「仕事旅行」で日本語教師になってみた!


 先日、最近話題の体験型サービスの中から、『仕事旅行社』さんを利用させていただきました。少し前の話になるので、忘れてしまっている部分もありますが、せっかくなので、そのレポートを簡単にまとめてみようと思います。

※旅先の担当者さんから掲載許可をいただいております。

 

「仕事旅行」って?どうやって応募するの?

 株式会社仕事旅行社さんが提供する「仕事旅行」は、一口に言えば、さまざまな職業を体験することができるサービス

 掲載されている職業は、驚くほどに多種多様。神主、占い師、作詞家、鍛冶屋、パティシエ、ピアノ調律師、特殊メイクアーティスト、イルカトレーナー……と、本当になんでもあり。

 幼いころに夢見た憧れの職業だったり、聞いたこともないような専門職だったり。あまりにいろいろありすぎて、選ぶのにも目移りするレベルじゃないかと思います。神主にもなってみたいけど、バーテンさんも楽しそう……ぐぬぬ。

 そんななかから今回選んだのは、「日本語教師になる旅」。ブログでもたびたび書いていますが、純粋に「ことば」に興味があったのと、外国の方と話す機会が普段なかったので。僕らが当たり前に使っている「日本語」は、いったいどのように教えられているんだろう?

 サイトを見ていただければわかるかと思いますが、応募の方法は簡単。希望する「旅行」のページから日程を確認した上で、画面下部の「この旅を予約する」から必要事項を記入して予約するだけ。

 そうすると確認のメールが送られてくるので、そちらに従って参加費を口座振込みすれば、あとは当日を待つのみ。どきどきわくわくの旅行が待っております。

 

旅行当日!

 そして、旅行当日の朝9時半。半日のあいだお世話になる日本語学校に到着すると、既に他の参加者さんもほぼ集まっておりました。

 その日の体験者は、僕も含めた5名。担当者の方(もちろん現役の日本語教師さん)がいらっしゃったところで、お互いに自己紹介と、参加目的を発表。

 みなさん会社員ということで、無職の僕は若干の居心地の悪さを感じつつも、簡単に挨拶をば。他の方の話を聴くと、「日本語教育に関心がある」「教育系の仕事の参考にするため」など、さまざま。な、なんか興味本位ですみません……。

 全員の自己紹介が終わったところで、担当者さんから当日の流れを説明。

 午前中は、業界の実情や具体的な仕事内容について講義していただき、その後、授業中のクラスを見学させてもらえるとのこと。

 お昼休みを挟んで、午後はいよいよ仕事の体験。アシスタントとして授業に参加し、生徒のみなさんとお話させていただくことになります。

 

「日本語学校」ってどんな場所?

 そんなわけで午前中は、日本語教師と日本語教育、そして日本語学校について講義していただきました。一方的に話を聴くのではなく、たびたび質問を投げかけていただき、僕ら参加者も考えながら学べる形。さっすが、現役の先生です。

 お話いただいた内容としては──詳しくは省略しますが、授業時間やクラス編成、在籍生徒の国籍など、学校のアウトラインに始まり、具体的な教育方法*1、学校で育まれる文化、多国籍コミュニティで生まれる価値観と問題点などなど、非常に多岐にわたる内容をわかりやすく教えていただきました。

 特に印象的だったのが、今回おじゃました日本語学校は「中学校的な雰囲気」を持っていて、かなり密な人間関係が形成されているというお話。

 「語学学校」というと、どうにも予備校的な、ビジネスライクな距離感のもとに運営されている場所、という勝手なイメージがあったのですが、実際は全く逆。授業外ではクラブ活動が活発で、学校内に限らず、生徒さんの私生活に関してもアドバイスをされているという話でした。

 特に東南アジア系、マレーシアやベトナムから来た生徒さんに関しては、文化・価値観の違いから困ることも多いそうな。そこで学校側もアルバイトの斡旋をするなど、できるだけの助力をするよう心がけているというお話でした。

「世間的に見れば、『ブラック』と呼ばれる仕事なんでしょうね」

 担当者さんは苦笑いしながら、そうも仰っておりました。

 授業を受け持つだけではなく、生徒一人ひとりに合わせた指導法を試行錯誤したり、宿題を添削したり。そのくらいであればまだ予備校レベルですが、それに加えて、休日の課外活動やイベント、さらには生活の手助けなど、本当に大変そうな印象を受けました。

「たまに面倒だと思うこともあります。でもやっぱり、楽しくて辞められないんですよ」

 昼休みの時間帯、生徒さんと一緒に食事をとる教師の方の姿もちらほらと見受けられましたが、みなさん、それはそれは楽しそうに談笑されておりました。

 嫌だ、かったるい、やってらんねー。大半の社員がそんなことを零しながら働いていた職場に勤めていた身として、その光景はとても眩しく、羨望すら抱くようなもの。生徒も教師も良い顔をしていて、「こんな職場で働きたい」「こんな先生に教わりたい」と思えるような空間が、そこにはありました。

 

紫式部、天照大御神を語る外国人

 学校に関するお話を聴いた後は、教室へ移動して、授業見学。

 まずは中級クラス。コの字型に並べられた机に、20人未満ほどの生徒さん。テキストを参照しつつ、教師の方がホワイトボードに日本語を書いて、それをより簡単な言葉で説明。例文を挙げ、生徒さんに音読を促すような形で進められていました。

 日本の「一般的な学校」の授業と異なように感じたのは、その双方向性と積極性。打てば響くように教師と生徒の間で言葉が交わされて、途中でわからないことがあれば、すぐに発言。

 「それってつまり、こういうことですか?」「この言葉も同じ意味ですか?」などなど、誰もが積極的に発言し、非常に活気のある授業風景が広がっておりました。

 担当者さんによれば、コの字型の机の配置も、生徒の発言を促すためのものらしいです。隣り合う生徒さんが言葉の意味を確認するような光景も見られ、全員が全員、勉強熱心に学んでいるような印象を受けました。

 あとおもしろかったのが、語彙力の豊富さ。僕ら体験者と並んで、教室の隅で授業風景の写真を撮っていた担当者さんがフラッシュを焚いてしまったところ、「パパラッチだ!」と生徒さんが突っ込んで、周囲に笑いが広がっていました。どこで覚えたんだろう。

 続いて見学したのは、上級クラス。日本の偉人(?)*2について調べたものを、発表している最中のようでした。

 こちらもこちらで、びっくり。さすが「上級」だけあって、生徒さんの多くがペラペラ。少し聞いていて不安のあるイントネーションではありますが、もう自然に会話のできるレベル。すごい。

 さらには、その発表内容がこれまたすごい。ちょうど中国出身の生徒さんが「紫式部」についての発表をしている最中だったのですが、思った以上に詳細な説明だったのです。

 それは、白板にイラストも添えつつ、外国の方が日本の「もののあはれ」を語る光景。なんだこれは……!「性格も悪かったし、いつ死んだかわからない」などとポップに笑いも取りつつ、とてもわかりやすい発表となっておりました。

 その次の生徒さんは、まさかの「天照大御神」。「日本神話じゃん!」「実在してんの?」なんて突っ込まれつつも、これまた簡潔明瞭な発表。

 ──というか、本当に表面的な知識しかなかった日本人たる僕からしても、むしろ勉強になる内容でした。……やばい。外国の方よりも日本を知らないとか笑えないっすよ! ちょっと古事記読んできます……。

 

アシスタントとして授業に参加!

 昼休みを挟んで午後は、いよいよアシスタントとして授業に参加することに。ちなみに昼休みは生徒さんも交えて、学校や勉強、日本についての話をしながら食事をいただいたのですが、長くなりそうなので割愛。むっちゃ楽しかったです。

 さてさて、中級、上級クラスと見学してきて、僕らがアシスタントとして入るのは、まさかの初級クラス。しかも「まだ入学して間もない生徒たちだから、がんばってくださいね☆」とのお話。ままままじっすか!

 具体的にはどうするかと言うと、3、4人ずつに分けられた生徒さんのグループに体験者が1人ずつ入って、コミュニケーションを取ってほしいということでした。

 テーマは、「私の国の食事」。それぞれのグループの中ではまず、1人ずつテーマに沿った内容を発表。ほかの人からの質問に答えつつ、日本語を使った会話の特訓をするというものです。そこに僕らも交ざって、同テーマの内容──つまり、 “日本食” を語る、というもの。

 参加前に担当者さんからいただいた助言は、「できるだけ簡単な言葉で話す」こと。生徒さんたちの多くはまだ日本語を学びはじめてから日が浅いので、簡単な、それでいてわかりやすい言葉を使いつつ、発音も明確に、ゆっくりとした口調で話すこと。……なかなかに難易度が高そうです。

 そしてもうひとつの助言が、「曖昧な表現はしない」こと。日常で使いがちな「そうかもしれない」「うーん、どうだろう」といった、曖昧な受け答えは避けてほしいとの話。答えは「はい」か「いいえ」。曖昧な答えでは生徒さんも混乱してしまうので、なるべく単純で明瞭な回答を心掛けること。

 そのような助言を心に留めつつ、サンプルとして日本の朝食の写真やおせち料理のカタログなどを貸していただき、いざいざ教室へ。こんなにどきどきしたのは、いつ以来だろう……。

 

平易な言葉で説明するのは難しい

 授業では、およそ20分ずつ、2つのグループで生徒さんたちと交流をしました。最初は、中国の女の子3人と韓国のお兄さん1人。続いて、別の韓国のお兄さんと、中国のお兄さん、アメリカのお姉さん。計7人の生徒さんと話しました。

 まず感じたのが、簡単な言葉で説明することの、想像以上の難しさ。

 例えば、おせち料理。「3つの箱に、食べ物が入っていて〜〜」から始めるのはいいけれど、個々の料理を説明するのが大変。指さしながら、「これは、魚で、これは、卵で……」と簡単に済ませればいいのに、さらにその由来まで説明しようとすれば、そりゃあもう大変。

 結局、「新しい1年の、はじめの日、お正月に、食べるもので、食べると、その1年を、幸せに過ごせると、言われています」的な説明をしたように記憶しています。……だ、だいたい合ってる……よね? うーむ、日本語って、難しい……。

 生徒さんも積極的に質問してくださったので、とても話しやすくはありました*3。最初の女の子たちなんかは、「中国にも、こういうのあるよねー!」という感じで和気あいあいとしながら一緒に説明してくれたので、話していて楽しかったです。

 しかし他方でまた感じたのが、聞く側に回ると、質問の仕方も難しい。

 「それは、何で、できているんですか?」と聞いても、まだ言葉をあまり知らないため、説明に苦労している様子。中国でも地域によってはまったく文化が異なるらしく、お互いに日本語で説明するのに苦労しているような光景も見られました。

 でも一方で、自分の知るかぎりの似ていそうな食べ物を挙げて、共通点を探そうとする作業はおもしろくもありました。お互いの共通項としての知識・単語を模索しつつ、「そうです! 餃子のようなものです!」といった形でようやく双方が納得できる感じ。

 あとはその流れのなかで、「好きな日本食」について話すのも楽しかったです。と言うのも、驚くほどにみなさん、ラーメンが大好き。やはり中国のラーメンとはぜんぜん違うらしく、いつもうまいうまい言いながら食べているとのこと。

 特に後半の韓国のお兄さんはものすごく積極的で、最終的には「お互いのおすすめのお店トーク」にまで至りました。新大久保のおいしい韓国料理店の名前を教えてもらったので、いつか行ってみるつもりです。

 最初は緊張していたのですが、次第に打ち解けてきて、気付いたら話すことに夢中になっている自分がいました。やっぱり、海外の方と話すのは楽しい。

 担当者さんから「わかりやすい表現で!」と釘を差されていたにも関わらず、最後のほうはほとんど地で喋っていたように思います。すみません……でも、それほどに楽しかったんですよね。

 

気軽に得られる、未知の体験

 終わってみれば、「本当に行って良かった!」と思える、素敵な体験となりました。教師の方の話も興味深い内容ばかりだし、生徒さんとの交流も非常に刺激的で楽しいもの。これまでは知ることも入ることもなかった「日本語学校」という存在に触れて、世界が広がったような気さえします。

 やっぱりどんなことでも、「体験しないとわからない」ものはあるように思います。実際にその場へ行って、そこで過ごしている人の話を聞いて、自ら交流・体験することによって得られるもの。普段は知り得ないそれは、間違いなく価値あるものなのではないでしょうか。

 僕は今回、仕事旅行社さんを利用させていただきましたが、他のサービスも同様だと思います。お金さえ払えば、気軽に未知の体験に足を踏み入れることができる……いやはや、たまりませんなー。

 旅行に参加してからは少し時間が経っていますが、訪問した日本語学校さんと仕事旅行社さんには、本当にお世話になりました。そして、貴重な経験をありがとうございました。また機会がありましたら、利用させていただこうと思います。

 

 

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*1:一から十まで、日本語オンリーだそうです。

*2:歴史的人物、もしくは有名人だったかもしれません……すみません、失念しました。

*3:教える側としてはダメなんでしょうが……。