ぐるりみち。

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ようこそリアルジャパリパークへ!舞台『けものフレンズ』で2.5次元の魅力を知った

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 第一印象は、いい意味で「学園祭みたいだな」だった。

 別に舞台のセットがお粗末だとか、役者さんの演技が残念だとか、そういう意味ではありません。単純な話、恥ずかしながら自分が「舞台」なるものをほとんど観たことのない人間であるゆえに、それ以外に表現のしようがなかったのです。

 この日訪れたのは、品川プリンスホテルクラブeⅩ。

 びっしりと椅子で埋められたホール内の客席から舞台を見れば、背後には大きなジャパリパークの遠景が描かれている。頭上には「JAPARI PARK」と書かれた錆びたアーチ上の看板――これは、アニメ版でおなじみの「ペパプ予告〜♪」を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。もちろん、これからあのステージ上でドッタンバッタン大騒ぎするのはアニメのキャラクターではなく、フレンズの仮装をした役者さんたちなのだけれど。

 

 そう、今日観に来たのは、舞台『けものフレンズ』だ。

 

 上演前の浮ついた雰囲気のなか、客席でぼーっとしていると、尾崎由香さんによる注意事項のアナウンスが聞こえてきた。小さな劇場にいっぱいに座った老若男女のヒトたちは、それとなく声を潜め、よく知るサーバルちゃんボイスに耳を澄ましている。

 前を見れば白髪のおじいちゃんがおり、後ろを見れば幼い兄妹を挟んで座る両親がいる。「劇の後半、合図をしたらスティックライトで応援してねー!」というアナウンスを聞いて、「ぷいきゅあー!」なイメージが途端に脳裏に浮かんだが……なんてことはない。実際に現在進行形で「ぷいきゅあー!」していそうな世代も、劇を観に来ているのだ。

 

 そして、アナウンスからしばらく経ったころ。場内の照明が落とされ、アニメでも使われていた楽曲が流れ出した。いよいよ開演だ。

 スポットライトが照らされ、そこに佇むのは1人のフレンズ。「ここはどこ? わたしはだれ?」的なモノローグと身振り手振りは、素人の演技力と比べれば天と地ほどの差はあれど、学園祭の劇を彷彿とさせる。久しぶりに触れる舞台(劇)のスタイルは、自分にとっては新鮮さと、ちょっとした懐かしさを呼び起こすものだった。

 ステージ中央で戸惑う、名もなきフレンズ。彼女を誘うように聞こえてきたのは、いつものあの声。アニメ1話を想起させる「あーはー!」な笑い声とともに、頭上を横切るのは、サーバルの下半身――の作り物。舞台のセットならではの人工物っぽさと、声優さんの声とのギャップに感じる戸惑いは、これまたアニメの第一印象を思い出させるものだった。

 

 しかし、今回ばかりはアニメとは違った。
 そんな違和感は、次の瞬間、消し飛んだ。

 

 続いて、舞台左手から登場したのは、サーバル役の尾崎由香さん。胸を張り、高らかに笑いながら発するは、聞き慣れたあの台詞。

 

「ここはジャパリパーク!
 私はサーバルキャットのサーバルだよ!」

 

 ――瞬間、サンドスターの揺らめきが見えた。

 

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“しながわちほー”に具現化されたジャパリパーク

 アニメ1話、かばんちゃんとの出会いを辿るかのようなサーバルとオカピの邂逅から、キャスト総出演の「ようこそジャパリパークへ」の歌唱&パフォーマンスへ。歌唱と演奏を主とする音楽ライブはともかく、歌とダンスを同時に行うパフォーマンスは久方ぶりに観たので、その熱量に圧倒された。

 ――というか、あれほどまでに間近で観たのは初めてだったかもしれない。さいたまスーパーアリーナなどの遠い座席から眺めるステージとは異なり、自分の目で顔の表情が判別できるほどの目と鼻の先で、役者さんが歌って踊っている。全身から発せられるエネルギーが目に見えるんじゃないかと思えるほど、とにかくアツいパフォーマンスだった。

 のっけからとんでもないパワーにあてられて、早くも「まんぞく……」とチケット代の元を取った気になっていたけれど、まだオープニングが終わっただけである。フレンズ化したばかりのオカピと、天真爛漫オトボケ聖母ですしざんまいなサーバルの物語は、ここから始まる。

 ……が、ここでふと、異常に気づいた。

 

 「尾崎さんが喋ると、アニメのジャパリパークがちらつくのだ……」

 

 そうなのだ。サーバル役の尾崎さんが舞台上で喋れば喋るほど、彼女が立っているのが小劇場の舞台ではなく、アニメの中の “ジャパリパーク” であるかのように錯覚してしまうのだ。開演前に抱いていた「劇っぽい(というか劇だ)」という感想はどこへやら、気分はすでにアニメ鑑賞時のそれである。

 いや、正確にはそれ以上だった。時間が経てば経つほど、話が進めば進むほどに “アニメのジャパリパークっぽさ” が自身の視界と聴覚と脳内を浸食しているのがわかり、最終的には「僕らがいる、この場所こそがジャパリパーク……パークは品川にあったのだー!」と思いこめるほど。アニメで親しんだ世界観が、目の前でリアルとして具現化されていた。

 それはまるで、「ジャパリパーク」なる固有結界に巻き込まれたかのような感覚。尾崎さんをはじめとする、アニメ版でもフレンズを演じていた声優さんたち――どうぶつビスケッツの3人とPPPの5人――が話すたび、視覚と聴覚が「舞台」ではなく「アニメ」を観ているような状態に引っ張られる。その世界の内に、自らが取りこまれてしまったかのような印象を受けた。

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けものフレンズ 1話「さばんなちほー」 - ニコニコ動画

 なかでもその引力が強いのが、尾崎さん。彼女が演じるサーバル自体、アニメのメインキャラクターであり、それまで声を耳にする機会が多かったため、舞台上においても特に強く「アニメっぽさ」を感じられてもおかしくはないように思う。でも、それだけではないようにも感じた。

 なんというか、尾崎さんの場合、彼女が話す一言一句はもちろんのこと、一挙手一投足までもが “サーバル” というキャラクターそのものであるように感じられたんですよね。イベント中の生アフレコなどとは違い、衣装も含め全身の動きでキャラクターを表現しているせいだろうか。2次元と3次元のあいだで発生しがちな違和感が、ものの見事に消し去られていた。

 正直に言うと、公式サイトの写真を見るかぎりでは、コスプレっぽさは拭えないように思う。けれど、舞台上で話し、動き、演じているのを実際に目の当たりにすると、途端にその衣装までもが “サーバル” のそれに見えてくるからすごい。舞台上の尾崎さんは、完全にアニメの “サーバルちゃん” と同化していた。どうかしているのだ……。

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 でも、これはアニメじゃない。本当のことなのだ。紛れもなくあの場所はジャパリパークだったし、サーバルちゃんが話して走って跳ねて「すっごーい!」していたのだ!

 「声」と「演技」の力はすさまじい。僕はそれを落語ですでに知っていたはずなのに、再度そのすごさを実感させられたのだった。なるほど……これが、2.5次元の魅力なのですね……。

 

アラフェネに悶え、アニメ版との違いを実感した、最高の舞台版

 新規シナリオとして書き下ろされた舞台『けものフレンズ』のストーリーも、これまた想像以上におもしろかった。上演時間は1時間45分*1。アニメ版の声優さんを中心に描かれるジャパリパークでの物語――とくれば、これはもう、実質的な「劇場版」と言ってもいいのでは……?

 舞台でもサーバルちゃんは天真爛漫、フレンズ化したばかりのオカピを導く聖母のごとき存在だったし、PPPはどこへ行ってもそのままPPP、5人各々の個性が垣間見える役割や台詞が割り振られていたし、アラフェネは至高である。しっかり謝れるアライさんは、やっぱり良い子で天使なのだ。

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東武動物公園コラボにて(関連:けものフレンズ×東武動物公園コラボに行ってきたのだ)。

 アニメ版との明確な違いがあるとすれば……「ギャグ」の要素だろうか。キャラクター同士のやり取り自体――というよりも、会話中に自然な流れでクスッと笑える要素が散りばめられていたという印象のアニメに対して、舞台はわかりやすく「笑い」の要素が組みこまれていたように見えた。

 例えば、同じ台詞、同じやり取りを繰り返すことで、それを「笑い」として昇華させるような流れとか*2。お笑いや落語でも見られるわかりやすい「ギャグ」であり、アニメとは違ったおもしろさを感じられた。「一緒にアイドルやろうよー!」と勧誘するサーバルちゃんと、それに答えるクロヒョウ&マンモスとのやり取りとか、タヌキのぽんぽこなSEと「そういうのもいけるのー!?」のループとか。関係ないけど、タヌきちのデザインがすっごい好きです。

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タヌキのフレンズ。同じく東武動物公園コラボにて

 あと、アライさんとフェネックの役回りも良い感じ。客席通路での登場時をはじめ、ギャグ&癒やし要員としての “ばすてきコンビ”*3 の安定感はアニメ版さながら。劇中では各キャラクターのあいだを行き来しながら、終盤でサーバルたちと合流する流れも同じ。本当に良いキャラしてた。

 というか、ネット上の感想を読んでみたかぎり、毎回お客さんとのやり取りで笑いを取っていくアライグマ役・小野早稀さんのアドリブ力がすごい。と同時に、「目立ちすぎず、でも自然と目が吸い寄せられるアラフェネ」の妙な存在感が印象的だった。最初の登場時のやり取りとか、アラフェネ好きのヒトが間近で見たら、鼻血を吹きながらぱっかーん! するんじゃないかというレベル。アラフェネはいいぞ。

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同じく東武動物公園コラボより。

 また、セルリアンといえば、あのビジュアルは衝撃的だった。全身黒タイツでキレッキレなダンスを踊るセクシーな目玉軍団を目の当たりにして、初登場時には思わず吹かずにはいられなかった。ボスを運んできた黒子さんもそうだけど、全体的にあの辺の演出がうまいというかズルい*4

 ただ、先ほども書いたように “ジャパリパーク” な世界観に浸りきって舞台を観ていたためか、終盤で再登場したときには、セルリアンに対して軽く恐怖を覚えた。それこそアニメ11話の絶望を追体験したかのように「やめるのだー!」と叫びたくなったし、対するサーバルタイガーのイケメンっぷりに惚れ、大きなフレンズ2人の活躍を笑いながら楽しんでいた。叶うなら、たつき監督の映像でも観てみたい。

 でも、それだけ魅力的な舞台『けものフレンズ』を観ていると、否が応でも気づかされることもある。アニメ版の展開を踏襲しつつ、アニメ映像以上の臨場感でもって楽しめる「舞台」という環境で新規シナリオを楽しみながらも、自然と意識してしまう、アニメ版とのはっきりとした違い。

 

 「かばんさんが、いないのだ……」

 

 そうなのだ。舞台には、内田彩さんが演じる、かばんちゃんがいないのだ。もちろん、似た立ち位置のキャラクターとしてオカピがいるし、彼女もまた物語を通して成長していく魅力的なフレンズではある。けれど、舞台上で「あ、ここ、アニメ版っぽい」と感じられる部分があるたびに、「でも、かばんさんはいないのだ……」と再確認させられ、なんだかちょっと切なくなる。

 舞台は舞台としての魅力があり、アニメはアニメとしての魅力がある。舞台版の物語は舞台でこそ映えると思うし、全身全霊で演じている役者さんたちからエネルギーを分けてもらったような感覚すらあった。ミュージカルなシーンはどこも楽しいし、劇中歌「けものみち」は心底から名曲だと思う。サントラ発売はよ。

 けれど、アニメから『けものフレンズ』の世界――ジャパリパークに入園したヒトとしては、「かばんちゃんの物語」としてのイメージが強いあの世界を舞台に、内田さんがリアルに演じるかばんちゃんも見てみたい。……そうも思ってしまったんですよね。舞台で登場したフレンズたちも含め、みんなで手をつないで大冒険に繰り出してほしい。そんな『けものフレンズ』の世界を、もっともっと楽しみたい。

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行けなかった方も、グッズはこちらで。/舞台「けものフレンズ」ショップ

 ――とまあ、それっぽい理屈と感情をこねてみましたが、要するにアレです。「おかわりをよこすのです」と言いたいだけなのです。舞台版がむちゃくちゃ最高だったので、ぜひともまた新規シナリオでまた上演してほしいのだ! そしたらファンクラブでも何でも入って、全力でチケット確保に臨みますゆえ。われわれはかしこいので。

 ほかにも、「マンモスの歌唱力に惚れて調べてみたら元AKBの女優さんで驚いた」とか、「舞台上の立ち姿が基本 “腰に右手” なフェネックがかわいい」とか、「客席通路で手の届く目の前で踊る役者さんからすごく……いいにおいがしたのだ……」とか、まだまだ印象的だった要素はあるのだけれど……。これ以上は長くなりそうなので、ひとまずはこんな感じで。

 アニメが終わってから数ヶ月が経つのに、まだまだ熱の冷めない『けものフレンズ』プロジェクト。これからもいちフレンズとして、応援していきたい所存です。つまりはこれからもどうかよろしく、なのだ。

 

追記:……とか書いてたら、再演が決まってたのだー!

 

© けものフレンズプロジェクトS/© けものフレンズプロジェクト/KFPA

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