伊藤洋志さんの著書、『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』を読みました。
「ナリワイ」とは
個人レベルではじめられて、自分の時間と健康とマネーを交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を「ナリワイ」(生業)と呼ぶ。
ナリワイとは、生活の充実から仕事を生み出す手法である。
本書は、著者自身の「ナリワイ」という働き方を紹介・解説した内容になっている。
「ナリワイ」(生業)とは、上の引用のように、普段の生活の中から仕事を生み出し働くものだ。読んで字の如く、「生活」と「仕事」が同列に語られており、近年話題の「ワークライフバランス」とはある意味で一線を画した考え方だと言える(ワークライフバランスは、「仕事と生活の調和」に主眼が置かれ、バランスを取るのが目的であり、あくまで両者は別物として扱っていると思われるので)。
この「ナリワイ」に取り組むにあたって、まずは支出をコントロールすることが第一だと著者は書いている。そこにあるのは、「自分でできることは自分でやる!」という考え方だ。
自分の生活に必要なものだけを抜き出し、それ以外は全てカットする。自分でできることは自分でやる。病気にならないように健康に気を遣い、野菜を作ったり、床張りをしたり、究極的には家を建てたり。
そして、このような生活や社会における「無駄」や「矛盾」、「違和感」の中にこそ、「ナリワイ」を生み出すヒントがあるという。
こういうのがあったらいいな、というアイデアを見つけたら、そのために何が必要かを考え、価値を吟味し、他人からの評価を得るなどして、それが実現するという証拠を揃える。そこまでいけば、あとは実践するだけだ。
具体的な「ナリワイ」については、おもしろい例がたくさんあるので、ぜひ実際に読んでみてください。「ナリワイ練習問題」も含めて、思わず笑っちゃった例も。
「当たり前」を疑うこと
仕事観や働き方について論じている本は、最近では「これでもか!」というくらいたくさん見かける。中には「○○すべき」だとか「○○のすすめ」のような押し付けがましい作品も多くある中で、本書は割と中立的だ。
確かに「ナリワイ」という在り方を積極的に薦めてはいるが、どちらかと言えば、「本当にそれでいいの?」といった風の、示唆に富んでいるように感じた。
前述の支出のコントロールの部分に関しては、もっと無駄を減らすための「節約術」とも言えるだろうし、会社に属してひとつの仕事を続けることのリスクや、起業時の「常識」など、一般的には「当たり前」だと考えられてきたことに対して疑問を投げかける内容ともなっている。本書に示された視点は、多数ある働き方のひとつの例でしかない。
本書は私が実験台となって実践し、いまなお試行錯誤している過程の思索の記録であります。別の言い方をすれば、現代の働き方についての、自分の人生を使ってつくった渾身のたたき台です。
そのような点で、この『ナリワイをつくる』という本は、『脱社畜の働き方』(日野瑛太郎著)、『ニートの歩き方』(pha著)、『ノマドと社畜』(谷本真由美著)のような、それまでの仕事観の「当たり前」とは異なる可能性を示しており、とても有意義な内容であると思う。
この「ナリワイ」に興味がある人はもちろん、今の働き方に疑問を感じている人、上記3作品の読者さんなど、広く「働くこと」に関心を持っている方に、おすすめの作品です。