お腹をくぅくぅ鳴らしながら歩く、道すがら。もうおやつ時になろうかという時間帯、目白駅前の通りを歩きながら飲食店を見定めていたところ、ふと視界の隅に暖簾が映った。定食屋さんかしら。まだランチタイムが終わっていなければいいけれど……。
小さな入口に、2階へと続く階段はやたらと細い。表に暖簾も看板も出てはいるものの、ちょっとでもぼーっとしていたら、見逃してしまいそうな外観。そして看板には、「そばや」と「吉祥庵」の文字。
──時間も遅いし、おそばで済ませるのもいいかもしれない。
ということで、おじゃまいたします。
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駅前近く、交差点の2階部分で異彩を放つ、日本家屋
細くそこそこの勾配がある階段を上がり、ガラガラと音を立てながら引き戸を開けると、小綺麗な内装が目に入る。壁には手書きのメニューと貼り紙、窓の上部には木製の格子。店内は程よく温かみのある光量が保たれており、落ち着きある空間が広がっておりました。
席には、すでに食事と会計を終えているらしい先客が一人。キョロキョロしているとすぐに奥から店員さんが出てきて、窓際の席を勧めてくださります。──どもども、失礼いたします。
卓上に掲げられている「日本酒」や、お品書きの上で踊る「だし巻き玉子」の文字に心惹かれつつも、お夕食のことも考慮してここでは自重。“季節のおすすめ”として目立つところに書いてあった、「けんちんそば」を注文。外をぼーっと眺めながら、しばし待つ。
なんだか、妙に味のある窓の格子を眺めつつも、外を見ればそこは車通りの多い駅前。その割に音や振動をあまり感じない店内は居心地良く……なんだか、素敵な場所に来ちゃったぞ、なんて。
ところで、お店に入るときは狭い入り口ばかりに目がいって気づかなかったのだけれど、食事後に外に出て振り返ってみると──そこには、交差点にあって明らかに異彩を放つ日本家屋の姿が。反対側から歩いてきたから、わからなかったぜよ……。手前のカーネルおじさんしか見えなかった。
具だくさんで大満足のけんちんそば
途中、店内でまったりしていた先客さんが出て行って、入れ替わりに別のお客さんが入ってくるなどしながら、待つことしばし。これから多分、夕方以降はおじさま方で賑わうんだろうなーと考えていたところ、10分ほどで料理が運ばれてきた。
けんちんそば(1,000円)。大根、にんじん、ゴボウ、里芋、お豆腐、こんにゃくなどの具材が盛りだくさんの、紛うことなき“けんちん汁”の蕎麦でござる。
器は大きく、お箸でかき分けてみると、中には具も麺もぎっしり。おっほー! これは、意外に食べ出がありそうだ。具と麺の最上部、器の中心てっぺんには、柚子皮の欠片がチョコンとのっており、湯気と共に立ち昇る香りが食欲をそそる。じゅるり。
お味のほどは、見た目通りかつ、期待以上。薄すぎず濃すぎず、出汁と具材の味が程よく出ている汁は、ほっと安心できる味わい。麺はつるつる、喉越しよくすんなり入ってくる、これまた安定した味。お腹ペコペコだったことも手伝って、遠慮なくもぐもぐ。染みわたりますわ……。
特に印象的だったのは、里芋かしら。里芋と言えば煮っ転がし、けんちん汁に入ってるのは“おまけ”的なイメージが強かったのだけれど、こちらの里芋はホクホクで柔らか。おいしかったです。あとはやはり、前述の柚子皮の香りがすばらしい。僕が柑橘類好きだという理由もあるでしょうが。
かるーく済ませるはずの遅い昼食でしたが、食べ終えてみれば結構なボリューム。満腹とまではいかないものの、お腹にたまって最高の満足感でございます。お昼時、あるいはお夕食にいただくなら、一品料理を頼めばちょうど良さそう。
次の機会があればぜひ、お酒も一緒に。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした!