『あかいろ交差点』“赤い糸”(物理)が紡ぐ2人の関係がとにかく可愛い!


あかいろ交差点: 1 (comic POOL)

 新刊をチェックするべく、ふらっと入った某書店にて。マンガコーナーを物色していたところ、ふと淡い色彩の表紙が目に入った。

 淡くも鮮やかな桃色一色、春の装いのただ中で佇む女の子。振り向く彼女の視線の先には、その手の小指に結ばれ、中空を漂いどこかへ向かう “赤い糸” の存在。

 そんな、どこか情緒的に感じられた表紙にビビッときて、ホイホイされるまま買って読んじゃいました、『あかいろ交差点』。俗に言う “ジャケ買い” である。

 ただし、買ったのは電子書籍版。書店ではレジに向かわず、AmazonでKindle版をポチってから「これは紙の本で買っておくべきタイプの表紙だった-!」と軽く後悔したのでした。……いや、だって、「pixivコミックで好評連載中!」的な宣伝文句が見えたんだもの……先に試し読みしたくなるやん?

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表現そのままの“運命の赤い糸”が見えてしまう女の子

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.4

 “運命の赤い糸” といえば、恋愛を描いた作品ではおなじみとも言える表現。

 もともとは中国の逸話が由来であり、結ばれるのは「足首」だそう*1だけれど──日本では「手の小指」が一般的。ある2人の関係を端的に示せることから、恋愛作品の表紙や一枚絵でよく描かれているイメージがあります。そういや今年は、 “組紐” が全国の映画館を席巻しましたよね。

 そのように、ある2人が恋に落ちることを予見するものだったり、あるいはすでにラブラブであることを示したりする、 “運命の赤い糸” 。恋愛マンガでもお約束的な存在であることから、本作『あかいろ交差点』の表紙も同様の比喩なのかと思っていた──のですが。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.26

 ところがどっこい。本作におけるそれは、目に見えて触れることすらできる、“赤い糸(物理)” だった。

 「見えないのに “赤” い糸とかどういうこっちゃねん!」と比喩表現にツッコミを入れる人もだんまりするレベル。だって、作中では実際に赤く見える(らしい)んだもの。

 とはいえ、そこら中に “赤い糸” がふわふわと漂うファンタジーな世界観というわけではなく。ある高校を舞台にした青春マンガであり、いわゆる「学園モノ」のジャンルに属する作品かと。

 描かれるのは、2人の高校生を中心とする人間関係。そこでは、トンデモ超能力バトルは始まらず、空から女の子は降ってこず、不治の病に冒されて世界の中心で愛を叫ぶこともない。──ただひとつ特別なのは、ヒロイン・大原たまきの目に、 “赤い糸” が見えること。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.54

 彼女の目に映るのは、人と人とを繋ぐ “糸” 。

 糸が結ばれている人と結ばれていない人、触れられる糸と触れられない糸があるものの、繋がっている2人を結びつけ、親しい間柄に発展させる存在。それこそ “運命” 的な、文字どおりの性質を持つ “運命の赤い糸” が見えてしまう。

 「人には見えないものが見える」ことをずっと不自由に感じてはいたものの、自身は誰とも結ばれていなかったため、まだ他人事でいられた彼女。ところが、高校の入学式の朝、自分の手の小指にも “糸” が結ばれているのが見えてしまう。動転する大原さん。編み込みショートかわいい。

 その糸が繋ぐ先にいたのは、同じく新入生の脳天気男子・蒔田恵太だった──という、そんな出会いから始まるストーリー。 “赤い糸” に結ばれる高校生の男女……やだ……胸キュンの予感がするわ……! キャー!!

“赤い糸(物理)”が紡ぎ、「好きにならない」約束から始める関係性

 しかし、即胸キュン展開ヒャッハーにはならず、始まりは険悪。1巻の終わり時点でも、恋愛の「れ」の字も感じられない関係性にとどまっております。

 強いて言えば……なんだろう……クラスメイト以上、友達以下? 順に段階を踏んでいく感じが丁寧で、読んでいてすごく楽しい。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.59

 問題となるのは、やはり “糸” の存在。過去の経験から「糸で繋がれている人はお互いに好きになってしまう」ことを知っている大原さんは、それを運命だと思いたくない。

 変に糸が見えてしまうからこそ、もし相手を好きになったとしてもその「好き」が本当に自分の気持ちなのかわからないし、相手にも迷惑かもしれない。それならば、近寄らないほうがいい、と。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.63

 対する “マイペースほんわか犬系男子” こと蒔田くんは、「糸が繋ぐのは恋愛感情ばかりじゃないんじゃない?」とあくまでもポジティブ。「大親友になるかもしれないじゃん!」などと前向きな考え方でもって、縁を育む姿勢。

 と同時に、大原さんを気遣う優しさと、自分の意志を断言する強さも見て取れる、素敵な主人公っぷりを発揮。これは惚れる。……読んでいるとなんか、むしろ「糸の運命なんてぶっ壊しちまえ!」と蒔田くんを応援したくなるような、そんな魅力すら感じるキャラクターです。

 作中の同級生とのやり取りを見ても、コミュ力MAXで超好印象な彼。相手の外面や立場は関係なく、誰とも等しく接する朗らかさを保ちながら、相手との距離感を意識した言動も見受けられるという──近年稀に見る、むっちゃ魅力的な主人公だ! 表情も多彩でかわいい。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.130

 そんな蒔田くんに絆されてか、大原さんも話が進むほど表情豊かに、かわいらしく見えてくるのもまた、本作の魅力かと(僕のキャラの好みがショートヘア女子だから、というわけではない。たぶん)

 そもそもテーマからして “運命の赤い糸” であり、その糸に結ばれた2人の交流を主軸に描いているからかもしれない。少しずつ進展していく関係性と、それに伴って引き出されていく2人の表情と背景が本当に丁寧に描かれていて、話が進めば進むほど好きになっていく感じ。展開も決して急がず、じっくりと会話を重ね、ゆっくりと積み上げていくような物語と関係性が、ものすごく好みです。

あかいろ交差点 1巻
ひのなつ海『あかいろ交差点』(1) P.99

 そんなこんなで、すっかりお気に入りになってしまった漫画『あかいろ交差点』

 comic POOLで連載しているので、興味のある方はぜひ一度読んでみてくださいな。書籍・Kindle版には、番外編も収録。

© ひのなつ海/一迅社

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