ぐるりみち。

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十人十色の価値観に触れ、己の“歩き方”を再確認した『ピンヒールははかない』

 

 佐久間裕美子@yumikosakumaさんの『ピンヒールははかない』を読みました。第一印象は、「女性の、女性による、女性のためのエッセイ」。ニューヨークに暮らす筆者とその人間関係から、「女として生きる」ことについて論じ、紐解いた内容となっています。

 見るからに自分が手に取る機会のなさそうな本ですが、普段から読んでいるブログ『隠居系男子』で紹介されているのが目に入り*1、ちょっと気になりまして。その旨をコメントに乗せてツイートしたら「ぜひ!」と勧められたので、そのままポチって読むことにしたのでした。

 

異世界・NYの空気を感じつつ、押し寄せる“価値観”の波を楽しむ

 おしゃれなデザインの表紙に、かっこいい大人の女性を想起させる “ピンヒール”  の単語。いったいどのような内容になっているのか――とページをめくりめくり、あっという間に引きこまれる。そうして最後まで読み終えて、最初に抱いた感想は一言、「つよい」だった。

 そうなのです。本書に登場する女性は、一見するとみんな「強い」ように感じるのです。己の夢を胸に抱き、芯の通った信念を持ち、気丈でかっこいい大人の女性。序盤に言及されている「トムボーイ」という言葉に代表される、おてんばで男勝りで、たくましさすら感じさせる人たち。

 

ロマンチックということは、前向きだということだ。

 

 筆者曰く、 “「ガーリー(女の子っぽい)」「フェミニン」の対局にある存在” であるトムボーイたちは、自らを男性文化の渦中へと投じながらも、そこで「個」として己のスタイルを築き上げ、日々を楽しく過ごしている。

 そんな彼女たちは、男性目線で見てもかっこいい。男の僕でもそう感じるくらいなのだから、本書を読んだ女性は、きっと彼女らの生き方に勇気づけられるはずです。

 また、一見すると「強い」ようにも見えるトムボーイたちも、本文を読むと、十人十色の懊悩と煩悶を乗り越えて「強く」なった(ように見える)ことが伝わってくる。そうした「等身大の個人」のエピソードは、性別に関係なく、読んだ人に活力を与えてくれるのではないかしら。

 

結婚式だろうと、旅先だろうと、ひとりで行動して恩恵を受けることは実に多い。思いがけない出会いがあるし、いろんな人が話しかけてきて、知らないことを教えてくれる。そしていろんな可能性のドアが開いていく。ユニットで行動することはそれはそれで楽しい。でもひとりのときのように自然にドアが開いて新しい出会いがあるというようにはなかなかならないものだ。

 

 しかしその一方で、何も「女性の生き方」だけが書かれているというわけでもなく。本書からは、ニューヨークという街の空気と、そこに息づく人の思想までもが伝わってくるように感じた。自分にとっては一度も訪れたことのない、異世界じみた街であるにも関わらず。

 

「そのうちユミも幸せになれるよ」

 などと言われると、心の中では軽くイラッとしつつも「そうだよね!」と返事をする。そしてニューヨークに戻って我に返る。「シングル=不幸」と思わせるプレッシャーがないのだ。周りには、果敢に恋愛や別れを繰り返しながら、社会の中で生き生きと頑張っている女性が山ほどいる。自分が自由に、毎日楽しく飛び回って生きていけるのは、ニューヨークの自由な価値観と、街のエネルギーを吸収しながら、またそのエネルギーを作る原動力になりながら、一生懸命生きている女性たちのおかげなのだと思う。

 

 思えばここ数年、散々っぱら「働き方」や「生き方」の本を読み、ネットをあさり、話を聴きに行った。会社を辞めるとき。無職になったとき。フリーランスとして活動することを決意したとき。自分を納得させるため、十人十色の価値観に触れようとしてきた。 

 だけど実のところ、それはすごく狭い世界の話だった。遥か遠くのNYは、マジぱねえ――本書を読んで、そう実感した。そこには、独身であることを問題視するプレッシャーはなく、自由闊達に生きる人がいる。ありのままの自分を認め、欠点も前向きに捉えて活力としている人がいる。

 「女性」としての要素を無視しても、異世界としてのニューヨークの雰囲気を感じ、色とりどりの価値観の波に溺れるような感覚を得ることができる。この『ピンヒールははかない』からはそんな、あらゆる価値観を包みこみ肯定しようという懐の深さが感じられたのでした。

 

「女性」としての生き方と、性差の前に現れる十人十色の悩み

 先ほども書きましたが、この『ピンヒールははかない』を読むことで、どこか救われた気分になる女性はきっと少なくないと思うんですよね。

 と言うのも、世代に関係なく共通する「女」としての悩みや、年齢を重ねるに従って顕在化する諸問題について、いくつかの考え方が示されているように読めるから。ともすれば1人で抱えこみ、落ちこんでしまいそうな問題について、思いのほかあっけらかんと書かれていてスッキリする。

 それら問題は、男性にも心当たりがある――というか、それこそ本やネット上で幾度となく目にしてきたものでもあります。男だからと言って「知らんがな」で済ませられるはずもなく、家族や知人友人といった身近な女性とも関わってくるもの。なればこそ、目を背けてはいけない。

 

 少し話が逸れる――というか、個人的な話になりますが……。本書を読んで、これまでの自分の「性差」に関する認識を振り返ってみると、男女の問題について考えているようでいて、あえてスルーしてきた節があるんじゃないかと思い至りまして。

 それも単純に「ダルいから」ではなく、逆に「男も女も “個人” であることに変わりはないでしょ?」という、ある意味では全肯定しつつの思考停止だったから、始末が悪い。

 思考停止の理由はおそらく、自分の身近にLGBT層(Xジェンダー)に該当する人がいたため。女性として扱われることに強い忌避感を覚えつつも、男性性を自認しているわけでもなく、常日頃から「灰色でありたい」と話していた友人。当時の自分はそんな友人と接し、その背景とマイノリティとしての考え方を知り、理解を示していたつもり……ではあったのですが。

 

 でも、改めて考えてみると、それは「あなたはあなたでしょ?」と全肯定するポーズを取って、悪い意味で思考停止していたんじゃないか、と。上っ面で理解しているふりをして、同じ目線に立って考えることを放棄していたんじゃないか。本書を読んで、そのように思えてきたのでした。

 ――とまあ、そういった気づきを与えてくれたという意味でも、自分はこの本を読めてよかったと思うのです。個人対個人の交友関係を持つ際には、決して無視することのできない性差。それを改めて考えるにあたって、本書は思わぬきっかけを与えてくれる1冊となりました。

 

だけど僕は、下駄をはく

 冒頭近くでも書いたように、 “ピンヒール” という単語が印象的な本書。

 筆者によると、タイトルを決めるにあたっては、友人が名刺に書こうと考えていた “自分を表現するフレーズ” を参考にしているとの話。その候補のひとつとしてあった「パンプスははかない」というフレーズに共感する形で、書名を「ピンヒールははかない」にしたそうです。

 

一生懸命生きれば生きるほど、人生は簡単ではない、と実感する。でもせっかくだったら、フルスロットルでめいっぱい生きたい。40代に入ってつくづくそう実感することが増えた。時間は短い、やりたいことはいくらでもある、迷っている暇はないのだ。だから自分の足を減速させるピンヒールははかない。

 

 男である僕はヒールをはいたことはないけれど、この考え方には共感できる。子供のころからあちこちへ行くのが好きで、階段は常に1段飛ばし。移動中は早足か小走りがデフォルトだったこともあり、自分の足を減速させる要素は最小限にしたい。

 ――という “物理的” な意味では共感できるのですが、このフレーズを “精神的” な意味で捉えると、自分の考えはちょっと異なります。

 自分が自分らしくあるための「靴」の選択として考えるのなら、動きやすさはもちろん重要視したい。でも近頃は、見るからに自分とは無関係な脇道でも、おもしろそうな道があれば、積極的に寄り道したいとも思うのです。だから僕は、はくのならば「下駄」がいい。

 

 

 過去にこの辺の記事で書いていますが、不安定な「下駄」をはくからこそ見えてくる景色もある。あえて歩く速度を落とし、ゆっくりと周囲を見まわしながら、足下に注意を払いながら歩くことによって、自ずと見えてくる景色や発見もあるんじゃないかしら――と。

 浪人せず、留年せず、ストレートに進学し、就職しながらも、数年前、初めて意図的に踏み外した人生のレール。フリーランスとして独立し、まだまだ足下もおぼつかず、歩き方を試行錯誤しながら自分の往く道を見定めている今日このごろ。

 そんなときは、最短距離を走るランニングシューズよりも、ぐらぐら不安定な下駄のほうがいい。むしろ、ランニングフォームを意識し、肩肘張って必死に走っていた会社員時代よりかは、下駄にはきかえてふらふらしている今のほうが、精神的な余裕ができたようにすら思います。

 

 結婚することも、しないことも、子供を持つことも、持たないことも、自分の決断ですればいい。「これが幸せへの道」というほど単純なものではないのだ。

 問題は「自分の道」を見つけることだ。可能性は無数にある。だからこそ、デザインするのが大変なのだけれど。

 

 『ピンヒールははかない』で書かれている、「自分らしく歩くため、歩きやすい靴をはく」という考え方とはまた方向性が異なりますが、これもある種の「自分らしさ」なんじゃないかな、と個人的には考えています。

 そういった自分の「歩き方」を再確認できたという点も、本書を読んで得られた気づきのひとつ。 “ピンヒールをはかない” 筆者がいて、 “下駄をはく” 自分がいる。彩り豊かな価値観に触れながら、自分の「歩き方≒生き方」を再確認できる本として、女性にも男性にもおすすめの1冊です。

 

 

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