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僕の見たボーカロイド〜初音ミク誕生からメルトショックまで

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livetune feat. 初音ミク 『Tell Your World』Music Video - YouTube

 2007年8月31日。
 今や世界に羽ばたく“電子の歌姫”こと、「初音ミク」がこの世に生を受けた。

 オーケストラのプリマに起用され*1、パリではオペラの舞台に立ち*2、世界の歌姫にまで認められた*3彼女。

 

 当時、ニコニコ動画のいちユーザーとして、僕が初めてその歌声を聴いたときの感想は、「電子音声SUGEEEE!」くらいのものでした。

 まあ、そこで次々と投稿される「キャラクターソング」に魅了され、すぐにミクさんのファンとなるのですが。それにしてもまさか、ここまで大きくなるとは。おじちゃん嬉しい。

 

 初期からその展開を追いかけていた身としては、やはり感慨深いものがあります。無論、自分はファンの1人に過ぎず、直接的に関わった経験はありませんが。

 そんな、初音ミクに代表される「ボーカロイド文化」について。

 自分なりにまとめてみようというのが、本記事の趣旨となります。あくまでも、“僕が見てきた”内容に限るので、かなり偏りのあるものになるかと。まずは、ざっくり。

 

 

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はじめは「キャラクターソング」だった

 黎明期の2007年9月。ニコニコ動画に現れた「初音ミク」は、主に既存曲のカヴァーを歌うだけの存在だった。

 動画の背景も、公式の一枚絵を映しただけのものが大半。 “VOCALOID2” の名称が示す通り、ボカロは2004年には既に存在していた*4し、他にも機械音声が歌うソフトウェアはあったけれど、それまで以上に「人に近い」歌声に驚き、興味を持った記憶がある。

 最も最初に話題となったのは、Otomaniaさんの「Ievan Polkka」だったと記憶している。俗に言う、 “全ての元凶” である。

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VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた/コメント:2007/9/11

 この曲はもともと、「ロイツマ・ガール*5として、ウェブ上では日本国内に限らず有名になっていたもの。

 デフォルメ化されたミク*6がネギを降り、表情を変える「ユルさ」に、多くの視聴者が心を奪われた。中毒性もあるしね。

 その後、9月2週目に入った頃から、ミクのオリジナル曲が徐々にランキング上に現れ始める。OSTER project「恋スルVOC@LOID」、azuma「あなたの歌姫」、ika「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」など。

 複数のボカロ系コンピレーション・アルバムに収録されているはずなので、当時はボーカロイドを知らなかった人でも、聴いたことのある人は多いのではないかしら。

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あなたの歌姫/初音ミク_fullver./コメント:2007/9/20

 これらの楽曲に共通する特徴は、動画投稿者が作った「オリジナル曲」でありながら、ボーカロイドが歌うことを前提とした、紛れもない「初音ミクの歌」でもある点。

 仮想のキャラクター、実態のない歌姫である彼女が “わたし” と歌うことによって、自然とそれは、物語性を孕んだひとつの作品となった。人間と比べれば拙い歌声だけれど、「初音ミク」というキャラクターの「物語」が、確かにそこにはあったように思う。

 

「キャラソン」から「ポップソング」へ

 それからも暫くの間、初音ミクの「キャラソン」がランキングを席巻することとなる。くちばしP「私の時間」、ヤスオP「えれくとりっく・えんじぇぅ」など。

 さらに、クオリティの高い3DPV、手描き動画などの二次創作作品も次々と登場し、ニコニコ動画では、空前のボーカロイドブームが巻き起こっていたと言って間違いない。

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3DみくみくPV♪/コメント:2007/10/29

 これは、創作者の輪が広がっていったことを意味するものかと。

 作曲家だけでなく、イラストレーターや動画製作者までも巻き込みつつ、「初音ミク」を取り巻く輪は広がっていった。逆を言えば、モノを作る技術を持つ人、クリエイターに限定されたもので、一般人からすれば敷居の高い印象はあったかもしれないけれど。

 その流れを大きく変え、以後のニコニコ動画にも多大な影響を与えることとなる動画が、12月7日に投稿される。みなさんご存知、ryoさんによる「メルト」だ。

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初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」/コメント:2007/12/8

 背景は、ミクの一枚絵。カヴァーではないオリジナル曲。しかし、これまでの「キャラソン」ではない、むしろ、聞き慣れた「ポップソング」の様相を呈している点が、かえって新鮮に感じられた。

 もちろん、曲としての魅力とクオリティが高かったのは、言うまでもない。けれど、何より「メルト」が僕らに気づかせてくれたのは、「初音ミクもJ-POPを歌えるんだ!」という事実なのではないかと思う。

 “電子の歌姫” として、ではなく、普通の女の子の恋心を歌った曲。にも関わらず、それがなんだか妙にしっくりとくる。歌詞も聞き取れるし、共感できる。違和感なく歌声を受け入れることができている。

 そんなことに驚き、歌声に魅了された人は多かったのではないだろうか。

 

“メルトショック”がもたらしたもの

 そんな「メルト」は、単なる曲のヒットとしてだけに終わらなかった。投稿の6日後、12月13日には、原曲も含めた「メルト」の関連動画がランキングの1〜4位を独占するという、異様な事態に発展し、多くのユーザーが衝撃を受けた。

 これが俗に言う、 “メルトショック” ですね*7

 この現象は、当時の「初音ミク」人気を裏付けるものであり、後の「歌ってみた」の方向性を決定づけることにもなった。

 そもそも「歌ってみた*8は、ニコニコ動画最初期からの人気ジャンルのひとつ。6月23日に投稿された、しもさんの「組曲『ニコニコ動画』」をひとつの契機として、2007年後半には、サイトを代表する一大ジャンルとなっていたはずです*9

 

 そんなところに、「メルト」の登場である。

 

 それまでのボカロ曲と言えば、大半が「キャラソン」としての「初音ミクの歌」であり、あまり人が歌ったものが投稿されることはなかったと思う。

 ところがどっこい。僕らのよく知る「ポップソング」の流れを汲んでおり、しかも年頃の女の子なら共感しそうな歌詞を持つ「メルト」。そんな曲が現れてしまえば、そりゃあ歌いたくなるってもんですよ。

 12日には、halyosyさんが「歌ってみた」を投稿。これによって、他のユーザーも感化されたのか、次々と「歌ってみた」が投稿された。13日には、ガゼルこと、やなぎなぎさんが投稿*10。ランキングに食い込み、 “メルトショック” へと至った、とされている。

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「メルト」を歌ってみた(男性キー上げVer.)/コメント:2007/12/12

 「メルト」の登場によって、キャラソンではないボーカロイドオリジナル曲が徐々に増え始め、「『歌ってみた』と言えば、ボーカロイド曲」の流行の源流になったのは間違いないと思う。

 最低限の技術が必要とされる絵や動画と異なり、上手い下手はあれど、「歌」を投稿することへのハードルは低い。

 「歌ってみた」のジャンルは活性化し、ニコニコ動画の「N次創作」文化*11もますます広がり、相乗的に「ボーカロイド」ジャンルも隆盛していくこととなる。

 

「ボカロPの物語」を紡ぐ歌詞

 「メルト」以降、人気コンテンツとしての初音ミクとボーカロイドは、ますますその創作の輪を広げていく。12月27日には鏡音リン・レンが発売され、ボカロPの表現手段も増えた。そして、彼らは、「自分たちの(考えた)物語」を彼女らに歌わせるようになる。

 cosMo@暴走Pの「『消失』ストーリー*12」、悪ノP(mothy)の「悪ノシリーズ*13」など、複数の曲を連作として、ひとつの大きな物語を紡ぎ出す流れも、この頃に現れ始める。また、連作に限らず、ひとつの曲の中に独特の世界観や物語性を持つ楽曲も、数多く投稿されている。

 

 そして、2011年9月。

 

 じん(自然の敵P)の投稿した「カゲロウデイズ」を始めとする一連の楽曲が人気を博し、ボーカロイドの歌う「物語」は、ひとつの到達点へと至ることとなったと言えるのではないかしら。

 

 

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