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ぐるりみち。

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映画『夜は短し歩けよ乙女』感想〜星野源さん&花澤香菜さんの演技に酔い痴れる、至高の90分

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映画『夜は短し歩けよ乙女』公式サイト

 終幕後、己の胸に去来したのは「おなかいっぱい」という心地良い満腹感。と同時に、とにもかくにも「酒が呑みてえ」という純然たる欲求であった。原作小説だろうがアニメ版だろうが、森見登美彦さんの作品に触れたあとはいつだってこうだ。

 ひねたようでいて、目にして(耳にして)すんなりと己の内に入ってくる言葉の奔流に身を委ね、京都界隈を主とした作品世界に耽溺し、魅力的なキャラクターたちに惚れ込んでしまう。結果、熱に浮かされたような興奮を中和する――もとい、昂ぶった精神的な熱量に肉体を寄せるべく、自然と身体がアルコールを求めるようになるのだ。

 こうして己の欲求に素直になり、「もんどり!もんどり!」とわけのわからぬことを叫びながら電気ブランを呷った翌朝には、妙な満足感とちょっとした多幸感、そして眉間に矢でも突き刺さっているかのような頭痛と共に目を覚ますのが常である。おはよう世界。そしてさようなら、充実したかもしれない今日。あっしはオフトゥンと添い遂げる。明日になったら起こしてくれぃ。

 ともあれ、映画『夜は短し歩けよ乙女』である。

 大学生時分から好きな作品だったこともあり、こいつぁ観に行くしかあるめぇと公開初日にいつもの立川に飛び込んできたわけだけれど、なんともまぁお腹いっぱい夢いっぱい、ついでにお酒も1杯、ちょっとだけおっぱいな、最高に素敵な作品でござった。――そんなわけで、ざっくりと感想をば。

 

「初見さんお断り」な映画版?いえいえ、そんなことはございません

 『夜は短し歩けよ乙女』は、2006年に発売された森見登美彦*1さんの小説である。何やらけったいな賞を受賞しているだとか、筆者の森見さんは2005年からはてなダイアリーで今日に至るまでブログを書き続けているはてなユーザーだとか、そういった補足は置いておくとして。

 一方、此度のアニメ映画化に際して監督を勤めるのは、湯浅政明*2さん。最近だと2014年に『ピンポン THE ANIMATION』を手がけ、原作ファンをはじめとした視聴者から多大な評価を得、改めて注目が集まったアニメ監督さん。1話たりとも無駄なく、途中で失速することなく、最後までワクワクしながら(展開は知っているのに)観ていた思い出。少し泣く。

 そんな「原作」と「監督」の組み合わせからして、本作に「癖」の強さを感じる人もいるかもしれない。そもそも、2010年には同じく森見さん原作・湯浅さん監督で『四畳半神話大系』がアニメ化されており、今作もその流れを汲んだものとなっている。製作スタッフもほぼ同様で、ゆえに『夜は短し〜』を実質的な “四畳半神話大系2” だと見る向きもあるようだ*3

 そういった点を鑑みると、この『夜は短し〜』は、「森見登美彦ファンである」、あるいは「湯浅政明ファンである」、はたまた「四畳半神話大系を知っている」人にとっては最高の組み合わせだが、完全な初見さんにとってはハードルが高いんじゃないか、という懸念が生まれる。

 実際問題、映画本編は疾風怒濤の展開にして豪華絢爛な映像という情報量マシマシな内容となっており、鑑賞するにあたってはそれなりに体力が必要という印象を受けた。

 なんたって、四季を一巡する原作小説を「一夜」に詰め込んでいるくらいなのだ。とてつもないジェットコースタームービーであり、ファンタジックな京都の街を乙女と共に練り歩き、行く先々で登場人物が移り変わるロードムービーでもある。悠長に「たーのしー!」などとキャッキャしている場合ではない。ドッタンバッタン大騒ぎ、なんてレベルじゃねーぞ!

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『夜は短し歩けよ乙女』 90秒予告 - YouTube

 だからと言って、完全な「ファン向けの映画版」かと言うとまったくそんなこともなく、初見さんでも充分に楽しめる内容になっていたと思う。事実、終幕後の劇場内でもそのような声が聞かれたし、Twitterで検索したかぎりでも同様。少なくともストーリー面での意味不明さ・わかりづらさは、ほとんど指摘されていないように見える。

 原作はもちろんのこと、『四畳半』のアニメを観ている必要もない。なぜって、僕自身、『四畳半』にはノータッチなので。むしろ「観な(読まな)きゃ……」という気持ちにさせられはしたものの、関連作品を知らないからと言って魅力が半減するような、そんな “映画化” ではないと感じた。まっことおもしろかったし、そんなことよりお酒が呑みたひ。

 

はまり役すぎてすばらしい、2人の語り部

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パンフレットには、中村佑介さんによるキャラクター原案も。

 はてさて、そんな『夜は短し歩けよ乙女』でございますが、本作の映画化が発表されて最初に気になったことと言えば、そりゃあもうアレしかないでしょう。

「黒髪の乙女は、いったい誰が演じるんだ……」

 自由奔放にして好奇心旺盛、劇中で名前は語られず「黒髪の乙女」と称される彼女。小説の文章と中村佑介*4さんによる表紙絵でしかその人柄と風貌を窺い知れないにも関わらず、初めて読んだときから最高に魅力的なキャラクターであり、文字どおりの “ヒロイン” として圧倒的な存在。そんな彼女を、いったい誰が演じることができようか……と。

 で、蓋を開けてみれば(大方の予想通り)花澤香菜*5さん演じる “乙女” がそこにいたわけですが。いやー、こりゃもう最高っすよ。パねぇっすよ。最高というか至高っすよ。なんかもうあまりにはまり役すぎて、 それ以外に何も言えねえ。まさか歌うとは思わなかったけれど。なむなむ!

 それよりも衝撃だったのが、星野源*6さん演じる “先輩” 。キャラクターとのシンクロ率で言えば、もしかすると “花澤・乙女” よりも上なんじゃないかと思えるほどのぴったり具合。

 変に演技っぽくないというか、モノローグも含め自然体で「話している」ような印象が強く、違和感なく作品世界に溶け込むどころか、主人公かつ語り部のひとりとして存在感を発揮していた。ドラマを観ない自分は、名前とその活躍ぶりくらいしか存じ上げなかったこともあり、初めて興味がわいてくるほどの熱演ぶり。すごい……! ただの前川みくPじゃなかったんだ……!

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『夜は短し歩けよ乙女』 90秒予告 - YouTube

 ほかのキャラクターの中にあってもばっちり馴染んでおり、来場者特典の『銀幕篇』を読めば、自然と彼らの声で脳内再生されるほど。不満らしい不満もなく、上映時間の約90分がもっと短く感じられるくらい。これはぜひ、劇場で観ていただきたい作品でございます。

 パンツ総番長を演じる秋山竜次*7さんが、 “どこを切り取ってもポストカードのような” *8と話していた映像美は劇場の大スクリーンでこそ映えるし、原作とは異なる『偏屈王』のミュージカルや終盤の脳内会議も、映画館の音響でこそ楽しめるはず。DVDが発売され、自宅で酒の肴として観られるようになったら……それはそれで最高だけれど。そこにお酒があるかぎり!

 畢竟、オモチロキことは良きことなり。すばらしく奇想天外かつ摩訶不思議な京都ファンタジーと大学ノスタルジーに浸れる映画『夜は短し歩けよ乙女』は、レイトショーにこそ相応しい。夜の映画館にふらりと吸い込まれ、本作を存分に楽しんだら、いざ電気ブランを飲みに街へと繰り出そう。

 

© 森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

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