ぐるりみち。

日々日々、めぐって、遠まわり。

『下読み男子と投稿女子』全ての物語が楽しくて仕方なかった、あの頃の読者へ

 ――美しくきれいで、甘くせつない青春モノは、過剰に摂取しすぎるのも、ちと怖い。

 

 自分が高校生……いや、まだ大学生の頃ならば、「こんな恋愛ありえねえよこんちくしょう! でもお前ら、幸せになりやがればーかばーか! ごちそうさまでした!」と架空の登場人物たちの行く末を祈りつつ、そんな夢のような恋愛模様を、毛ほどくらいは夢見たかもしれない。

 しかしそれも20歳を超えれば、たまーに味わうくらいが関の山。甘酸っぱい恋愛モノは大好物だし、叶うならばいつまでも読み続けていたいとは思いますよ、そりゃあ。

 でもでも、あまりに調子に乗って摂取すると「どうして僕は二次元じゃないんだ……」と端からは病気にしか見えない絶望感を反動として味わうか、あるいは「こんな都合のいい展開あってたまるかスットコドッコイ!」とフィクションを全否定するかになりかねない。

 

 そのため、しばらくはその手の作品群とは疎遠になっていたのですが……。

 そろそろ、この胸のキュンキュン成分(死語)を補給しなければ、社会の荒波に揉まれささくれ立ち、荒涼としきってしまった己が精神に支障をきたしかねない。そう感じたので、おそるおそる手を伸ばしたのでございます。――それが、こちら。

 

 

 ……ごちそうさまでした!!(満ち足りた表情のまま溶鉱炉に沈む)

 

安心と信頼の青春ボーイミーツガール

 本作『下読み男子と投稿女子 〜優しい空が見た、内気な海の話。』は、野村美月さんによる読み切り単行本。一冊できれいにまとまっているので、著者の作品を読んだことがない人にも勧めやすいのではないかと。ぜひぜひ。言うまでもないですが『文学少女』もいいよ!

 

 一巻完結の作品であるため、登場人物も最小限。物語も王道と言えば王道でござる。ライトノベル新人賞の「下読み」をしている男子高校生が、“高嶺の花”たるクラスメイトの女の子の応募作品を偶然読んでしまう出来事から始まり、大筋はこの2人がメインで展開されます。

 眉目秀麗、成績優秀の女の子が実は、『ぼっちの俺が異世界で、勇者で魔王でハーレム王』なんてラノベを投稿しているという、“他には見せないヒロインの秘密の一面を主人公が知る”ところから始まり、互いに絆を深めつつも、すれ違いや問題が発生し――という。うん、鉄板だ。

 

 会話文が多めの文章に、徐々に縮められていく2人の関係性、恋愛感情へと至る前のもどかしさ、導き手としての魅力的なサブキャラクターに、悪者のいない優しい世界。

 見せ方はどちらかと言えば少女マンガっぽくはあるものの、程よく“ライトノベルしている”作品という印象でござる。とにかく徹頭徹尾きれいにまとまっており、人によっては拒否反応が出てもおかしくないレベル。それこそ「ご都合主義だ!」みたいな。そもそも創作やで!

 

いま一度、「物語」と向き合う

 ただ一点、大きな特徴としてあるのが、前述のように「ライトノベル」が物語の核として存在すること。主人公は「読む」エキスパートとして、ヒロインは「書く」投稿者として、2人の共通項となっております。そして重要なのが、前者の「下読み」の仕事。

 

 「下読み」とは、新人賞に投稿された原稿を読んで、次の選考に通すか通さないかを判断する仕事。その作業に携わる主人公はとにかく「物語」が大好きな人間として、その仕事と合わせて魅力的に描かれているように読めました。著者の実体験も混ざっているとか、いないとか。

 そこそこ詳細に語られている仕事内容と矜持は興味深いものであり、自分も素直に「おもしろそう」なんて考えながら読んでいたのだけれど。……ふと、文中に登場した「三点リーダー」のくだりを読んでいて、既視感を覚えたのです。そういえば、過去にそんな話があった。

 

 

 邪推かもしれませんが、もしかすると本書の前提にはこの話題があったのかな、と。いまやネットで自分の好き嫌いを簡単に示すことができるのは当然として、それっぽい「批評」ですら一個人ができてしまうことに対する*1、ひとつの主張であるようにも読めました。

 

他人の作品が、いかにつまらなかったかをドヤ顔で長弁舌するようになったらおしまいさ。あれは最高に醜悪だ。自分がああなったらと思うと、ぞっとする

 

 作中後半、ポロッと漏れた“大人”の言葉に共感できると同時に、耳が痛くもある。眼前の全ての創作物を楽しむ主人公たちに対して感じるのは、羨ましさと一抹の寂しさ。少年少女が主人公のラノベにほっこりしていたはずが、オッサン目線で共感したまま読み終えてしまった……。

 言うなれば、ひさしぶりに開いたライトノベル、ひさしぶりに触れた青春モノで、キュンキュン成分(死語)を補給した次の瞬間、ふいに、横っ面をハリセンでぶっ叩かれた感覚。

 他人の評価を基準に作品を選び、コスパを重視して物語を消費し、つまらなかったら匿名でこき下ろす。「最近の○○はクソだ」と感情的に罵声を発し、ろくな比較検討もなしに理解不能なものを切り捨てるようになったら……もう、おしまいなのかもしれない。

 

 ――そんなことを考えていたら、むくむくと欲求がわきあがってきたのです。もっともっと存分に、自分の興味の赴くままに物語作品に触れてみたい、と。

 素直に「キュンキュン(死語)した!!」とだけ書いていればそれこそ良かったのでしょうが、本書を読み終えてぼーっとしていたら、どうしても「創作物との向き合い方」を改めて意識せずにはいられなかったので、こんな感想になりました。もう一度、ラノベに会いに行こう。

 

 楽しいもの、好きなものを素直にそうだと言える、そんな大人に、僕はなりたい

 

 

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*1:いま書いている、この文章もそうですが。