中村佑介さんが語る、作品の良し悪しを超える「感動」の作り方


 東京藝術大学の学園祭、「藝祭2014」の中で開催された、中村佑介*1さんのトークショーに参加してきました。

 中村佑介さんと言えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』などの書籍の表紙も手がけるイラストレーター。

 僕自身も子供の頃にアジカンのCDでその存在を知って以来、名前と絵柄が一致する数少ないイラストレーターとして、好きなクリエイターさんの1人です。

 最近はTwitterでも精力的に活動されており、イラストレーターを志す人への助言や、イラストに限らない「創作物」に関する持論を展開されていることもあり、学ばせてもらうこともしばしば。……まあ、僕は絵は描けないし、描かないんですけどね!

 身内が藝大で出し物をすると聞き、ついでと思って藝祭のイベント内容を調べていたところ、中村さんのトークショーがたまたま目に入りまして、「こりゃあ行くしかあるめえ!」と。

 絵描きでも創作者ですらない一般人ではありますが、興味があったのでお話を聞きに行ってきました。本記事ではその中から、個人的に共感した、印象的だった、勉強になった点などを、軽くまとめておこうと思います。

 

正攻法をぶち破る、インターネットの存在

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「今日、来るの怖かったっすよ! だって、藝大だよ? 最高峰だよ? ゴールだよ!? もうエンディングテーマ流れちゃってるもん!!(※意訳)」という、軽妙な挨拶から始まったトークショー。

 瞬間、Twitterでの中村さんの呟きを読んで感じていた、「文章力が高く、主張もしっかりしていて、ポテンシャルの超高いスーパークリエイター」といった印象をぶっ壊されつつも、その愉快な語り口を楽しみながらお話を聴くことができました。

 そんな中村佑介さん。当たり前と言えば当たり前ですが、最初から人気イラストレーターだったわけではなく、「大学の卒業後3年くらいは、1日1個カレーパンを食べて、台所の水道で頭を洗うような生活」だったそうです。

 大学の先生には「自由に描きすぎていて、これは『イラストレーション』ではない」と指摘される一方、「でも、おもしろいから続けるべき!」とも言わしめたそうで。中村さん自身は「言葉のない1コマ漫画」のような感覚で、当時から作品を描かれていたのだとか。

 そもそも、イラストレーターになるにはどうすればいいか。

 正攻法としては「東京に出る」「ポートフォリオを持ち込む」といった方法が主流だったようですが、中村さんはそこで、まだ普及段階だったインターネットに目を付けた。

 中村さんが大学生だった頃は、ダイアルアップ接続で「ピポパポ...ピーガガガ!」なんてやっていた時代。「エ口動画も画面ちっさいよ! ほとんどモザイク! RealPlayer!(※意訳)」と仰っていましたが……はたして、現役の学生さんには伝わったのだろうか……!

 そんなネットを当時から使って活動していたイラストレーターとして挙げられていたのが、コザキユースケ*2さんの名前。最近だと『どーにゃつ』の執筆や『ファイアーエムブレム 覚醒』のキャラクターデザインをされています。

 彼のように、インターネット上で自らの作品(=イラスト)を公開し、そこから仕事をもらえないだろうか。漫画家のようにこちらから編集者へ持ち込み(=営業)をするのではなく、「あっち」から来てもらえるようにならないだろうか。中村さんは、そう考えたそうです。

 今でこそ、イラストならpixiv、動画や音楽ならニコニコ動画などのプラットフォームがありますが、当時はまだそんなものはありません。個人サイトを運営し、管理人同士で直接的に交流していたような時代です。

 ですがそれゆえにホームページを作る人も少なく、「何かおもしろいことをやれば、自然と繋がれるような時代だった」とも話しておりました。当時の僕はまだ子供だったので、完全に「消費者」側の人間でしたが、BBSでの交流と内輪感の楽しさに身を投じていた時期もあったので、なるほどなー、と。

 特に中村さんの場合、自分のホームページの構造にも凝っていたそう。ゲームの「街」のような形で「イラスト集」「掲示板」といったわかりやすいメニューを設けるのではなく、「家の中に入り、部屋に入って、そこでようやくイラストが見れる」という遊びのある作りにしていたそうです。

 この「絵に興味がない人も楽しめる要素を盛り込む」というのは、このトークショーで一貫してお話されていた要素のひとつであり、特に印象的だった部分でもあります。

「自分のよく知っているもの」を描く

 中村さんの作品の特徴と言えば、細い線による緻密な表現だとか、はっきりした色合いだとか――いろいろ考えられるかと思いますが、モチーフに「日本っぽいもの」が多いことも挙げられます。

 現在のpixivランキングに入ってくる作品や広告のデザインなどを見ると、和風のイラストは今や当たり前に見受けられるもの。しかし中村さんが大学を卒業された頃は、その手のデザインはまだまだ少なかったそうな。

 曰く、「和風のイラストや京都などの日本っぽいものは古臭くてダサい存在であり、作品展などでもまーったく評価されなかった」と。「あの頃、僕を落とした人からの仕事は、全部断ってる!」とも仰っておりました。いいぞ!もっとやれ!

 それでもなぜ自分の画風を崩さなかったかと言えば、「それが自分のよく知っているものだったから」との話。大阪とか、日本らしさとか、田舎とか、「そのとき、自分が持っている環境をフルに出す」ような作品作りをされていたそうです。

 文章もそうですが、自分の知らないものについて語るのは難しいし、どこか嘘臭くなってしまうもの。それが視覚的な「絵」ともなれば、資料がなければ描けないし、細部とその構造まで理解する必要が出てくることもあるでしょう。「田舎の人間が、東京タワーのある風景を描くのは難しい」とも仰っていたように。

 これは僕自身、文章を読んでいても感じていたことなので、強く納得させられました。と同時に、「ものづくり」のヒントとなるものなのではないか、とも。「現在の自分を、全力で表現する」ことの大切さを考えさせられました。

「良いか悪いか」ではなく「見る価値があるかないか」

 ほかにも「日本人の絵を見る感性はあまり信用していない。日本人は『言葉』が好き」「自分の快楽を求めて生きてはいない。褒められることを求めている。絵を描くのはめんどくさい」といったことも仰っておりましたが(※意訳)、このあたりの話が特におもしろかった!

 「ほら、クラスにいたじゃないですか、むちゃくちゃ細かい迷路を何ページも書いて、みんなに『すげー!』って絶賛される奴」という話題から始まり、

「僕の描いたキン肉マンよりも、細かい迷路の方が褒められる」

上手い・下手、好き・嫌いを超えるものがあるんじゃね?

面倒だけど、「すげー!」と思わせる作業を追加しよう!

 という思考を経て、「絵がわからない人」でも楽しめる作品の考え方に至ったそうです。もちろん、絵が「わかる」人にも楽しめる要素が盛り込まれていることは大前提として。

 仰るとおり、「わからない」人を感動させる要素のひとつとして、作品の緻密さに「すげー!」と感じさせる力があるのは間違いないと思います。自分のことを振り返ってみても、たしかにそうだったなと。

 というのも、絵画に興味のなかったころ、親に連れられて美術館に行き、退屈に感じていたことがありました。絵の何が良いのかわからないし、おもしろくも何ともない、ただのデカい絵じゃないか――と。でも、ふと目に入った、とある版画作品のあまりの細かさには、強く惹かれて見入ってしまった。そんな記憶が今でも残っています。

 作品の「良し悪し」は、その基準を知っている人にしかわからない。けれど、何も知らない人にも「おお!?」と何かしらの感慨をもたらし、びっくりさせられるような、そんな作品作りもできるのではないか。

 その「価値」を付与させるため、中村さんはいつもめんどくさい作業を進んで取り入れているそうです。ものっそい細かい書き込みを追加するとか、絵の具を使ってひとつひとつ塗り切るとか。

 トーク中、実際に中村さんの生原画(!)が各テーブルの列に配られたのですが、やはり素人目にも「すげー!」と思わせる迫力でした。ってか、そもそもアナログなんすね……! パねえ……!!

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 各列で別々の原画が回されていたようですが、僕のところへは偶然にも、アニメ版『四畳半神話大系』Blu-rayBOXのジャケットイラストががががが!

 いやはや、感動モノでございました。「写真撮影おっけー!」とのことでしたので、全力でパシャパシャさせていただきました。ごちそうさまでした。

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 トークショーでの他の話題としては、

  • 大学の同級生でもある、漫画家、石黒正数*3さんとの関係
  • 「画風が似ている」と言われがちな、カスヤナガト*4さんについて
  • さだまさしさんのベストアルバムのジャケットイラストの制作過程
  • 男女の「絵の好み」の違い(有機物or無機物)

 などなど、ひっじょーにおもしろいお話が盛りだくさんでした。

 そして何より、2時間という長さながらまったくグダることもなく、本当に最後まで楽しかった! 各地で頻繁にトークイベントを開催されているそうなので、また機会があったらぜひぜひ参加してみたい、そう思わされるくらいには。

 楽しく気づきの多いひとときを、ありがとうございました。また、藝祭実行委員のみなさん、お疲れさまでした。藝祭全体としても賑やかで、一人でぶらぶらするだけでも見るところいっぱい、おいしいものいっぱいで、とても楽しかったです。来年も行こっと。

 

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