「あの頃の同人サイト」に見る、閉じられた世界とネチケット


f:id:ornith:20141016191229p:plain
毒花ノ蜜に誘われた蝶は、睡るが如く堕ちて逝く──

 もう結構前の話になりますが、このツイートが一部で話題になっておりました。00年代初頭にネット上で散見された、個人サイト*1を再現したもの

 Togetterでまとめられている反応を見たところ、心当たりのある人は多く、その再現度に絶叫しているようですね。これぞ、黒歴史。かくいう僕も…ゲフンゲフン

 これを単なる「あるあるネタ」として読んでもおもしろいけれど、当時のネットの雰囲気がわかり、興味深くもあります。その特徴を思い出しつつ、考えたことをつらつらと書いてみました。

スポンサーリンク
 

<入口>我が漆黒の館を訪れし旅人よ──

 基本中の基本。ダミーエンターとは、読んで字の如く。

 当時の個人サイトを訪れると、コンテンツ一覧の前のワンクッションとして、エントランスページが設定されていることが多い。その内容は、「サイト名」「管理人名」「サイトの概要」「注意書き」「アクセスカウンター」「同盟リンク」といったもの。

 文章で見ると、冒頭のサイトさんのように、「管理人◯◯が運営するよろずサイト」と書いていたり、二次創作の場合は、主に取り扱うジャンル名・カップリング名を記載していたり。それと、「荒らしは回れ右!」といった、荒らしに対する文言も基本ですね。

 画像では、イラストサイトであれば、ページ中心に自分の絵を貼っていることが多い印象。また、自作の小さなバナーを入り口にしている場合もある。そして、ページ下部には「同盟リンク」なるちっちゃな画像を多く配置しており……これについては、後ほど。

 そして、ダミーエンター

 サイト名 → 注意書きと来て、その下に「Enter」「入りますか?」「楽園へ至る門」「いざ、漆黒の闇へ──」といった、「入り口」を示す文章・画像がリンクとして設定されている。──が、クリックしてみたら、別のページに飛ばされてしまった。なんじゃこりゃ。

 これは、注意書きを読まない人や、荒らし対策としてのトラップだ。「注意書きをしっかり読んだ人」であれば、その文中で真の入り口が示されているので、間違ってクリックすることはない。

 このダミーエンターは、「サイト入場者の選り分け」という役割を果たしていると言えるでしょう。当時から多くのサイトは稚拙な荒らしに悩まされており、そんな厄介者を入れないため、入り口にこのような仕掛けを施していた形です。よく引っかかっておりました、はい。

 手の込んだところだと、入り口が二重三重構造になっていたり(入り口の先にまた入り口が!)、文字が見えない隠しリンクになっていたり(TABの出番!)、無駄に力を入れているサイトも。

 ウェブサイトの管理人さんにとって、荒らしは大きな悩みのタネだったんですね。

<同盟>我らが同胞へと導く異界の門

 エントランスページを見ると、無駄に大量の小さなアイコンが貼られていることがあります。それらひとつひとつが、その「同盟」に所属している証なのです。

 「同盟」とは、同じジャンルのサイトをまとめた、リンク集のようなもの。例えば、写真を扱うサイトの集まる「写真同盟」とか、少年ジャンプの二次創作を行うサイトの集まる「ジャンプ同盟」のような。そのサイトへ行き、自分のサイトを登録すれば、「同盟」の一員となれる。

 同盟の役割としては、第一に、ネット上の「案内所」であること。Google検索以外の手段で、自分と同じ趣味を持つ仲間(サイト)を探すのに、非常に役立っていたように思います。逆に自分のサイトを登録しておけば、そこから同じ趣味の人がアクセスしてくる可能性もあり、そこから交流が生まれることも多かったんじゃないかな。

 もうひとつは、サイトの内容や、管理人の趣味嗜好を表す「記号」としての役割。現在で言えば、ニコニコ動画やpixivの「タグ」のようなものかしら。

 作品・カップリングの同盟リンクを貼っておけば、サイトのコンテンツが分かるし、「◯◯萌え」的な同盟であれば、「ここの管理人さんは、こういうのが好きなんだな」というのが一目瞭然ですね。

 変わりどころだと、前述のツイートにもある「ダミーエンターやめよう同盟」や、「オリキャラ大好き同盟」のような、特定の主張を表したようなものもありました。「荒らし撲滅」みたいなのもあったかな?

<掲示板>闇に染まりし悪魔共の狂宴

 サイトのメインコンテンツ(小説・イラストなど)とは別に、他のユーザーとの交流の場として開かれていたのが、掲示板。BBSとも。スレッド式、ツリー式など複数の種類があるが、多くの個人サイトでは、レンタルサービスのものを利用しておりました。

 サイト運営者に限らず、当時、ネットを利用していた人(中高生くらい)の多くは、この掲示板でネットでの交流の術を学んだんじゃなかろうか。なりきり掲示板で熱くなりすぎたりとか、まとめ役に徹したりだとか、大好きな管理人さんが他の常連と絡んでいるのを見て嫉妬したりだとか。

 2ちゃんねるとはまた違ったふいんき(なぜか変換できない)を持った独特の空間ではあったけれど、どちらの「掲示板」においても、厄介者の存在はあったわけで。

 それらを対処しつつ、反面教師として見てきたからこそ、当時からのネットユーザーは、割と煽り耐性が高いイメージがあります。勝手な印象かもしれませんが(ぉ

 そんなネットマナー、ネチケットと言えば外せないのが、「毒吐きネットマナー」の存在。残念ながら元サイトは消えてしまったらしく、見ることができません。が、別の方がコピペして解釈を加えた、「毒吐きネットマナーPlus」というものが現存しております。

 この毒吐きネットマナー。驚くほどたくさんのサイトに貼ってあった記憶がある。そのせいか、ある種の信奉的な感情すら持っていましたが、今、改めて見てみると、極度のエゴに満ち満ちているような……。

ただ、管理人目線から見れば、「全くもってその通りだ!」と自分たちの思いを代弁してくれるような存在であり、だからこそ、サイトに貼るのが好まれていたのではないかしら。

 2ちゃんねるのような巨大な掲示板を除けば、ネット上の「掲示板」は、小さな個人サイトの、そのまた奥にある、とんでもなく小さなコミュニティ。そこでは、多くても十数人程度の人間が、HNを使って交流していました。

 そんな掲示板の閉鎖性には、負の側面も多くあるけれど、悪いことばかりではないと思う。

 閉じられている分、好き勝手ができるけれど、行き過ぎた行為は周囲から諌められるため、身を以てネットリテラシーを学ぶことができるのではないかと。ネットを使い始めて、最初から広く開かれているTwitterに触れれば、そりゃあ失敗もするし、炎上もするでしょう。

 一昔前に、「学校裏サイト」なんていうのが問題になったけれど、むしろ学校側で交流の場を作ってしまって、そこでネチケットを学ばせる……っていうのはダメなのかな。学校によっては、既に過疎った掲示板が放置されてそうな気もするけれど。

100質、キリ番、右クリ禁止、謎のMIDI、などなど

 なんかもう懐かしすぎてほっこりしてきたんだけど、冒頭のサイトには、黒歴史という名の夢がいっぱい詰まっております。暗い背景、フレームページ、ついてくる十字架、右クリック禁止、キリ番部屋、100の質問、音も容量もデカいMIDI、などなど。

 今は、どこのサイトも素敵デザインになっているか、分かりやすくシンプルな構成になっているか、広告まみれになっているかで、当時のゴテゴテ感はどこへやら*2

 今は今でブログをやっているし、Twitterで交流するのも楽しいけれど、「あんな時代もあったなー(真顔)」と、たまに思い返すのも悪くない。……うん、悪くない(震え声)

 それはあかんです。相変わらずHTMLの知識しかない僕が個人サイトなんて作ったら、当時の黒歴史がそのまま再現されちまうじゃないですかー!やだー!*3

 

関連記事

*1:主に、イラストや小説の創作物を取り扱う

*2:が、探せば割と見つかるのが怖いところ

*3:試しに昔のハンネで検索してみたら、あの頃の記録がががががががが