【連載】ソーシャルメディアをカテゴライズしてみよう


 前回に続いて、本記事ではまた違った視点からソーシャルメディアを捉え、それらを性質ごとに類別化し、より分かりやすくまとめようと思う。

 具体的には、『ソーシャルメディア進化論』の中で提示されている「ソーシャルメディアの地図」を自分なりに検討すると同時に、最新の情報も織り交ぜて「地図」の補足・書き換えを試みる。

 

連載記事のリスト

 

ソーシャルメディアの「地図」

 武田隆は、著書である『ソーシャルメディア進化論』の文中において、日々複雑な広がりを見せているソーシャルメディアを説明するために、「ソーシャルメディアの地図」を提案している*1

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 これは、現存するソーシャルメディアを4つの種類に分類し、それぞれの特性と利点を並べたものだ。縦軸は人々が繋がる「拠りどころ」の種類で、横軸は人々が繋がりの場に「求めるもの」の種類で、それぞれソーシャルメディアを大別している。

 具体的には、縦軸は「現実生活」と「価値観」横軸は「情報交換」と「関係構築」という分類で区別されている。そして各々が重なる4つの領域ごとにソーシャルメディアを分類し、考察を行なっている。

 ①は、現実生活と関係構築が重なるソーシャルメディアの領域だ。この場所には、mixiやFacebookなどのSNSにおける知人リストが属する。

 これらには、知人同士の連絡網としての役割を果たすという利点があるとされる。しかし一方で、現実生活の交友関係をそのままオンラインに持ち込むことになるため、お互いを常に監視するような息苦しい空間となってしまうことも有り得る。

 ②は、現実生活と情報交換が重なる領域だ。ここにはSNSにおけるコミュニティやサークルといった、特定のテーマの下に集まる集団が属する。

 SNSの利用者の大半は、何らかのそれらのグループに所属していると思われるが、そこで積極的にコミュニケーションを取ることは少ないと推測される。そもそも情報交換は利便性や有効性を求めるものであり、そこに現実生活の安心感と窮屈さは邪魔になってしまうだろう。

 ③は、価値観と情報交換が重なる領域だ。2ちゃんねるやカカクコム、Wikipediaなどの様々なサービスが挙げられる。

 この領域のソーシャルメディアに共通するのは、匿名性の高さであり、自由な発話環境が目的合理性を備えることで、多くの参加者に有益な集合知が作られる。そこではマイノリティの事象も扱われるが、逆に「これが世界のすべてだ」と誤解させ、マイノリティ以前の事象である声なき声は黙殺されてしまうと考えられる。

 ④は、価値観と関係構築が重なる領域だ。この領域には今のところ、「ラグナロクオンライン」などのネットワークゲームに類するサービスしか見当たらない。

 様々な価値観を持つ人が集まり、お互いの唯一性を確認することで親密な空間をもたらし、孤独を昇華する強力な発話環境を創り出す可能性を秘めている。しかし他方では、そのような空間は他の公的な空間と繋がることを否定するものであり、閉鎖され繭化した、社会と無縁になっていく危険性も孕んでいるとされる。

 以上が、『ソーシャルメディア進化論』における「ソーシャルメディアの地図」の簡単な説明だ。人々の繋がる場所とその目的、これらふたつを軸としてソーシャルメディアを4つの領域に区分けすることで「地図」を描いた。これからますます複雑に広がっていくことが予想されるソーシャルメディアを俯瞰する上でも、この地図はひとつの指標となるはずだ。

 

関係を創造するメディア

 前回も述べたように、ソーシャルメディアは誰もが発信者になれる場所であり、そこでは他の人と情報交換や交流をしながら、あらゆるモノを作り出すことができる。ソーシャルメディアは人と繋がることで生まれ、機能を果たすメディアであると言えるだろう。

 その点を念頭に置いた上で、地図上の指標である2つの軸について考察を行う。

 まず、縦軸について。この軸は「拠りどころ」という言葉で表現され、ソーシャルメディアは「現実世界」と「価値観」という2つの繋がり方で大別されている。この軸における区別を考えると、これらは一方で、それぞれ「オフライン」と「オンライン」と言い換えることもできるのではないだろうか。

 そもそも、インターネット上のサービスであるソーシャルメディアに対して、オフライン・オンラインという言葉を使うことに、違和感を覚える人もいるかもしれない。

  だが、ソーシャルメディアはインターネットという仮想世界で見知らぬ人々を繋げるツールであると同時に、現実世界の交友関係をそのまま仮想世界に持ち込むことのできる存在でもある。さらに最近では、逆に仮想世界の交友関係を現実世界に持ってくるということも日常的に行われるようになっている。

 つまり、そのソーシャルメディアが「現実世界」=「オフライン」の関係を持ち込んだ場であるか、または現実での交友関係から離れて、「オンライン」で初めて共通の「価値観」の下で作られた場であるか。このような意味で、縦軸は「拠りどころ」であり、「出会いの場」とも捉えることができると思う。

 次に、横軸について。この軸はソーシャルメディアに「求めるもの」の違いで大別され、軸のそれぞれの方向に「情報交換」と「関係構築」がある。これらの区別は妥当だろうか。

 この点について大元隆志は、ソーシャルメディアを個人で利用としたときのメリットとして「情報流通・収集」と「人間関係の補完」の2つを挙げている*2

 ソーシャルメディアが「メディア」たる所以は、そこにたくさんの様々な情報が行き交っているからだ。インターネット上に溢れかえった膨大な情報の中から有益な情報をを探したり、マスメディアや他の媒体から得られない情報を送受信したり、多数のアイデアを瞬時に集めたり。それらを行う手段として、ソーシャルメディアは非常に有能であると言えるだろう。

 一方で、「人間関係」という部分に焦点を当てると、武田は「関係構築」、大元は「関係の補完」というように、少し異なった意味合いの単語で説明している。

 両氏の意見に大きな差異はないが、前者はオンラインで新しい関係を作る、という点に特に着目しており、オフラインの交友関係をオンラインに持ち込むことに対しては懐疑的だ。その点は、「構築」という言葉を使っていることからも窺える。反面、後者は「補完」という表現はしているものの、現実世界の繋がりがソーシャルメディアの中でもたらす効用としては、災害時などの連絡手段しか挙げていない。そのため、表現こそは違えど、両氏の意見は一致している。

 私は、現実世界の関係をソーシャルメディアに持ち込むことには、連絡網としての以外にもメリットはあると考える。

 ②の領域の説明で述べたような窮屈さも、確かにあるかもしれないが、オンラインだからこそ見えてくる相手の一面もある。また、現実で問題に直面したとき、そしてそれが見知らぬ人には話せないような内容であるとき、頼りになるのはやはりオフラインでの交友関係だ。SNSなどで彼らと繋がっていればすぐにでも相談し、多くの助言を得ることができる。これは、時間や距離などの都合に関係なく意思疎通のできるソーシャルメディアだからこそ可能なことだろう。

 このような点も鑑みた上で、私は横軸にある「関係構築」を求める場に関しては補足を加えたい。つまり、ソーシャルメディアに求められている関係はインターネット上で新しく作られるものだけではなく、現実世界での関係も取り込んだ「関係補完」を求める場としてのニュアンスも含めるべきではないだろうか。

 

「地図」の再検討

  では、地図の指標となる縦軸と横軸によって導き出されるそれぞれの領域、①から④については妥当であるだろうか。前節で確認した、縦軸=「拠りどころ」(現実生活と価値観=オフラインとオンライン)、横軸=「求めるもの」(情報交換と関係構築・補完)という指標も念頭に置いた上で考察を加えたい。

 

①現実生活と関係構築が重なる領域

 まず、現実生活と関係構築が重なる領域である①について。この領域の特徴を持つソーシャルメディアとして、何よりもふさわしいサービスはFacebookだろう。他の匿名SNSとは異なる、実名性を選択していることがその理由だ。現実生活における人間関係をそのまま取り込んだ場として機能しており、この領域の2つの特徴を余すことなく体現している。

 しかし、だからと言ってmixiなどの他の匿名SNSがこの領域には属さないかと言うと、微妙なところではある。なぜならば、実名性はそれ以外の選択を許さないある種の規則だが、匿名性の場合は利用方法に選択の余地があるからだ。

 ハンドルネームというウェブ上での名前と人格で見知らぬ他人と交流するも良し、自らのHNをリアルの知り合いに教えることで現実生活の関係を持ち込んでも良し、その両方を同時にこなすことすら可能だ。そのため、匿名SNSはユーザー各々の使い方によって①の領域に属しながら、③の価値観と情報交換が重なる領域などにも属し得ることが考えられる。

 また、この領域の問題点として挙げられた「オンラインに持ち込んだ現実生活の交友関係によって、お互いを常に監視するような息苦しい空間となってしまう」という指摘は確かに正しく、妥当なものであると思う。これは2006年頃から存在していた「mixi疲れ*3」という言葉にも見られるように多くのユーザーが感じていた問題であり、誰の目にも明らかなものだと言える。

 一方で、この領域にブログが属していることに関しては疑問がある。ブログがこのエリアの仲間に入っていることについて武田は、「有名人でもない限りは閲覧者を増やすことが困難であり、現実の知人に紹介する傾向にあるため」という説明をしているが、本当にそうなのだろうか。

 いわゆる「ブログブーム」と呼ばれた2005年前後ならばその通りだろう。2006年の調査では、ブログに書く内容として自らの趣味や生活に密着した内容を挙げる人が多い、という結果が出ている*4。これは、ブログが日本においては「日記サイト」や「趣味サイト」としての特色を持ったサービスとして形作られ、発展してきたことによるものだと考えられる。

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 しかし、現在ではこの事情も変化しつつあるようだ。その理由は、他のソーシャルメディアの台頭にある。

 ブログでは、いつも見てくれる固定の閲覧者を確保することが課題となってくるが、SNSにおいてそれは難しいことではない。「友達リスト」という目に見える繋がりがあるため、実名・顕名に関わらずすぐさま仲間を見つけて繋がることができるからだ。さらに、より短い時間で情報の発信が可能なTwitterなどのミニブログの登場によって、「日記」としての役目も奪われてしまった。

 このようなことから、現在のブログはどちらかと言えば専門性の高い情報の発信の場として使われる場合が多いと思われる。それ故に、ブログは①の領域に属すると同時に、③の価値観と情報交換が重なる領域にも加えるのが妥当だろう。

 

②現実生活と情報交換が重なる領域

 次に、②の現実生活と情報交換が重なる領域はどうだろうか。ここでは、SNSにおけるコミュニティやサークル、グループといった特定のテーマで集まった集団が挙げられている。

 この領域の特徴を加味すれば、特に「情報交換」を目的とした「現実生活」で繋がりのある人々の集団であると言い換えられるが、そうするとここはあまり活発な領域であるとは言えないだろう。そのような集団に当てはまるものは、いわゆる「地域SNS」と呼ばれるジャンルであり、今のところはほとんど成功例のない小さな分野であるからだ。

 地域SNSが流行らない理由として、前に、利便性や有効性を求める情報交換においては現実生活の安心感と窮屈さは邪魔になってしまう、という説明をした。交友関係に利便性を求めることに対するミスマッチは確かにあるだろう。さらに付け加えるならば、宮脇睦はビジネスの視点から「客数の制限」という点について触れている*5。つまり、特定の地域というのはその地域人口が「最大客数(期待値)」であるため、「不特定多数無限大」というネットの利点と逆行している、ということだ。

 このような理由から、この領域のソーシャルメディアについては改めて検討が必要であると思う。上記のようなミスマッチを防いだ上で、現実生活の関係性を取り込みながら情報交換の役割を果たしているサービス。そのようなサービスを新しく示しながら、この領域については後ほど説明したい。

 

③価値観と情報交換が重なる領域

 ③の価値観と情報交換が重なる領域を見ると、2ちゃんねるやカカクコム、Wikipediaといった、「ソーシャルメディア」という言葉が現れる前からウェブ上に存在した各サービスが見受けられる。

 この領域は言わば、昔から今へと続くインターネットのメインステージだ。それらに共通するのは高い匿名性であり、自身の素性を明かすことなく自由な環境で思い思いの情報交換を行うことができる。

 この領域での情報交換は、主に消費者たちが持ち寄った情報によって、いわゆる「クチコミ」を介して行われる。この仕組みを、大元隆志は次のように説明している。

 ソーシャルメディアにおける情報の流通の多くは、他者の「Viral(クチコミ)」を通じてもたらされ、人はクチコミによって「Influence(影響)」され、「Sympathy(共感)」をいだけば「Action(購買・参加)」に繋がり、その結果を誰かと「Share(共有)」する。大元はこのクチコミを循環させる人々の行動パターンをそれぞれの頭文字を繋いで、「VISAS」と呼んで表現している*6

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 クチコミの問題点を挙げるとすれば、それはこれまで幾度にも渡って議論されてきたように、情報の不確実性だろう。

 発話者がユーザー個人であるために、その情報は主観や偏見などによって歪められる恐れが大いにある。デマである可能性も否定できない。他のマスメディアなどからは得られない有益な情報を入手できる一方で、偏った情報に踊らされるかもしれないことも考慮しなければならない。従って、この領域のソーシャルメディアを利用する際には、情報を取捨選択し、充分に吟味する能力が求められる。

 

④価値観と関係構築が重なる領域

 最後に、価値観と関係構築が重なる領域である④について。ここには今のところネットワークゲームしか見つからず、未だ発展途上の領域であると説明されている。ネットワークゲームやオンラインゲームと聞くと、「引きこもり」や「ネット廃人」といった負のイメージが強いようにも感じる。だが、本当にそうなのだろうか。

 濱野智史と佐々木博は、オンラインゲームの面白さのひとつとして、社交性の説明をしている。仲間との協力体制や、現実と同じく基本的にはリセットできない点、回復魔法による言葉のいらない善意のコミュニケーションなど、そこには非常に濃い人間関係や社会があるということだ。そのため、現実生活と同じようにコミュニケーションスキルがない人には、オンラインゲームを続けるのは難しい*7

 このようなことからも、オンラインゲームはただの娯楽ではなく、ある意味では「社会」を内包した存在であると言い換えることもできるだろう。

 だが一方で、そのゲームの中の社会は現実と繋がる機会がほとんどないため、前述の通りに閉鎖された空間であることも事実だ。この領域ならではの親密な空間を維持したままに、外界と繋がり、関係性を広げていくことのできるようなソーシャルメディアは現れるのだろうか。現状では何とも言えないが、この領域の可能性についてもさらに掘り下げて後述したい。

 

新たな「地図」を描き出す

 では、本記事の総括として、「ソーシャルメディアの地図」を下地とした、自分なりの新しい「地図」を描き出してみることにする。これまでに検討してきた内容を組み入れるだけではなく、既存のソーシャルメディアの地図では描かれていない、幾つかのサービスも含めようと思う。

 

位置情報サービス

 近年、活性化しつつあるインターネット上のサービスのひとつとして挙げられるのが、GPSを利用した位置情報サービスだ。日本国内ではモバゲーやGREEなどのソーシャルゲームの要素として多く組み込まれており、実際に遊んだことのある人も少なくはないと思われる。

 GPSによって現在いる場所を特定し、チェックインしたその地域の名産品を集めるコレクション性の高いものや、何度も訪れることでポイントを入手して仲間と競うもの、はたまた陣取りのようなものなど、ゲームの種類は様々だ。

 そのような位置情報を利用したサービスの中でも最も有名なのは、foursquareだろう。全世界で1000万人ものユーザーを有し*8、今なお拡大を続けているサービスであり、ソーシャルメディアのひとつとしても数えられる。日本にも多くのユーザーが存在し、渋谷駅と新宿駅はそれぞれ、鉄道の駅としては一日のチェックイン数が世界で二番目と三番目に多い場所となっている*9

 では、このfoursquareは、「地図」における4つの領域のどこに属するだろう。私は、②の現実生活と情報交換が重なる領域に加えるのが妥当であると考える。

 foursquareでは駅や店、学校や公共施設など、現実のあらゆる場所にチェックインすることができ、さらにその場所の口コミ情報を掲示板のように書き込むことができる。このシステムは、言わば「場所」という「現実生活」で繋がった人々が「情報交換」を行うことができるものであり、②の領域の特徴を確実に体現していると言えるだろう。

 さらに、この領域の問題点であった客数の制限や、利便性を求める情報交換で不要となる現実生活の安心感と窮屈さなどの要素も、foursquareは見事に解消している。

 あらかじめ参加者と参加人数が限定されている地域SNSとは異なり、foursquareでは外からも様々な人が入れ替わり訪れ、通り過ぎていく。「不特定多数無限大」というネットの利点を持ち合わせたままに、有意義な情報交換を行うことのできる空間として、foursquareは何よりもこの領域のソーシャルメディアとして相応しい。

 

共同購入型クーポン

 また、同様に②の領域に挙げられるソーシャルメディアとして、グルーポンなどの共同購入型クーポンを加えたい。同様のサービスにはポンパレやシェアリーなどがあり、いわゆるフラッシュマーケティングと呼ばれる手法を用いたものだ。例えば「24時間以内に30人の購入希望者が集まれば商品が7割引」というように、時間や数量を限定することで集客力を高めたお得なクーポンとなっている。

 これらは、「顧客をオフラインに繋げた初めての広告*10と表現されるように、オンラインの利用者を確実にオフラインの店舗に実際に連れてくることのできる点が革新的だ。

 つまり、オンラインでの商品の「情報交換」によって、オフライン=「現実生活」で実際に行動が起こされるということであり、先程の位置情報サービスとは順番が逆だが、②の領域の特徴を満たしているのと言えるのではないだろうか。

 

オンライン動画配信サービス

 もう一ヶ所、再検討が必要な領域として、価値観と関係構築が重なる④を挙げた。発展途上のこの領域に加えるソーシャルメディアとして、私は双方向性の動画プラットフォームサービスであるUstreamやニコニコ生放送を推薦したい。

 これらはオンライン動画配信サービスであり、ユーザーであれば誰もが、自らの撮影したものを「生放送」として不特定多数の人間に発信できるというツールだ。前の記事でも説明したように用途は様々だが、使い方によっては価値観と関係構築の領域を満たし得るものになると考える。

 その使い方とは、ユーザー個人での生放送であり、それが視聴者である他のユーザーとの交流を目的としたものである場合だ。

 最初はもちろん、お互いに初対面だが、放送を重ね、会話を重ね、相手を知ることで視聴者は「常連」となり、配信者と視聴者それぞれが楽しい時間を過ごせるような「思いやり空間」を作り出すこととなる。そこには情報交換などの具体的かつ生産的な目的はないが、紛れも無い人間関係が構築されている。オンラインゲームとはまた毛色が違うが、独特の親密な空間が孤独を昇華する、という点では同様の特徴を持ったソーシャルメディアと言えるだろう。

 

ソーシャルネットワーキングサービス

 「地図」を描き直すに当たって、もう一点考えておかなければならないことがある。ソーシャルメディアの代表的存在と言えるSNSの扱いについてだ。

 「ソーシャルネットワーキングサービス」という括り全体で見た場合、それは使い方や繋がる相手によって様々な領域に属し得ると考えられる。Facebookなどの実名を前提としたサービスでは①の領域が相応しいが、mixiなどの仮名のユーザーが多い場合は③の領域が妥当だ。

 この辺りの差異について、どのように地図上で表現するかを決める必要がある。mixiやGREEなどのSNSにおいて仮名を使った交流を行う場合、3つの段階でそれぞれ3つの領域に加えることができる、というのが私の考えだ。

 まず第一段階では、③の領域に属する。お互いに本名も詳しいプロフィールも知らないが、趣味などの「価値観」を同じくし、その「情報交換」を行うことで交流が作られる。

 同じ領域の仲間である掲示板やクチコミサイト同様に有益な集合知を作り出し、さらにSNS特有の友人リストによる繋がりが生まれることで、より強い関係を築くことができる。

 交流も深めることで生まれた関係性は「情報交換」に留まらず、お互いをよく知るための「関係構築」へと発展する。これが第二段階であり、④の領域に属する。

 これまで通り、同じ興味の対象についての情報を交換しながらも、相手のことを知り、もっと仲良くなりたいと考える。そこで作られた「思いやり空間」によって、前述したオンライン動画配信サービスと同種の一体感もまた生まれると考えられる。

 繋がりが構築され仲良くなった先にあるのは、「では実際に会いませんか?」というひとつ上の新しい関係性だ。第三段階では、①の領域に属する。

 これまでは相手の顔も見えないオンラインに限っていた関係を、オフライン=「現実生活」に持ち込むことになる。実際に会うことでより結び付きが強くなるか、はたまたそれまでの想像とのギャップに堪え切れず縁が切れるか。何れにせよ、「価値観」と「情報交換」がきっかけで始まった関係性は、「現実生活」に現れることでひとつの結末を見ることとなるだろう。

 まとめると、匿名SNSは3つの領域に属すことが考えられ、そこで築かれる関係の発展に伴って③、④、①という順に性質を変えていく、これが私の考えだ。加えて言えば、ブログサービスも日記や情報交換など様々な利用方法があるため、SNS同様に複数の領域に加えるのが相応ではないだろうか。

 

新「ソーシャルメディアの地図」

 これまでに検討した内容を加味した上で描き出した、新「ソーシャルメディアの地図」が以下のものになる。

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 SNSとブログを一括りとして中心に置き、地域SNSを②、他のSNSを①、③、④の領域に属するものとしてまとめた。そして、その中でも特徴のあるものは各領域に振り分けている。実名性であり、ビジネス色の強いFacebookやLinkedInは①に。情報拡散能力の高いTwitterやTumblrなどのミニブログは③に。ソーシャルゲームに特化したmobageやGREEは④に。

 それぞれのサービスは属する各領域の特徴を特に持っているが、SNSまたはブログという括りである以上、他の領域にも属し得るということを、中心の円に繋げることで表した。

 4つの領域に描かれた各サービスについては、本章で述べた通りにその中でも代表的なサービス名を記している。

 ①のmixiと前略プロフィールは匿名SNS、FacebookとLinkedInは実名SNS。②のfouraquareは位置情報サービス、GROUPONとポンパレは共同購入型クーポン。③のYouTubeとFlickrは動画・写真共有サイト、価格.comと食べログはクチコミサイト、2ちゃんねるは掲示板、OKWaveとYahoo!知恵袋はQ&Aサイト、TwitterとTumblrはミニブログ。④のUstreamとニコニコ生放送はオンライン動画配信サービス、mobageとGREEはソーシャルゲーム・SNS。以上の通りだ。

 ソーシャルメディア全体を把握することは叶わないが、そこにどのようなサービスがあり、どのような特徴を持っているか、ということを知る上では適度に簡潔で分かりやすい「地図」となったのではないかと思う。

 しかし、ソーシャルメディア関連の事情は変化が激しく、その時々の状態を知るためには常に最新の地図が必要となるだろう。そこにあるサービスは度々変わるかもしれないが、2つの軸と4つの領域が揺らぐことはしばらくの間はないはずだ。付け加えるならば、ソーシャルメディアの「今」を知る道しるべとしてこの地図を使いながら、新しいソーシャルメディアの登場も予測できるようになれば最良だ。

 

本連載の記事一覧

※参考資料は「第3回」の記事にまとめて掲載しています
※敬称略

*1:武田隆(2011)、ソーシャルメディア進化論、ダイヤモンド社、P.137

*2:大元隆志(2011)、ソーシャルメディア実践の書、リックテレコム社、P.18

*3:コメントの義務化に見る『mixi疲れ』の秘密、FPN(2006/7/9)、http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=1561

*4:ブログ・SNS利用の現在~利用者アンケート調査から~、Wisdom(2006/9/29)、http://www.blwisdom.com/itbz/02/3.html

*5:宮脇睦(2011)、CGMはつらいよ。地域SNSが直面するリアルの壁、Web担当者Forum、http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2007/11/07/2130

*6:大元隆志(2011)、ソーシャルメディア実践の書、リックテレコム社、P.92

*7:濱野智史、佐々木博(2011)、日本的ソーシャルメディアの未来、技術評論社、P.105

*8:Foursquare Now Officially At 10 Million Users(2011/6/20), http://techcrunch.com/2011/06/20/foursquare-now-officially-at-10-million-users/

*9:foursquareは何を起こしているのか?――foursquare入門、ASCII.jp(2011/2/17)、http://ascii.jp/elem/000/000/589/589442/

*10:徳力基彦(2011)、グルーポンは単なる“安売りサービス”ではなかった、日経ビジネスオンライン、http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110623/221099/