『ヘブンバーンズレッド』が睡眠時間を削って遊ぶほどおもしろかったので10,000字ざっくり感想(ネタバレなし)


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https://heaven-burns-red.com/

 ここ数日、時間を忘れるほど夢中になり、朝までゲームをプレイしていた。

 学生時代であれば、それは珍しくもない日常の光景。しかし社会人になり、歳を重ね、明日の仕事や健康のことを考えるようになった今、そんな日常はなかなか送れない。自制が働き、「今日はここまで」と理性が己を寝かしつけようとしてくる。

 もちろん、その判断は正しい。ゲームは逃げないし、いつだって遊べる。ゆったりまったり進めたって問題はない。ない……のだけれど。この数日は、その合理的な判断が軽くかき消されるほどに夢中になって、スマートフォンの画面に向かってしまっていた。

 しかもそのゲームは、自分が学生時代に夢中になっていたクリエイターの最新作。アラサーにもなって、2022年にもなって、スマホゲームになってまで、当時の純粋な気持ちのままゲームを楽しんでいた。楽しめていた。

 そんな気持ちで本作を遊べていることが、何よりも嬉しくて、幸せでならない。

 「どうせいつもの展開だろう」と冷めた目線で流し読むことなく、「昔は良かったのになあ……」とひねくれた見方をするでもなく。それこそ10代の頃のような気持ちで、時間も忘れて、朝になるまでテキストを読みふけっていた。画面上で繰り広げられる物語とイヤホンから聞こえてくる音楽に魅了され、それ以外のことはどこかへ吹っ飛んでしまったかのように。この歳になっても自分の大好きな世界観に浸れることが、とにかく幸福に感じられて、ありがたい。

 『ヘブンバーンズレッド』が、おもしろい。

 

「麻枝准15年ぶりの完全新作ゲーム」

 『ヘブンバーンズレッド』(Heaven Burns Red)は、Wright Flyer StudiosとKeyが贈るスマホ向けRPGだ。

 公式サイトにデカデカと書かれている説明によれば、「麻枝准15年ぶりの完全新作ゲーム」。PCゲーム『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』や、アニメ『Angel Beats!』『Charlotte』『神様になった日』を手掛けた麻枝准さんによる新作――というのが、大きな触れ込みとなっている。

 この「麻枝准」というクリエイターが創る作品が、僕は大好きだ。

 シナリオライターであり、作詞家であり、作曲家であり、近年は小説家でもある彼が創った作品を、一時期は主食のようにむさぼり食っていた。とにかく「麻枝准」の名前がクレジットされたコンテンツは必ず摂取し、隅々まで味わい尽くしてやろうという気概で。だーまえ(※ファンからの愛称)が手掛けたイメージアルバムに感化されて、二次創作小説のようなものを書いたこともあったっけ。いやん。恥ずかし。

 とはいえ、それも何年も前の話。そもそも本気で隅々まで味わい尽くせていたとは口が曲がっても言えないので、自分はコアなファンというわけではない……と思う。今となっては忘れてしまっていることも多いし、生活環境やマイブームの変化もあって、近年は「好きなクリエイターの1人」くらいの感覚でゆるく追うようになっていた。

 しかし同時に、だーまえが「(特別に)好きなクリエイターの1人」であるのも間違いない。そもそもの経緯を辿れば、美少女ゲームや深夜アニメに偏見を持っていた中学生の僕の価値観をぶっ壊したのが『AIR』*1であり、『鳥の詩』や『夏影』に代表されるKey作品の音楽だったので*2。「ゲームの文章に泣かされる」というとんでもびっくり体験を経て、その流れで『CLANNAD』もプレイ。10代後半という思春期を、連日連夜泣かされながら過ごすことになる。

 Key作品をきっかけにノベルゲーをプレイするようになり、深夜アニメを見るのが習慣になり、どっぷりと“そっち”の世界に浸かることになった。その流れでネットカルチャーにもますますハマり、mixi日記であーだこーだと感想を書くようになり、やがてブログを書き始め、それが現在の仕事にもつながった。そういう意味では――結果論かつ間接的な要因かもしれないものの――Key作品とだーまえの存在は、自分の人生を左右した要素のひとつであると言ってもいいのかもしれない。そういう意味でも、僕にとって「CLANNADは人生」*3なのです(誤用)

 

『ヘブバン』PVで三度泣く

 それだけ影響された存在でありながらも、ここ数年は当時ほどの熱量でKey作品を追っていなかった自分。理由はいくつか考えられるものの、先ほども書いた「生活環境やマイブームの変化」が一番大きかったかもしれない。

 ゲームは『Rewrite』を最後にプレイしていないし(『Rewrite』はくちゃくちゃ好きです)、「コミケではグッズを絶対買う!」なんてこともなくなった。アニメ『神様になった日』は毎週見ていたし、むしろ「karmaやんけ!!!」*4なんて大興奮しながら楽しんでいたものの……最終回を迎えてしまえば、それで終わり。2020年といえばすでにVTuber沼でズブズブわっしょいしていた時期なので、余韻もそこそこにすぐ「次」のコンテンツに気持ちが向かってしまっていたように思う。

#01 降臨の日

#01 降臨の日

  • 佐倉綾音
Amazon

 ところがどっこい。今回は「ゲーム」である。

 それも「原案・メインシナリオ:麻枝准」である。

 ――とくりゃあ、もうプレイしないわけにはいかんでしょうと、インストールして進めることにしたわけです。正直なところ期待はしていなかった――というか、つい最近までほとんど気にかけていませんでした。

 「Keyがスマホアプリで新作を出すらしい」「ゆーげんさんがキャラデザを担当するらしい」などの断片的な情報は流れてきていたものの、自分から積極的に追おうとはしていなかった感じ。『Rewrite』までの自分であれば、新しいPVが公開されるたびに「ウオオオオオオオ楽しみ〜〜〜〜!!」なんて映像を何周も見ていただろうに、そんなこともなかった。

 ってかぶっちゃけ、PVを初めて見たのは、実際に遊び始めたあとだった。それも夢中になってストーリーを進めて、1章が終わり、2章を少し進めた、絶妙なタイミングで。「1章おもしろかったなー! あ、そういえばPVとかってあるのかな〜?」と、思い出したように見に行った格好。

 で、見終わった時点でもう涙目なわけですよ。二重の……いや、三重の意味で。

 

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 「だーまえの曲とやなぎなぎさんの歌声はやっぱり最高だな……」という感動と、

 

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 「こんなに良いPVがあるなら、リリース前に見ておけばよかった!」という後悔と、

 

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 「2章の展開と結末が想像できちゃうじゃないですかやだーー!!」という悲鳴。3つの意味で。

 

 いや、ほんとマジで勘弁してほしい。「蒼井ーーーーーッ!!」じゃないんすよ……。こちとら1章が終わって、「いい話だった……サイッコーにだーまえの書く物語だった……」なんて余韻に浸りつつ、「おっ、2章は蒼井えりかちゃんにフォーカスしていく展開なのか〜! ガチャで出た数少ない『打』属性の高レアキャラで、しかも自分好みの声とビジュアルだから楽しみ〜!」なんて、ニコニコしながら2章に入ったところだったんすよ……。それであの「蒼井ーーーーーッ!!」はあんまりじゃないですかバカーーーーー!!

 絶妙なタイミングでPVを見てしまったこともあり、その後はあっという間だった。連日連夜、睡眠時間を削り、スマホの画面に向かってストーリーを進める毎日。せっかく買って夢中になり始めていた『Pokémon LEGENDS アルセウス』もほっぽり出して、Key作品らしい懐かしさもある、それでいて新しいテキストとキャラクター、歌と音楽に浸る日々を送ることになった。まさかリリース時点で、これだけのボリュームのストーリーを読めるとは……! ありがてえ……ありがてえ……。

 

『ヘブバン』の3つのおすすめポイント

 では実際に『ヘブバン』をプレイしてみて、何がそんなに良かったのか。

 公式でも「麻枝准15年ぶりの完全新作ゲーム」と打ち出しているとおり、過去のだーまえ作品が好きな人にはまず刺さると言って間違いない。『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』『Angel Beats!』などに夢中になったことがある人、鍵っ子にとっては、まさしく「顧客が本当に必要だったもの」に限りなく近いんじゃなかろうか。

 ただ一方では、わざわざ「麻枝准」を持ち出さずとも、幅広い層に本作をおすすめできるようにも感じた。人を選ぶ作風であるとは思うものの、「ゲーム」として純粋におもしろい。そうでもなければ僕自身、どれだけストーリーが魅力的だろうと、作業になりがちなスマホRPGを喜んで毎晩遊ぼうとは思えないので。

① 戦闘がアツい!バトルを盛り上げる音楽とボーカル曲

 まず何と言っても、ゲームの肝となるバトルが想像以上におもしろかった。

 戦闘システム自体はシンプルながら、戦略性もそこそこある。属性と相性、ユニットごとの役割を考えながら編成する必要があり、その試行錯誤が楽しい。システム自体はそこまで複雑すぎず、難易度も今のところは程よい感じなので、育成も含めて楽しめている。

 美麗な3Dモデルがぐわんぐわんと動くアニメーションも魅力のひとつだ。ゆーげん先生による繊細なイラストにまず目を引かれるが、アニメ調の3Dモデルもかわいい。しかもそのキャラクターたちが、戦闘シーンでは豪快に動きまわるからたまらない。特に高レアキャラのスキルは演出も含めてド派手なので、初めて見たときは素直に「かっけー!」と興奮した。

 とはいえ、「最近のスマホゲーはビジュアルが良いのは当たり前」という見方も当然あることでしょう。ほかのアプリでハイクオリティ3Dに慣れ親しんでいる人にとっては、新鮮さも少ないかもしれない。ところがぎっちょん。『ヘブバン』の場合、そこに「音楽」の魅力がきょげーーーーーーー! と加わるのだ。

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 何度も戦闘を繰り返すRPGにおいて、バトル中に流れる「音楽」の重要度はかなり高い。中でも幾度となく聞くことになる通常戦闘曲には、戦闘シーンを盛り上げつつ、それでいてボス戦のBGMとは差別化しながら、さらにプレイヤーを飽きさせない曲作りが求められる。戦闘曲についてはゲームごとにこだわりがあったり、作曲者さん各々が工夫を施していたりして、聴き比べてみるとおもしろい……のだけれど、話が逸れるのでそれは置いておいて。

 では、『ヘブバン』の戦闘曲はどうなっているのと言えば。

 おそらく一番よく聞くことになる通常戦闘曲は、わりかしシンプル。しかし特別な戦闘ではそこにボーカルが入り、ガラッと印象が変わる。そしてボーカル版を一度聞くと、通常戦闘時にもなんとなく歌声が耳元にちらつくようになる。結果、一番よく聞くはずの通常戦闘曲にも、まったく飽きが来ない。すごい。

 と同時に驚かされるのが、ボス戦やエピソードごとに異なる、楽曲のバリエーション。いわゆる「強敵戦」や「ボス戦」としてボーカル曲が割り振られているのみならず、ストーリー展開にもあわせて戦闘曲が変わるのだ。

 たとえるなら、RPGの終盤やラストダンジョンに入ったタイミングで戦闘曲がめっちゃ盛り上がるBGMに変わる、あの感じ。ああいった展開が、本作の1章ラストや2章ラストにもあった。それも、ボーカル曲を挿入する形で。「BGMとして流れていた曲のボーカル版」や「主題歌のオーケストラアレンジ」をここぞという場面で持ってくるのはゲームあるあるですが、それを本作ではふんだんに突っ込んでくるわけです。……なんてズルいことを! いいぞ!! もっとやれ!!!

 そのような演出面、音楽の使い所のうまさに加えて、個々の楽曲がこれまた耳に残って何度も聞きたくなるほどに魅力的。すでに嫌になるほどゲームで聞いているのに、ゲーム外でも流しておきたいくらいに大好き。サントラの発売が待ち遠しくてハゲそう。

 どのボーカル曲も余さず好きなのだけれど……ひとつだけ挙げるなら、いわゆる「強敵戦」として流れる『Indigo in blue』の中毒性がヤバい。「この曲のタイトルはこれ!」と公式で出ているわけじゃないので(仮)ではあるのだけれど、章終わりのスタッフロールのクレジットを見るかぎりは「これじゃね?」と言われている曲。コーラス陣の面々を見てピンときた人は、多分ハマる。この動画↓のBGMです。

 壮大なコーラスから始まったかと思いきや、そのまますぐに緊張感を煽るメロディとボーカルが入ってきて、初めて聞いたときは続々させられた。中盤でリズム隊がドンドコやってるところも大好き。あとは歌詞。清々しいほどの絶望感。それ以前に曲名からして「この曲と歌詞って、もしかして……」と思うところはあるものの、若干ネタバレになりそうなので以下略。

 あとは戦闘に関連したシステムとしては、オート戦闘とバックグラウンド周回機能があるのも地味ながら嬉しいポイント。プレイ中のオート戦闘は言わずもがな、バックグラウンド周回機能を使えば、アプリを終了した状態でも約10時間はぐるんぐるんと自動で戦闘をこなしてくれる。就寝前にバックグラウンド設定をしておけば、翌朝には勝手にレベルアップ&素材回収が完了している。助かる〜〜〜!!

② 笑いとシリアスを反復横跳びしながら展開するストーリー

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 以上のような「ゲーム」としての戦闘や音楽の魅力がある一方で、やはり「ストーリー」も外せない。

 「リリースされたばかりで、そんな簡単に良し悪しを判断しちゃっていいの?」とツッコみたくなる人もいるかもしれませんが、僕の判断は断然「良」です。それどころか、この手のテキストを読ませるタイプのスマホRPGの「リリース直後に読める物語の出来」としては、過去一番だと断言してもいい。おそらく今後予定されている展開も考慮すれば前半も前半、さわりの部分に過ぎないのでしょうが、それでも「すごく良かった」と自信を持っておすすめできます。

 本作を一言でまとめるなら、「滅亡へと向かう世界で、戦地へと赴きながらも青春を謳歌する少女たちの群像劇」。

 絶望的な世界観のなか、時には場違いにも感じるほどコミカルなやり取りも交わされるストーリーに、「なんぞこれェ!」とツッコみたくなることもあるかもしれない。いや、実際、ツッコミ待ちなんだと思う。しかしその温度差が、物語が進めば進むほど、ボディーブローのようにじわじわと効いてくる。それどころか、アホにしか見えないやり取りにも伏線が仕込まれていることすらある。あとになってそれに気づかされ、「やられた!」と感じたことが1、2章だけでも何度かあった。

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 とはいえ、受け取る人によって合う合わないは当然あるので、「万人におすすめ!」とまでは言えない。本作についての感想やレビューでしばしば言及されているように、あのノリとテンションは人を選ぶのは間違いない。普段からいろいろなジャンルの作品を読んでいる人なら「なるほど、こういう作風ね」とすぐに慣れるでしょうが、それでも「この手のノリは無理〜〜〜!」という人も少なからずいるはず。ストーリー開始5分と経たずにハイテンションなボケとツッコミの応酬が繰り広げられるので、その時点ですぐに回れ右してもOKだ。

 自分の観測範囲で感想を探してみた印象としては、普段からスマホアプリで遊んでいるような、10代の若者世代に結構刺さっているように見受けられた。一口に言えば、ある種の「男子高校生ノリ」が好きな人はハマりやすいかもしれない。ああいったハイテンションギャグは中高生男子が爆笑していそうな印象がある……というか僕自身、そういえば『CLANNAD』で爆笑してハマったのは10代後半の頃だった。

 振り返ってみれば、『CLANNAD』にせよ『リトバス』にせよ、その後の『AB!』に始まるアニメにしても、最新のKey作品に夢中になっているファン層はいつもその時代の学生世代だった気もする。そういう意味では、この『ヘブバン』が今の10代に刺さっているとしても何も不思議ではない。なので個人的には、『FGO』あたりにハマっている10代におすすめしたいかな……! 結局「Key作品」を持ち出して説明しちゃった……。

③ 意味深な世界観と、「スマホゲー」ならではの構造

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 1、2章だけでもかなりのボリュームがあり、「え!? こんなん無料で遊べちゃっていいんですか!?」と驚くほどのゲーム体験と感動を得られた『ヘブバン』。すでに並々ならぬ満足感をいただいたこともあり、お布施としてガチャに課金までしてしまったのだけれど……それはそれとして、今後の展開にも期待しかない。

 というのも本作、2章の最後まで終わらせるまでもなく、早い段階から意味深な要素が散りばめられているのだ。そのひとつに、「ホーム」の存在がある。

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 本作の遊び方としては、「キャラを育成しつつメインストーリーを進める」のが最初の基本的な流れになる。戦闘訓練やダンジョン探索といった戦闘パートも挟みつつ、メインのテキストを読み進めていく格好。ストーリーの最中には自由に行動できる時間もあるため、そのタイミングでキャラクターを育成したり、個別のサブイベントを見たりすることも可能だ。

 メインストーリーは中断しないかぎり先へ先へと読み進められるが、中断すると、プレイヤーは「ホーム」へと戻される*5。ホーム画面と言えば、スマホゲーを遊んだことのある人にはいちいち説明するまでもないだろう。編成・育成・ガチャ・ダンジョン・設定といった項目が並んでいる、あの画面。本作のそれを見ても、何もおかしなところはない。

 しかしストーリーをある程度進めた段階で中断し、改めてホーム画面に戻ってきたときに……ふと、引っかかりを覚えた。チュートリアルを終え、物語も進み、敵も強くなってきたことで、ホーム画面では次々に新機能が開放されていく。ありがたい。これで育成もはかどる。――うん、この「徐々に充実していくホーム画面」もスマホゲーにはおなじみの流れだ。そう、よく知る流れと画面……なのだけれど。

 そもそも、ここ、どこ?
 そして、あなたはだれ?

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 「スマホゲーではおなじみのホーム画面」であると同時に、明らかに「どこかの空間」でもあるその画面/場所。やわらかな光の差し込む屋内。窓の外には一面の水面。扉を開けて入ってくる主人公。いつも出迎えてくれる1匹の黒猫。――なるほど、いかにも「ホーム」っぽい雰囲気だ。

 しかしながら、よくよく考えてみるとおかしい。この空間と黒猫については、本編でもチュートリアルでも、説明らしい説明がなかったのだ。

 本編とは質感すら異なるように感じられるその空間は、きれいで、あたたかくて、なんだか夢のよう。それだけでも違和感があるのに、極めつけはこの正体不明の黒猫の存在だ。最初から当たり前のようにそこにいて、いつだって優しく出迎えてくれる1匹。敵ではなさそうにしても、何の説明もなくそこにいるのが謎だし、何と言っても台詞のひとつひとつが意味深すぎる。

 そしてもうひとつ、意味深っぷりという意味では、このホームから行ける「記憶の庭」の存在が際立っている。

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 一見するとメインストーリーで何度も行き来することになるマップとまったく同じなのだけれど、やはり質感が明らかに異なる。常に桜の花が咲き誇り、ホームと同様になんとなくあたたかな雰囲気で満たされている。本編とは時間軸が異なるどころか、「別空間」としか思えない。そもそも「記憶の庭」という呼び方からして意味深ではあるのだけれど。

 そんなあたたかくも異質な空間には、本編に登場するおなじみのキャラクターたちの姿がある。「あ、なるほど! ストーリー上では交流できなかったり描写しきれなかったりした、各キャラクターとのサブイベントをここでこなせるのかな?」などと勝手にスマホゲー的な理解をして話しかけてみたら……半分合っていて、半分間違っていた。

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 サブイベントは、ある。けれど、最初は話せない。話しかけても聞き取れないノイズが返ってくるばかりだし、それ以前に本人の存在自体がノイズ混じりで不確かであるように見える。……あからさまに異空間じゃないですかやだーーー!!

 「記憶の庭」という名称。ノイズ混じりのキャラクターたち。「記憶の修復」の作業によって少しずつ聞き取れるようになる声。そしてたとえそこが異空間だとしても、本編と同じ場所を元にしているならばいてもおかしくない“あの存在”が、ここにはいない。

 メインストーリーの展開とあわせて考えてみると、「つまり……○○ってコト!?」などと考察することもできるものの、現時点ではまだまだ不確定要素ばかりの謎空間*6おそらくはいずれも『ヘブバン』世界の成り立ちとも関わってくるだろう要素であると同時に、片方は「ホーム画面」として、もう片方は「サブイベントや育成の場所」として、スマホゲーにはおなじみの役割が割り振られているのもおもしろい。

 「もしかしたら今後、“スマホゲー”であることの特性を生かした演出や展開があるんじゃないかしら……?」と、そんなこともワクワクしながら考えてしまうほど、意味深な2つの要素。そんな考察の余地があること、あれこれ考える楽しさも、本作の大きな魅力だと言える。

 

懐かしさと新しさの狭間で、長く付き合っていきたいスマホゲーム

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 そんなこんなで長々と9,000字近く書いてきましたが、『ヘブンバーンズレッド』が、おもしろい。スマホゲーとしてはもちろんのこと、久方ぶりにだーまえのテキスト&音楽に浸かって、キャッキャウフフできるという意味でも。2022年にふれたタイトルとしては特にインパクトの大きい、期待の新作でございます。

 ほかに書ききれなかった話として、

  • 複数人が“キャラクター原案”としてクレジットされているものの、約50人のキャラクターデザインを担当しているゆーげん先生がヤバい
  • というか2章までの内容でも一枚絵がめっちゃ多いんだけど! 何年かけて描いたんですか……?(震え声)
  • もちろん3Dモデルも全員分あるっぽい
  • テキストを読んでいて頻繁に登場する選択肢と、バリエーションの豊富さ
  • しかもすべての選択や細かいやり取りも含めた、ガチの「フルボイス」
  • つまり声優さんの収録もめっちゃ時間がかかったのでは……?
  • 各楽曲から感じられる「麻枝准サウンド」に大興奮
  • あの歌詞とかそのメロディとか! あと若干のガルデモ感
  • 『Burn My Universe』『Burn My Soul』のBPMがランニングにぴったり
  • 『Dance! Dance! Dance!』の「RPG後半の通常戦闘曲」っぽさ、あるいは「ちょっと長めのMCを挟んだあとのライブ後半戦の1曲目」感、いいよね
  • 1章と2章でそれぞれスポットが当たっているキャラの対比
  • 怒涛の展開とハイテンションギャグで流されそうになる序盤の違和感
  • 章ごとに各部隊にスポットが当たるとするなら、最低7章+合間合間のイベントで個々のキャラクターの背景が紐解かれる感じ……?
  • で、全部終わったところからが「本編」として、世界の核心に迫っていく予感
  • 2章の“彼女”のセラフィムコードが“あの作品”とダブって、二重に泣いた

などなど、考察要素も含めれば結構たくさんあるわけですが、さすがにこれ以上長くなるのはアレなので……今回はこのあたりで。

 先日の記事でも書いたように、去年は去年で強く印象に残るスマホゲーのシナリオを味わったばかりだというのに、早くもこれっすよ。まだ2月なのに。SNSでの反応を見るかぎりでは『ヘブバン』もなかなか良いスタートを切れているようなので、今後の展開が楽しみでなりません。

 屋外広告といい、ホロライブの面々による毎日配信といい、宣伝にもかなり力を入れているようなので、「いい感じに人気になってくれ〜〜〜!!」という気持ちでいっぱい。少しでも気になる要素があった方は、ぜひインストールして遊んでみてくださいな。

 「インストールして試すのもめんどい〜!」という方は、この機会にホロライブのVTuberの実況プレイで本作にふれてみるのはいかがでしょうか。14日間で、15人が本作をプレイ。ざっとチェックしてみた印象としては、かなたんおまるんスバルちゃんあたりの実況がおすすめ。「本作のノリと相性が良かった」「作品もVTuberも知らなくて楽しめるはず」という意味で。特におまるんはめっちゃシナジーがあって笑った。

 

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*1:余談ですが、自分のはてなID(ornith)は『AIR』に関連した単語から拝借しております。

*2:念のために書いておくとPS2版です。

*3:参考:CLANNADは人生とは (クラナドハジンセイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

*4:https://twitter.com/K16writer/status/1331470961258872832

*5:ただしストーリーを進めるには「プレイヤーレベル」が条件になっている場合があり、レベルが低いと自動で「ホーム」に戻される場合もなる。

*6:Key作品と紐づけて考えるなら、やっぱり『CLANNAD』のアレや『リトバス』のコレを想像せずにはいられませんよね……。