※本記事は、現在は非公開のKDP版『魔女の旅々』発売当時に書いた感想となります。
AmazonのKindleストアランキングでふと目にした、こちらの作品。どこかラノベチックな表紙イラストとあらすじにビビっときたので、その場でポチっと購入。先ほど読み終えました。いやー、おもしろかったです!
サバサバ系魔女の旅先での出会いを描いたファンタジー
本作『魔女の旅々』は、全7話を収録した短篇集。――と言っても、物語ごとに長短があり、最も長い第1話は「中編」くらいの長さがあるかもしれません。逆に短いものは、5分ほどで読みきってしまえるくらい。スキマ時間に最適っすね。
殺伐とした山岳地帯にひっそりと存在する魔法使いの国。旅の途中で訪れた灰色の魔女イレイナは、魔女に憧れを抱く一人の少女と出会いました。サヤと名乗る少女は言いました。「お願いします! ぼくに魔法を教えてください!」と。
それは少女と旅人の修行の日々の物語であり、別れの物語でした。(一話『魔法使いの国』)
上巻は全七話の短編集です。
Amazonの内容紹介にある通り、主人公の魔女が旅先で訪れる国々で起こる出来事や、そこで出会う人々との交流を描いた物語となっています。
読み進める中での印象としては、「『キノの旅』っぽい!」というイメージ。わずか数ページで終わる話もあれば、人物を掘り下げた上でそこそこの文量をもって展開していく話もあり、全体の構成としても似ているように感じました。
後で触れますが、作者さん自身も影響を受けている節はあるそうで。ゆえに、『キノの旅』あるいは時雨沢恵一*1さんの作品が好きな人であれば、かなり楽しんで読める内容となっているのではないかと思います。
印象的なのは、主人公である魔女イレイナのキャラと、その語り口。全話を通して、彼女の視点から物語が展開していきますが、その口調は「です・ます調」の丁寧語ながら、軽妙でコメディチック。“ラノベっぽい”と言い換えてもいいかもしれません。
この道を真っ直ぐ進めば近道だぜお嬢ちゃん。
なんて先日滞在した国の商人さんが言っていたので、言われた通りに近道を選びました。道が狭すぎて――というか道が無く、単なる森なので、ほうきは使えません。舗装も何も施されていない道なき道を、草を倒しながら進みます。
朝露に濡れた草たちは、私に踏まれる直前に、ぺちゃりと水滴を飛ばしてきました。服の裾は既に濡れて重みを増しています。
確かに歩いて行けば近道なのでしょうが、私はほうきを使えるので、これでは明らかに遠回りです。ちくしょう。
このような文体。丁寧で穏やかな言葉遣いのくせに、ところどころで毒が入る感じが読みやすくて大好きです。そのまま、キャラの魅力に直結しているのも良い。
旅人である彼女は、訪れる国々で出会う人たちと関わりながらも、過剰に干渉しない淡白さも持ち合わせています。
でもでも、やっぱり困っている人はほっとけないような、なんやかんやでその国の事情に関わってしまうような、優しさだか真面目さだかが目に見えているのは、読んでいて好感の持てるもの。この辺も『キノ』っぽいですね。
詳しい内容には言及しませんが、寓話的な話があり、ギャグがあり、少しダークな展開もありと、多彩な7つの物語は読者を飽きさせないものになっているのではないかと。
その中でもブレない主人公、イレイナさんがいいっすね。かわいい。あと、個人的には“筋肉の人”が好きです。ボクっ娘は言うまでもなく。
KDP作品ゆえのお手軽感と、宣伝手法
本作は、いわゆるKDP*2作品でもあります。誰でも自分の作品を「電子書籍」として、AmazonのKindleストア上で販売することのできるサービスですね。
KDP作品は価格をユーザーが設定することもできるため、安く広く自分の作品を販売しようとするのであれば、かなりお手軽なシステムになっているとも言えるサービス。
『魔女の旅々』も上巻は100円ほどになっており*3、紙の本に置き換えた場合のページ数(158P)と比較すると、かなりお買い得な値段設定かと。その安さも手伝って、僕もちょちょいとポチったので。
ところがどっこい。そんなKDP作品も最近はかなり数が増えてきて、読み手としては嬉しい半面、自分好みの作品と出会うのは難しくなっているような印象もあります。きんどうさんや、kdp名鑑さんのようなサービスもあるけれど。いつもお世話になってます。
その点、本作の作者である定規(@jojojojougi)さんの試みがうまいなーと思ったのは、無料キャンペーン期間に2ちゃんねるを用いて宣伝していたらしいこと。そこから順位が上がり、無料期間終了後も売上を伸ばしているようなので。
元スレを見ても反応は上々、良い具合に宣伝になっていますね。過去にもKDP作品を自ら2chで宣伝するケースは何度か見覚えがあるけれど、意外と読んでくれる人は多いみたい。もちろん、内容次第ではあるのでしょうが。
このように、自分の作品を自分でうまく宣伝・展開していくことのできるクリエイターさんはどんどん出てくるんじゃないかなー、と思います。ブログも、一面的にはそんな要素がありますしね。
電子から紙へ
ネット発の読み物と言えば、遡れば『電車男』やケータイ小説などがある一方、最近は小説家になろうなどからも数多くの作品が書籍化されてきました*4。
僕なんかは好きな作品は実物として持っておきたい欲求もあるので、書籍化すれば、たとえ既読作品でも購入する機会は少なくありません。最近だと、『ReLIFE』とか。
そういう意味では、本作『魔女の旅々』も紙の本として読んでみたい作品でございます。下巻をまだ読めていないのでそちらが先だけど。
155: 名無しさん : 2014/11/08(土) 00:24:25.40 ID: Vieu1HWj0.net
同人誌でだす予定は?
158: 名無しさん : 2014/11/08(土) 00:26:17.93 ID: 2ZwUxuWp0.net
>>155
今のところありません
個人的には、同人誌で出てくれたら間違いなく買うんですが! 表紙イラストを担当した、宮さんの挿絵つきで手にとって読んでみたい。文学フリマ辺りで置いてあっても違和感ないですし。筋肉さんを! 筋肉さんのイラスト化を!
そんなこんなで、「同人誌で読みたいなー(チラッチラッ」という希望をそれとなーく示しつつ。KDP版には未収録の短編を別に投稿しておられるようなので、そちらを試し読みしてみるのもいいかもです。
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*1:国内随一の“あとがき”作家(時雨沢恵一 - Wikipedia)
*2:電子出版なら Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング
*3:2014年11月当時。2015年9月現在は無料!
*4:『ログ・ホライズン』『魔法科高校の劣等生』など。