門外漢にも易しい、前向きな“政治”のお話『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』感想

荻上チキ『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』要約サムネイル

本書のメッセージを一言で要約すれば、「これからの社会には、あなたの〈ポジ出し〉が不可欠だ」、ということです。

(荻上チキ著『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』P.3より)

 このような序文から始まる本、荻上チキ『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』を読みました。

 いつでもどこでも、誰かが何かにダメ出しをしていて、生きにくく感じることもある今日この頃。ネット上の過激な発言は言うに及ばず、駅前でもあれこれと声高に叫ぶ人がいる。いや、もちろんデモやスピーチは自由ですし必要な場合もあるとは思いますが、どうも言葉が強すぎて、聞くに耐えないんですよね……。

 特に政治的な問題については、どこもかしこもセンセーショナルな発言ばかりが目立って、ダルい(って書くと、これも “ダメ出し” なのかもしれないけれど)

 「冷静に考えている人もいるよ!」「あんなのは一部だよ!」という指摘もわかるのだけれど、冷静で客観的で有益な情報にアクセスするには、過激で極端な主張を掻き分けて探さなければいけない現状がある。わざわざ不快な思いをしてまでそうしようという気持ちには、どうしてもなれないのです。

 そんな自分にとって、本書の論調はしっくりくるものでした。

 政治への関心が薄い自分でもすらすら読めるほどにわかりやすく、かつ知らなかった話が盛りだくさん。メディアの報道では興味を持てなかった政治の話も、俯瞰的な「システム」の側面から眺めてみると思いのほかおもしろい──。そう感じられたのは、大きな収穫だったように思います。

8年前の本から、何も変わっていないことに気づかされる

 「僕らはどうして、『ここ』に流れ着いたのか」という第1章から始まる本書。 “ここ” とはすなわち現代日本のことであり、もはや列挙するまでもない諸問題を指すものです。低成長から抜け出せない経済、アップデートされないシステム、個々人の生きづらさ──などなど。

 そんな諸問題を整理し、本質的ではない “ダメ出し” の代わりに “ポジ出し” を志向するよう提案する。それが本書の目指すところであり、具体的には以下のテーマを取り扱っていきます。

  • 日本の政治状況は、今、なぜこのような状態にあるのか
  • これまで、どのような変化が起こってきたのか
  • 今、目の前には、どんな選択肢があるのか
  • 僕らは、これから何をすることができるのか

 ただし、この本が出版されたのは2012年11月。8年近く前の「今」を整理し議論したものとなっているため、「最新の事情を取り扱ったものではない」という点で注意が必要です。

 ──なのですが、意外にも古くは感じられなかったのもまた事実。本書でふれられているトピックは今なお「社会問題」として残り続けているし、解消される気配すらない代物ばかり。つまり、悪い意味で「変わっていない」ことを実感させられる内容であるとも言えるでしょう。

「まずは隗より始めよ」

 主に政治や経済に関する問題を見直し、全5章の構成で「Why」と「How」を提示していく本書。その章タイトルは次のようになっています。

  • 僕らはどうして、「ここ」に流れ着いたのか
  • 僕らはどうして、間違えた議論をするのか
  • 僕らはどうして、「国民益」を満たせないのか
  • 僕らはどうやって、バグを取り除くのか
  • 僕らはどうやって、社会を変えていくのか

 この本で扱うテーマを1章で提示し、2章では諸問題を議論する際の問題点を整理。その問題を解消するために必要な知識と視点、報道姿勢を3章で紐解き、4章で具体的な解決策とフレームワークを提案。個人単位での考え方や社会への関わり方を5章で示して、最後に全体をまとめています。

 読んでいて印象的だったのが、どの議論も「社会」の単位で考えつつも、その解決のための考え方として、「小さなことから一歩ずつ」の姿勢を何よりも重要視しているように感じられた点。

 個人の内面ばかりに焦点を当てる「心でっかち」な思考を問題視しつつも、社会をより良くするためには、個人の問題から始めなければならない。必要なのは、「個人」と「社会」の視点を行き来しつつ、目の前の小さな問題を多角的に捉えながら解決に導いていくこと。万能薬を求めるのではなく、個々の問題に適した処方箋を吟味していこう──。

 そのような切り口での説明は、極論に辟易としていた自分にとっては強く共感できるものでした。

世の中には「困ってる人」と「困ってない人」の2種類がいるのではなくて、「困っている人」と「いずれ困るかもしれない人」の2種類がいるにすぎない。

(同著P.155より)

弱者とは「弱い人」のことではなく、「社会のあり方によって、弱らされたままにされてしまっている人」のこと

(同著P.157より)

 人の気持ちが移ろい変わるように、社会だってグラデーションに彩られている。立場が変われば自分を取り巻く状況も変わるのだから、特定の主義主張に固執するのもおかしな話。柔軟かつ臨機応変に考えることの重要性を、本書を読んで改めて実感させられたように思います。もちろん、想像力の大切さも。

 そして、筆者が不可欠だと語る “ポジ出し” 。認めることや褒めることで得られるもの、問題を指摘するにしてもポジティブに語ることの重要性は、この約2年間、常日頃から実感していたので、改めて確認するまでもありません。優しさに満ち満ちた世界──VTuberとVRChatはいいぞ。

 本書の最後で語られた、「小確効」と「まずは隗より始めよ」の言葉。小さくとも確かな効果を得られる小事を為し、まずは己の身近なところから見直していきたい。そのように考えさせられた1冊です。

 

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