樋口裕一さんの『文章力の鍛え方』を読みました。ざっくりと、その感想をば。
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モノを書くには、「思考力」を鍛えなければならない
さて、見るからにデカデカと「文章力」の文字が踊る本書、『文章力の鍛え方』。さぞや実践的な知識と執筆術がまとめられているのかと思いきや、そのような、いわゆる「文章術」の話題はメインとなっておりません。あくまで、コンテンツのひとつ。
具体的な内容としては、「小論文」と「作文」の違い、読者を飽きさせないための文体、表現技法、語彙力の鍛え方、主語述語の並べ替えをはじめとする構文の知識──などといった、「文章力」の記述が見受けられます。ですが、それだけではありません。
文章で書こうとすると、しっかりとものごとを考えます。普段、深く考えないことや見えないことも、書こうとして考えるからこそ見えてくるのです。そして、実際に書こうとしてこそ、論理的にものごとを分析できます。
そうしてこそ、しっかりした話もでき、論理的な会話ができるようになるのです。会議での発言も、文章を書けるようになってこそ、自信を持ってできるようになるでしょう。
曰く、 “文章を書くということは、根拠を明確に発信すること” 。
論理的思考は、文章力を鍛えることによって培われる。文章を書くためには、根拠を明らかにした思考法が必要となる。
どちらが先というわけでもなく(強いて言えば「思考」が先ですが)、両方の活動を意識的に継続してこそ、経験に裏打ちされた「文章力」が身につくようになるのだ、と。
そのように、はっきりと文中で明言されているわけではありません。ですが、「文章力」を会得するには前提となる「思考力」を鍛える必要があり、それを文章に落としこむことで「思考力」も同様に訓練される──自分の目では、そのように読むことができました。
日々の生活の中で多彩な視点を持つことで、思考力を叩き上げる
本書は全4章から構成されており、各章の文中では小見出しとして、全体で65個もの「論」に分けて説明されています。
例えば、第1章の見出しを見ると、
- 論5 「そうとはかぎらない」という視点をもつ
- 論6 「あの人ならどう考えるか」と想像する
といった、文章表現以前の「多角的な視点」に関する指摘から始まり、
- 論12 言葉の「定義」をしてみる
- 論18 「定義」から「対策」にたどりつく
のように、徐々に「論理」の構成方法を解説したうえで、
- 論24 意識して上手に質問する
- 論27 会議では必ず反論か補足を行う
──このような形でもって、論理の先にある「コミュニケーション」にまで踏み込んだ後に、続く第2章「表現力」「描写力」の話へとつなぐような構成になっております。
ぶっちゃけ最初は、「どこが文章力やねん! ……いや、議論方法の話とかはおもしろいっちゃおもしろいんだけど、『論』が多すぎてブレブレになってね?」なんて考えながら読んでいたのですが……。
でも最後まで読み終えたうえで、改めてざっと追いかけてみると、「文章力」以前の「思考力」を読者に自然と意識させ、学ばせるような展開になっているようにも読めるんですよね。それも、身近な日常生活の話題から具体例を出しており、とてもしっくりくる内容。
ただ、「論」が多すぎるために、若干の矛盾をはらんでいるように読めるのも事実。「決めつけずに掘り下げて考える」の次に、「まず口に出して言ってしまう」という項目が飛び出してきたときには、軽く面食らった。
とは言え、それも「考える力」を鍛えんとするための “複数の視点” を持つための訓練と考えれば……まあ納得のいくものなのかな、と。序盤部分は論点があっちゃこっちゃにいくので、良い具合に頭を揺さぶられるような感触でございました。
ある程度は「文章力」や「思考力」が備わっている人に対しても、「こんな視点で考えてみてはいかが?」と提案するような導入として、思いのほか刺激的な内容だと言えます。
あの頃の「先生」と、数年ぶりに出会う
冒頭の話に戻りますが、そもそもどうしてこの本を読もうと考えたのかと言うと、「この筆者の書いた本を過去に読んだことがあった」という理由があります。
それが、『ホンモノの文章力』と『ホンモノの思考力』の2冊。いずれも高校時代だか大学時代だかに読んで、「なるほどなるほどー!」なんて言いながら参考にしていた覚えがあります。どちらも本書『文章力の鍛え方』の筆者である、樋口裕一さんの著作です。
それに気づいて、ふと思ったんですよね。「当時は何の疑問もなく読み切った本だけど、大人になった今、同じ作者さんの本を読んだらどのように感じるんだろう?」と。
言うなれば、過去にお世話になった “先生” に、現在の自分の知識と価値観でもって挑むような感じ。すんなりと読み切ることができるのか、はたまた昔は浮かばなかった疑問やツッコミが出てくるのか。本書のテーマも、既刊と共通するものであるように見受けられましたし。
結果としては、「既知の内容が占める割合も大きかったけれど、納得・共感できる部分も同じく多かった」といった読後感。──そりゃあ当然、過去作を読んで得た知識が身についていれば、新鮮さは薄れるのでしょうが。
でも、ただただ鵜呑みにして受け入れるだけだった当時と比べれば、「ほんまか?」「せやろか?」とちょいちょい疑問を挟みつつ、意義ある読書ができたのではないかと思います。普段とはちょっと違った読み方ができて、おもしろかった。
今となって考えてみると、既刊で示されていた「文章力」は、型にこだわりすぎていたようにも感じられます。対する本作では、小論文のみにとらわれない、「ブログ」による文章力の鍛え方も示されており、既刊の発展版のような内容となっていたのではないかと思います。
自分の考える「文章」の価値観との摺り合わせをしつつ、学びのある部分は学び取る。細かく分けられた見出しの構成を見ても、容易にそういった読み方ができる、読者各々が価値を見出だせる1冊であるように感じました。よかったら、手に取って読んでみてください。