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161人の習慣から“継続は力なり”を実感する『天才たちの日課』

 「1万時間の法則」というものがある。ネット上でもしばしば話題に挙がるこの法則、どこかで耳にしたことがあるという人も結構多いのではないでしょうか。

 これは一口に言えば、「ある分野で習熟して一流になるためには、1万時間の練習が必要である」という主張*1。是非はさておき、1日4時間ずつで計算してみると、1万時間に達するまでに必要な年月は──おおよそ7年。「毎日欠かさず7年間」を実践するのは、なかなかに困難であるように思う。

 そもそも、ただでさえ仕事だ何だと忙しくしている日々の生活に、新たに4時間もの時間を割ける人はそうそういない。また、その習慣が定着する前に飽きてしまったり、別のことに興味を惹かれたりする可能性だってある。よほど好きなことでもないかぎり、年単位で活動を継続するのは難しい。

 僕自身、こうして好きで書いているブログだって、今年でようやく5年目になります。しかも毎日更新しているわけでもないので、 “1万時間” の達成には程遠いはず。とてもじゃないけれど、 “一流” だなんて名乗ることはできません*2

 そんな己の現状を鑑みると、何らかの創作活動や勉強を長年にわたって続けている人は、本当にすごいと思うんですよね。ただ漫然と過ごすのではなく、特定の活動を自然な「習慣」として自身の生活に落としこむことは、それだけである種の「才能」なんじゃないかと思えてくる。

 実際、いわゆる「天才」と呼ばれる人たちのなかには、日々の小事──決まった「日課」を数十年単位で継続することで、大事を成すに至った人も少なくないと聞きます。

 そりゃもちろん、天才だからと言って、歴史的名著や名作を一夜にして生み出したわけではないはず。彼らにも日々の生活があり、特定のルーチンを積み重ねるなかで技術を磨き、その果てに後世に残る作品を生み出すに至ったことは、想像に難くない。

 ──ということは、逆に考えると、彼ら「天才」たちが実践していた「習慣」や「日課」を知ることで、僕らが学べるものもあるのでは……? 「真似すれば天才になれる!」なんて簡単なものではないものの、彼らも同じ人間として日々を過ごしていた以上、きっと参考になる部分もあるはず。

 

 

 ──というわけで、そのままずばりの内容が書かれた本『天才たちの日課』を読みました。きっかけになったのは、骨しゃぶりid:honeshabriさんのブログです(参考リンク:読書の習慣をつけるのに向いた精神的コストが軽い本5選 - 本しゃぶり

 

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「天才」たちの日常と生活スタイルを覗き見る

 『天才たちの日課』は文字どおり、古今東西の「天才」の習慣をまとめた1冊だ。その数なんと、161人。登場するのは、小説家、詩人、芸術家、哲学者、研究者、作曲家、映画監督など、十人十色の天才たち。ぶっ飛んだエピソードも出てきて、最初から最後まで興味深く読めました。

 ただし、161人ものエピソードを取り上げているということもあって、一人ひとりの尺は短め。長くても1人6ページほどで、その人の生活習慣をまとめている。

 個々の項目が短いとはいえ、その内容は想像以上に濃密。伝記やインタビューの記録を参照しつつ淡々と日課を羅列しているところもあれば、その人が日々実践している習慣を事細かに解説している項目も。サクサク読めるため、スキマ時間に少しずつ読み進めてもいいかもしれない。

 なかには、ごくごく平凡な日常──何時に寝て何時に起き、何を食べていたか、家庭環境や性事情はどうだったか──といった、プライベートな部分まで踏みこんだ内容も。当人が語った私生活の記録あり、身近な家族・友人目線のおもしろおかしい指摘もありと、読み物としても純粋に楽しい。

 登場する「天才」たちの生活スタイルは、当然、人によってさまざま。

 朝6時から昼過ぎまでぶっとおしで作曲に耽るシューベルトのような作曲家がいれば、午後2時にならないとアトリエに入らないピカソのような画家もおり、午前は3時間、午後にも3時間、規則正しく仕事をするサルトルのような哲学者もいる*3

 また、各々に生活リズムが異なるのはもちろん、仕事の取り組み方もいろいろ。

 7時間ぶっとおしで書き続けるバルザック、自身が発した言葉をすべて書き留めていたユーゴー、変人からの手紙も含め1通も余さず返事を書いていたダーウィン、2時間の散歩を欠かさなかったチャイコフスキー、煙草なしでは絵が描けないバルテュス──などなど。

 本書を読むのは、これまで主に作品を通してしか見ることがなかった「天才」たちの素顔を、窓からこっそりと覗き見るような体験だった。なかには偏執的な習慣を持つ人もおり、意外に感じることもあれば、納得できてしまうことも。

 「それをずっと続けられるとか、尋常じゃねえ……」などと天才の片鱗を垣間見ることがあれば、ごくごく平凡な日常生活の様子から、「あの人も普通の人間だったんだな……」と共感を覚えることもあり。必ずしも奇人・変人のような話ばかりではないものの、読んでいておもしろい。

 特に印象的だったのが、「千差万別にも思える彼らの日課のなかにも、少なからず共通点がある」という点。訳者あとがきにもありましたが、 “邪魔の入らない深夜に創造的な活動をする人と、頭の冴えている午前中にやるという人に分かれる” というのが、その最たるものかと。

 付け加えると、特に作家・詩人・作曲家といった創作分野の人ほど、集中して仕事に取り組む時間が「3時間前後」で共通しているようにも読める点も興味深い。たとえば、イギリスの小説家アンソニー・トロロープの章では、以下のような彼の言葉が引用されている。

 

文筆家として生きてきた者──日々、文学的労働に従事している者──ならだれでも、人間が執筆をするのに適した時間は一日せいぜい三時間であるという私の意見に賛同するだろう。しかし、文筆家はその三時間のあいだ、途切れることなく仕事ができるよう、訓練すべきである。つまり、ペンをかじったり、目の前の壁を見つめたりすることなく、自分の考えを表現する言葉が見つかるように、おのれの頭を鍛えなければいけない。

メイソン・カリー著『天才たちの日課』Kindle版 位置No.552より

 

 同時に多かったのが、「午前中の3時間」は集中的に仕事・創作活動に打ちこみ、午後はそれ以外のことをして過ごすパターン。昼を過ぎると事務作業をこなしたり、社交の時間に当てたり、読書や散歩をして過ごしたりする人が多いように読めた。夜型人間も決して少なくはないのですが。

 また、おそらくは時代や文化といった要因も大きいのでしょうが、煙草・飲酒・ビタミン剤を常用している人が想像以上に多かった。アンフェタミン──覚醒剤の使用が当たり前だったり、毎日とんでもない量のアルコールに浸っていたり。みんな大好き、フロイト先生もこう仰っています。

 

十七歳になる甥にタバコを勧めて断わられたとき、フロイトはその甥にこういった。「喫煙は人生で最高の、しかももっとも安上がりな楽しみなんだぞ。それをやらないと早々に決めているなんて、気の毒というしかないな」

同著Kindle版 位置No.739「ジークムント・フロイト」の章より

 

 その一方では、「散歩」を日課にしている人の多さも目に留まる。ベートーヴェン、キルケゴール、フローベール、ユング、マーラー、シュトラウス、カント、カフカ、サティ、ホッブズ、バルザック、ダーウィン、チャイコフスキー、ラフマニノフなど。

 ほかにも運動を取り入れている人は多くいたけれど、「散歩」に限ると……なんとなく、作曲家が多いような?

 徹底的に引きこもることで創作者としての真価を発揮する人も登場しますが、多くの人は散歩や運動、さらには会社勤めといった、創作外の活動からインスピレーションを得ていた様子。これまた一人ひとりを詳しく見ると、散歩にもこだわりがあったりしておもしろかった。

 

十人十色の「習慣」と、現代にも通じる「やる気スイッチ」

 このように、天才たちの習慣からは共通点を見つけることができる一方で、各々にオンリーワンの変わった「日課」を持っている人も少なくない。古今東西の161人、しかも天才とくれば、そりゃあ偏執的な習慣を持っている人がいてもおかしくないわけで。

 たとえば、50種類のコーヒーカップから毎日ひとつを秘書に選ばせ、カップから溢れるほどの砂糖の山にコーヒーを注いで飲んでいたというキルケゴール。コーヒー・紅茶・酒を独特の方法で飲んでいる人は一定数おり、その多くが「それが自身のエネルギーの源だった」と語っている。

 他方では、大量のカタツムリと暮らしていたハイスミスや、仕事部屋の引き出しに腐ったリンゴをいっぱい入れていたシラーのような例も。創作意欲を促す方法として、独特の環境を作っていた模様。仕事を始める前に酒を準備し、一定のペースで飲んでいたというケースも複数あった。

 そのほかにも、行き詰まると三点倒立をしていたストラヴィンスキー、創造性を高めるため頻繁にシャワーを浴びているウディ・アレン、1冊の本の執筆前と後に体重を量るシムノン、毎朝2時間ほど腐ったゴミの写真を撮るギャスなど、それとなく共感できるものもあれば、まったくもって理解不能な日課も。逆立ちはわかる。高校時代、試験勉強中によくやってた。

 これら固有の日課は、いわゆる「ジンクス」として捉えることができるものだと思う。あるいは「お約束」とか、「やる気スイッチ」とも言い換えられる種類の行為。現代においても、作業を始める前に特定の行動を挟んでいる人は相当数いるのではないかしら。

 ただし本書の場合、取り上げられているのは有名な「天才」たち。「かの天才たちにも “スイッチ” があったのだなあ……」と考えると、急に親近感がわいてきて不思議な気持ちに。自分と近いことをやっている人がいないか、探しながら読んでみるのもおもしろいかもしれない。

 しかし、そのように天才たちを身近に感じる一面がある一方で、読めば読むほどに強く実感させられることもある。

 それが、特定の活動を繰り返し、年単位で淡々と取り組み続けることが、どれほど難しいか、ということ。何があろうと己のリズムを乱さず、困難とわかればすぐに軌道修正し、それを当たり前にこなしている彼らはやはり紛れもない「天才」なのだと、改めて実感させられた。

 とはいえ、誰もが最初からそうだったわけではないということも、本書からは読み取れる。むしろ当たり前に続けるのが難しいからこそ、酒や煙草、あるいはその他諸々の「日課」に頼ることで、自身を脅迫的に仕事へと駆り立てている。そんな人も、決して少なくないように読めた。

 「作家はきついなんてもんじゃない。悪夢だ」。そのように語ったフィリップ・ロスは、あるインタビューで次のように話したそうな。

 

五時に起きて、眠れなくて、仕事したくなったら、家を出て仕事場に行く。いつでも出動できる。僕は救命救急医で、仕事場は救命救急室。そして急患は僕自身だ。

同著Kindle版 位置No.2267「フィリップ・ロス」の章より

 

 他方では、ヘミングウェイは自分をごまかさないため、書いた語数を毎日記録していたという話。また、村上春樹は「繰り返す」ことで自分を一種の催眠状態にもっていき、精神の深層へと潜るのだとも書かれていた。

 こうして見ると、無条件に仕事が楽しい人、創作活動を常に刺激的に感じられる人は、やはり圧倒的に少数であるようにも感じる。──無尽蔵のエネルギーでもって、いつでもどこでも自身を捧げることができる。そんな生来の「天才」は、実際のところは数少ないのだなあと。

 仕事と割り切り前向きに楽しんでいる人がいれば、生活と仕事と創作のバランスを絶妙にコントロールしている人もいて、常に苦しみのなかで創作している人もいる。苦楽の個人差こそあれど、彼らは等しく「習慣」によって己を制御し、仕事や創作へと向かわせている。そのように読めました。

 

「優れた洞察力が働く瞬間瞬間を維持するには、厳しく自己管理をして、規律ある生活を送らなければならない」

同著Kindle版 位置No.913「ヘンリー・ミラー」の章より

日常のこまごました事柄を、努力せずに無意識に行なえるようにしてしまえば、その分、頭脳に余裕ができ、よりレベルの高い仕事ができるようになる。

同著Kindle版 位置No.1321「ウィリアム・ジェイムズ」の章より

「私は毎日書かなければならない。それは成果をあげるためではなく、習慣を失わないためだ」

同著Kindle版 位置No.2601「レフ・トルストイ」の章より

寝室と同じように、執筆する部屋はプライベートな空間でなくてはならない。そこは夢を見にいく場所だ。そこに入る時間は毎日だいたい同じだが、出るのは自分の千の言葉が紙やディスクの上に記録されたとき。スケジュールは習慣をつけるため、夢を見る態勢を整えるためにある。

同著Kindle版 位置No.3406「スティーブン・キング」の章より

 

 本書は、ハウツー本のように、読んですぐに役に立つような本ではありません。

 スキマ時間にパラパラと気ままにページをめくって、なるほどと納得したり、笑わされたり、ハッとしたり、思わず共感してしまったり。気軽に「天才」の習慣を覗き見るなかで、ちょっとした気づきを得られるかもしれない──そんな読後感を持つ1冊でした。

 ただ間違いなく言えるのは、これほど大勢の「日課」を垣間見れば、自分自身の「習慣」を省みずにはいられない、ということ。なんたって161人もの実例が書かれているのだから、参考になる習慣・考え方との出会いがあってもおかしくはありません。

 「よっしゃ! フロイト先生を真似してヘビースモーカーになったろ!」とはさすがに考えないものの、自分なりの「スイッチ」を考えるきっかけとして、本書は自身の習慣を見直すきっかけになるのではないかしら。

 自分の「習慣」を考え、「仕事」を振り返り、「生活」を見直し、ひいては「人生」に思いを馳せる。161パターンの先人の日課を参考に、「日課」を再考してみよう。

 

「しっかりと習慣を守ること、それが最後までやり遂げるコツだ」

同著Kindle版 位置No.2990「ジョン・アップダイク」の章より

 

 

関連記事

*1:マルコム・グラッドウェル著『天才! 成功する人々の法則』より。

*2:はたして、ブログに“一流”があるのかどうかはさておき。

*3:ただ、サルトルの私生活はあまりにも不摂生すぎたため、1950年代には倒れる寸前だったとも。