「書く」を鍛える発想法「ノンストップ・ライティング」の魅力(アイデア大全より)


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 5月に『アイデア大全』を読んで以来、同書に書かれている「発想法」をいくつか試している。『アイデア大全』については下記記事で感想をまとめているので、詳しくはそちらをどうぞ。

 アイデアを生み出すための手法が、42個も掲載されている本書。当然、すぐに全部を実践できるはずもないので、暇なときにちょちょいと読み直しつつ試している格好。

 そんな発想法のうち、継続的に取り組んでいる手法がひとつある。

 『アイデア大全』を最初から最後まで読んだうえで、特に「これはぜひとも実践したい!」と感じられた手法。6月上旬から取り組むようになり、この2ヶ月以上、なんだかんだで続けられている。それどころか楽しんですらいるし、メリットと言えそうな効果も現れてきている。

 それが、「ノンストップ・ライティング」だ。

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テーマなし&時間制限ありのフリースタイルが楽しい!

 「ノンストップ・ライティング」 あるいは「フリーライティング」という言葉は、どこかで聞いたことがある人も多いのではないかしら。

 僕自身、過去に聞いたことはあったものの、自分にとっては無縁のものかと思ってスルーしていた。どちらかと言えば、作家やエッセイストといった「文章のプロ」のための方法論なんじゃないか──と、そんな勝手なイメージを持っていたので。

 きっかけとなったのは、5月に読んだ本『アイデア大全』(読書猿著、フォレスト出版)。多種多彩な「発想法」をまとめ上げた、まるで辞書のようなボリュームの1冊だ。

 本書で紹介されているのは、聞き覚えのある手法もあれば、まったく知らない考え方まで多種多様。ブレインストーミングの考案者による発想法や、トヨタの生産方式を生んだ「なぜなぜ分析」があるかと思えば、ディズニー、シュルレアリスム、平賀源内といった単語までもが登場する。

 複数の分野にまたがる「アイデアの生み出し方」は、その紹介文を読んでいるだけでも、知的好奇心を強く刺激されるもの。そんな数々の発想法を興味深く読んでいる最中、特に気にかかったのが、この「ノンストップ・ライティング」だった。

レシピ

1. 書く準備をしてタイマーを15分間にセットする。
2. タイマーがなるまでなんでもいいからとにかく書き続ける。
3. 怖い考えやヤバイ感情に突き当たったら(高い確率でそうなる)、「ようやくおいでなすった」と思って、すぐに飛びつく。

 やり方は簡単だ。タイマーをセットし、時間いっぱい使って、とにかくなんでも書き連ねる。それだけ。紙に書いてもパソコンでテキストエディタに打ちこんでもいいが、僕はこれをポメラでやっている。最近は毎朝15分間、無心でキーボードを叩いている感じ。

 そこで実際に何を書いているかは、日によって異なる。

 前日の出来事を思い出しつつ日記のようにしたためることもあれば、その日の予定を羅列することもある。電車の中で読んだニュースについて思うままに論評したり、逆に何も思い浮かばず、「今は上野のスタバでキーボードに向かっており、近くには保険の勧誘と思しき話をする2人組がいる」などと、自分を取り巻く情景描写から始めたりすることもある。

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誤字脱字もスルーして書き続ける。「スケジューリング」が「透けシューリング」になってる。

 この活動を始めた当初は、「自由に書けと言われても……」と戸惑いぎみで、あまり文章が書けていなかったことは否めない。しかし今となっては、次々と己の内側から湧き出てくる言葉をタイプするのが心地よく、「15分じゃ足りねえ!」と物足りなさを感じることすらある。

 つまり、むっちゃ楽しんでいるのだ。ブログともSNSとも異なり、他人に「読まれる」ことを意識せずに書き連ねることの爽快感。テーマも何もなく、まっさらなキャンバスに向かって、自分の感情や主張を思うがままあるがまま、脈絡なく吐き出せることが楽しくて仕方ない。

 それなりに飽き性であるはずの自分が、気づけば2ヶ月以上も続けている、ノンストップ・ライティング。その効用はなによりも、「ストレス解消」にあるのかもしれない。

ノンストップ・ライティングの6つのメリット

 もちろん、ノンストップ・ライティング のメリットは、何も「頭空っぽにして “書く” のが最高にたーのしー!」という、ストレス解消効果だけではない。

 元より「発想法」のひとつであるため、日常的なアイデアの源泉となる余地がある。自分ひとりで黙って考えているだけでは浮かびもしない発想や、複数人で議論をするような場所でもなかなか出てこなさそうなアイデアが、この手法によって飛び出てくる……かもしれない。

 実際のところ、ノンストップ・ライティングにはどのようなメリットがあるのか。この2ヶ月間ほど取り組んだ自分の実感として、以下、思いつくものをざっくりと挙げてみた。

1. 「自分」という最強の批判者を倒し、根底にある思考や感情を拾える

 まずは、『アイデア大全』の本文で書かれているメリット。以下、一部引用させていただきます。

 ブレインストーミングをはじめとする集団による創造的手法は「他人のアイデアについて評価・批判しない」「自由奔放なアイデアを尊重する」ことを前提とするものが多い。しかし、最強にして逃れることのできない批判者は、自分の中にいる。

 その最強不可避の批判者から、わずかな時間だけだが、逃れる方法がある。それがこのノンストップ・ライティングだ。

読書猿著『アイデア大全』P.46より)

 僕らが普段、他人に伝わる文章を書くことができるのは、自分の中に【仮想の読み手】がいるからだ、と筆者は説明している。

 リアルタイムで進行する対面でのコミュニケーションとは異なり、「文章」によるやり取りは、そもそも曖昧で不確実なものだ。身振り手振りや表情といった付加情報なく「ことば」を誰かに伝えるためには、それがある程度のわかりやすさ・まとまりがなければならない。

 その整合性を高めてくれるのが、自分の中の【仮想の読み手】である。自分が書き散らした「ことば」を読み、分析し、意味のある形に整え、第三者に伝わる「文章」として再構成してくれる存在。──と書くと「もう1人の僕、ええやつやん」となるが、良いことばかりでもない。

 文章を読みやすく編集してくれる【仮想の読み手】たる自分は、「自己批判のシステム」とも言い換えられる。「それはこう書いたほうが伝わるんじゃね?」「ここはわかりづらいから書き換えよう」などと批判・提案してくれる、身近な批判者としての役割を持っているわけだ。

 しかし、その “批判” も行き過ぎると、自己否定・自己監視・自己検閲といった、過度な抑制効果ををはらむようになる。「すでに誰かが書いているだろうから無意味」「この発想はやりすぎ」「支離滅裂で無価値だ」などと断言し、アイデアが生まれることを妨げてしまう。

 書いている最中に、心のどこかから浮かび上がる、文章や書き手に対する否定的な思考や感情はこの「仮想の読み手」から生じてくるのだ。自己否定に手が止まり、苦しさにそれ以上書けなくなるのも、「仮想の読み手」の働きによる。

読書猿著『アイデア大全』P.45より)

 なればこそ、「支離滅裂、どんとこい」「誤字も脱字もスルーする」「途中で止まらず、時間いっぱい手を動かす」ことを強要してくるノンストップ・ライティングは、アイデアの源泉たりえるのではないかと思う。

 文章を書いている途中、「いや」とか「でも」とか言い出しかねない【仮想の読み手】を無視し、問答無用で黙らせてくれる手法。キーボードを叩いているあいだだけは、批判的・第三者的な目線を持つ自分とおさらばできる。

 ただし、それゆえに書き終えたあとは、あまりにデタラメすぎて笑えてくることも当然ある。けれど、そのなかに「おお!」と膝を打つ発想があったり、「自分はこう考えていたのか」「こうやって感じている自分もいたのか」と気づかされたりすることも少なくない。

 最強の批判者である自分を倒し、心の奥底や脳内を漂っていたであろう、普段は及びもしない思考や感情を拾い上げることができる。それこそが、「ノンストップ・ライティング」の本質的なメリットであり……ぶっちゃけ、それだけで取り組む価値があると考えています。

2. 無心に書き殴ることで、言外の違和感や疑念が可視化される

 ──とまあ、最初に一番大きなメリットを挙げてしまったので、以下は自分が個人的に感じた「メリット」となります。

 そのひとつが、先ほども書いた「ストレス解消」としての要素。単純に「頭を空っぽにして一心不乱に文章を書く」行為が楽しいというのもあるけれど、同時に「言外のモヤモヤ、違和感、疑念などが『ことば』として可視化される」という意味合いもある。

 要するに、【仮想の読み手】たる自分が抑制しているのは、発想・アイデアだけではないということ。日常のちょっとした不満や、街中で見聞きした違和感、他人の言動に感じたモヤモヤ──通常は頭の片隅に追いやっているそれらを、この作業は、「ことば」として可視化してくれる。

 だからこそ、ノンストップ・ライティングは、二重の意味でストレス解消になるのではないかと。「集中できる作業」から感じられる純粋な爽快感と、その過程で得られる「モヤモヤの言語化」という成果物。その両方が、日々のストレス解消に一役買っているように思える。

3. 文章を見直すことで、自身の語彙力を把握できる

 他方で、こちらは「書く」作業の過程で得られるメリット。ノンストップ・ライティングによって書き殴られた文章は、「支離滅裂に書き殴られたもの」であるがゆえに、「その人にとって基礎となる語彙」が色濃く現れるんじゃないだろうか。

 実際、この2ヶ月間に積み上げられたテキストファイルを読み返すと、幾度となく登場する表現が少なくない。「うんぬんかんぬん」「〜と思う次第」「〜かしら」「〜でござる」「〜かなーと」などなど……どれもこれも、自分が無意識に選んでしまっている表現だと言える。

 なかには、普段からブログやSNSで “意図的に使っている” 言葉もなくはない。けれど、頭空っぽにして取り組んでいるノンストップ・ライティングだからこそ、自分が好んで使う、ついつい使ってしまう表現が、自ずから明らかになっている部分もあるように見える。

 そう考えると、【仮想の読み手】によって編集された言葉ではなく、自分本来の語彙力を再確認する活動としても、ノンストップ・ライティングは意義があるのではないだろうか──と。この点は、後ほどまた自分なりに分析してみたいなーと思っている次第でござる。

4. 昨日あったこと、今日の予定を確認するきっかけになる

 完全に結果論ですし、毎回当てはまるわけではありません。

 ただ、ある日のノンストップ・ライティングで書いた文章を読んでみると、「これ、ほとんど昨日の日記じゃねーか!」となっていることがしばしばある。あるいは、「まーた今日のスケジュール確認してるよ……」と。いわゆる「備忘録」としての効用だ。

 普段からいろいろと忘れっぽい自分にとっては、これが良い具合にメリットとして働いているようにも思う。前日にあったことを思い返しつつ、ある問題に対して複数の解決案を列挙したり、自己反省に励んだりと、記憶を反芻しながら諸問題を整理することができているので。

 もしくは、今日はこういう予定があり、あの原稿はこういう方法で取り掛かり──などと、当日のスケジュールを再確認するような形。スケジュールを羅列していくうちに、すっかり忘れていた課題が連鎖的に思い出されることもあるため、なにげにしれっと役立っている。

 言うなれば、ノンストップ・ライティングそれ自体が「日記」であり、「スケジュール帳」であり、「ToDoリスト」となっているような。この作業の本来の目的とは異なるかもしれないけれど、人によっては得られる思わぬ副産物・メリットと言えるのではないかしら。

5. これから作業を始める前の「準備運動」になる

 これまた、至極個人的なメリット。ノンストップ・ライティングの方法や成果物が云々というより、「習慣」のひとつとして自分の役に立っているという話だ。

 一口に言えば、この2ヶ月、継続的にノンストップ・ライティングに取り組んだ結果、気づけばそれが「作業に取り掛かる前のスイッチ」になっていたのです。

 ポメラを取り出し、両脇にコーヒーとタイマーを用意したら、ノンストップ・ライティング、スタート。どれだけ寝不足だろうと、嫌なことがあってイライラしていようと、タイマーを押したあとの15分間は一心不乱に文章に向かうことができる。

 で、それが終わったら、その日の作業に取り掛かる──そのような流れが習慣となたことで、午前中の作業効率が格段に上がったという実感がある。自身を作業モードに切り替えるスイッチとして、あるいは準備運動として、ノンストップ・ライティングがすっかり定番になっていた。

6. ネタになる

 諸々すべてを引っくるめて、「ネタになる」という強み。ノンストップ・ライティングという手法自体もそうだし、その過程で生まれる数多のアイデアもそう。さらに言えば、こうしてブログに書いている今この瞬間も、その恩恵に預かっている。

 特に、ブログを書いている人には、ぜひともおすすめしたい。この作業中に生まれるアイデアは──人にもよるが──主に、仕事や趣味に関連するものが多いのではないかと思う。でも同時に、そういった場面では使えない支離滅裂で無意味に見えるアイデアも、ブログでなら「ネタ」になる。

 僕自身、ノンストップ・ライティングに取り組んでいた2ヶ月間で、いくつかの「ネタ(アイデア)」をブログに突っこんでいます。……どの記事、どの文章がそうだとは言いませんが。とにもかくにも、この手法がブロガー向けの発想法であることは間違いないんじゃなかろうか。

支離滅裂な文字列を積み上げることで得られる何か

 6月上旬に初めてノンストップ・ライティングを試してから、2ヶ月とちょっと。毎日欠かさず……とまではいかなかったものの、書き連ねたテキストファイルは、今日で71個になった。

 15分×70個=1,050分。1回のライティングで書く文字数が1,500字前後であることを鑑みると、17時間半かけて積み上げられたテキスト量は、約105,000字にも及ぶらしい。我ながらびっくりである。

 それらは当然、無編集では「文章」と呼べるかも怪しい、支離滅裂で無価値な文字列だ。けれど、この2ヶ月にわたって取り組んだ実感としては、時間をかけただけの意味はあったように思う。こうして複数のメリットを挙げることができた時点で、それは間違いないものかと。

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蓄積されたノンストップ・ライティングの成果物の図。

 ただ、正直に言うと、今なお【仮想の読み手】の影を感じることは少なくなく、作業中、無意識にデリートキーを押してしまうことがある。誤変換をそのままにせず、気になる表現を書き直してしまうなど、まだ「頭空っぽ」にはほど遠い現状。それではきっと、偶発的な発想は生まれない。

 そんなわけで、今後もノンストップ・ライティングを継続しつつ、その最中に生まれたアイデアを形にできるよう、試行錯誤を重ねていくつもりだ。いつもなら「続けられるか怪しい」なんて予防線を張るところだけど、今回に限ってそれはない。だって、むっちゃ楽しいから。

 最後に、本記事では一部省いたノンストップ・ライティングの詳細に加えて、古今東西の発想法が紹介されている『アイデア大全』。幅広い層におすすめできる1冊ですので、よかったら読んでみてください。

 

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