が仲良しでいるためにも恋心は隠さなければならない」「自分の想いを殺してでも好きな相手に幸せになってほしい」「早く普通に男の子を好きになって自分を諦めさせてほしい」――などなど。誰もが何らかの秘密を抱き、言葉にできない想いを胸に秘め、それでも何かを願っている。つらい。 “ピュア” と “ハートフル” な成分はいずこに……。
小林キナ『ななしのアステリズム』(2) P.86より
それでもなお読み返してみると、彼女たちの想いはやはり紛れもなく “ピュア” なものだと感じるのです。純粋な想いであるからこそ、それを隠さずにはいられない。 “友達” としての “好き” を続けるためにも、全員が幸せにならない想いは、普通じゃない恋心は、言葉にできない感情は、心の奥底に閉まっておかなければいけない――という。
考えてみれば、自分の内から湧き出た素直な感情―― “ピュア” な想いって、世間的な “普通” とは相容れないケースも少なくないと思うんですよね。いまだにタブーと考えている人も多い同性愛をはじめ、兄弟愛だってそう。自然に発露した感情や欲求は、容易に “普通” によって押し潰される。
そういったものを含め、嘘や嫉妬、破滅願望といったネガティブな感情ですら、本作中では純然たる “ピュア” な想いとして描いているように読めました。だからこそ、時に息苦しさを覚える “普通” に抗うかのように描かれた彼女たちの感情は読んでいて強く共感できるし、方向は違えど、誰かのためを想う登場人物みんなが魅力的に感じる。
小林キナ『ななしのアステリズム』(2) P.28より
小林キナ『ななしのアステリズム』(2) P.94より
普段は秘密にして胸にしまわれた恋心や、嘘で塗り固められ隠された感情。そんな “ピュア” な想いがふとした瞬間に出てきてしまう、これらシーンの甘酸っぱさと切なさがたまらない。そして、なんだかんだでやっぱり仲良しな3人のやり取りは、見ていて最高に癒される。
良くも悪くも純粋な中学生。「面倒なことにならない……?」と不安になったり、「ぶっ壊しにかかるのはやめてくれよ……」と戦々恐々としたりしながら読みつつも、その背後にある感情は理解できるから、共感してしまえるから、誰も憎めないし、愛おしいし、かわいらしい。なんかもう、「お前らまとめて幸せになれよばーかばーか!」と何度も叫びたくなる作品でございました。
小林キナ『ななしのアステリズム』(1) P.241より
というわけで、最近は個人的に「極上だ……(昇天)」と感じられるラブコメマンガが多すぎて、いい加減に語彙力が死にかけている今日このごろ。そんななかでも特に悶えまくった大好きな作品が、この『ななしのアステリズム』でございました。
全話を読むことはできないものの、最初の1、2話と最新話がウェブ上で閲覧可能なので、ちょっとでもビビッときた方はぜひに試し読みしてみてくださいな! ちらっと最新話を覗いたら、アレがコレな感じだったので、5巻が楽しみでならないぜよ……(参考リンク:ななしのアステリズム | ガンガンONLINE | SQUARE ENIX)。
© 2016 Kina Kobayashi