せっかくの学習意欲を無駄にしない!“学び”の型を身につける本『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』


レビュー『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』要約サムネイル

 特に理由はないけれど、何かを学びたい──。

 季節の変わり目は、そうやって不意に「学び」へのモチベーションが高まりやすい傾向にある。そんな気がする。

 しかしそれをネット上で表明しようものなら、辛辣な反応が返ってくることは想像に難くない。「目的のない学習意欲なんて、すぐに消えてなくなるっしょ」とか、「意識高い系は学生時代に卒業しようね」とか、「自己啓発本でも読んだ?」とか*1

 ──別にいいじゃん。意識が高くなる時期があったり、何かに影響されたりしたって。何に対しても無反応だったり冷笑的だったりするよりは、学習意欲はあったほうがいい。たとえそれが、一時的なものだったとしても。「知的好奇心」ってそういうものじゃないのん?

 とはいえ、一番最初の指摘は的を射ているようにも思う。学習に限らず、目的のない活動は長続きしないもの。それがよっぽど楽しくて、刺激的で、心躍る活動でもなければ、継続するのは難しい。ぽっと出の学習意欲なんて、三日坊主で霧散してしまってもおかしくはないのだ。

 でもそれなら、逆に考えてみてはどうだろう。

 「目的」が明確になれば、学習意欲も持続させられるのでは──?

 目的があやふやなまま本を読んでいる人。資格取得などの必要に迫られて学んでいる人。興味の向くまま学習してはいるものの、知識として定着しない人。そのように「消費」的な学習をしてしまいがちな人には、もしかしたらこの本が参考になるかもしれない。

 

 

「紙1枚」で、誰でもできる学習法?

 『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』と題したこの本。過去に『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』がベストセラーとなった著者さんの本であり、そちらと同じく「紙1枚」を用いた学習法を紐解いていくハウツー本だ。

 この筆者さんのことはまったく存じ上げず、本を読むのも今回が初めてだった自分。気になって調べてみたところ……どうやらこの方、「紙1枚」へのこだわりが尋常ではないらしい。だって、既刊のほぼすべてのタイトルに「紙1枚」の文字が踊っているじゃありませんか! それどころか、筆者さんの経営する会社名も「1枚」ワークス株式会社という徹底ぶり。「紙1枚」の専門家だ……。バトル漫画だったら、絶対に「紙」を自由自在に操る能力の持ち主だ……。

 そんな「紙1枚」に特化した筆者さんの本の中でも、特に「学び」に焦点を当てているのがこの本、『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』らしい。そしてその学習法の根幹を成すのが、タイトルにもある「20字」を基準とした情報のまとめ方だ。

 

長く記憶に定着しやすい「20字インプット学習法」

 「20字インプット学習法」は、文字どおり「20字」で情報をまとめる学習法。ただし、最初から「20字」を考えて書き出すわけではない。

 まず必要になるのが、タイトルにもある「紙1枚」。その紙に、情報をまとめるためのフレームワークを作成する。フレームの空欄には「目的」や「キーワード」といった項目を設定し、順番に埋めていく。そうして書き込んだ情報を整理し、最終的に「20字」の一言にまとめるわけだ。

 「20字」と聞くと、「いやいや、20字程度じゃぜんぜん説明できなくない?」というツッコまれてもおかしくなさそうではある。というか、僕も当初はそうツッコミながら読んでいた。

 そのような想定されるツッコミに対して、筆者はこう書いている。曰く、「『20字』あれば、伝えたい内容は表現できる」と*2

 たしかに、あるテーマについて一から十まで、すべてを20字で説明するのは難しい。しかし、それが他人に伝えるものではなく、自身の「学び」のためのインプットならばどうだろう。冗長なメモを書くよりも、端的な言葉でまとめたほうが記憶に残るのではないだろうか。

 何より、「20字」という制約の下では言葉を選んでまとめざるを得ない。20字に収めるためには、必要な情報と不要な情報を選り分け、より正確で明解な表現を選んでまとめる作業が不可欠だ。そしてそのためには、自ら考え、情報を取捨選択しなければならない。

 つまり、「20字」インプット学習法の効用は、最終的に導き出される「20字」ではなく、その過程にある。以上のような過程を経て、自ら考え抜いてまとめた「20字」。それは、普通にメモを取ったり情報を羅列したりするよりも、長く記憶に定着しやすい「20字」となっているはずだ。

 

「20字」にまとめることで、「本質」をつかむ力が身につく

 他方で、「20字」インプット学習法の効用は、ただ単に「記憶に残りやすくなる」だけではない。筆者によれば、このフレームワークを活用することで「『本質』をつかむ力を身につけられる」のだそうだ。

 曰く、「本質とは、多くの事象に当てはまる『よりどころ』*3

 あるテーマについて情報を整理するだけでなく、より適した表現がないか思考しつつ、しかも「20字」という枠に収まるように言葉を取捨選択する。余計なものを削ぎ落とす一連の作業と、その過程で自らあれこれと考える行為が、「本質」をつかむための力を鍛えてくれるわけだ。

 一生懸命「学ぶ=思考整理」を繰り返した結果、自分が今携わっている業務の「本質=よりどころ=判断基準」がつかめたとしましょう。

 そうすれば、どんな時もブレずに判断・行動することができます。

 応用が効くため、不足の事態にも臆することなく対応できる。

 様々なツッコミに一貫した受け答えができるのも、本質がつかめているからです。

 「本質をつかむ力」は、仕事に活かす学習力において不可欠な要素になります。

(Kindle版 位置No.454より)

 考えてみれば、「仕事ができる」と周囲から評価されている人の多くには、このような共通点がなかっただろうか。受け答えがはっきりしており、迷いがなく、端的な説明で相手の納得や共感を引き出せる。「本質的な話ができる」と言い換えてもいいかもしれない。

 そのような「本質をつかむ力」を身につけるためには、物事をシンプルにまとめる要約力と、自分の頭で考えながら分析する思考整理力が欠かせない。「20字」インプット学習法には、そのような能力を習得するための「型」としての役割も期待できそうだ。

 

学びの基本、インプットとアウトプットの「型」を学べる1冊

 ところで、この「20字」インプット学習法。本のタイトルにも「20字」の文字が踊っており、これがメインコンテンツのようにも読める。しかし本書全体で見ると、実は最後に登場するフレームワークの一部に過ぎないのだ。

 本書では、続いて「学ぶだけで満足してしまう」ことを避けるためのアウトプット学習法を紹介。インプットによって得られた「学び」を腐らせず、仕事や生活に活かすにはどうすればいいか。その方法を、同じく「紙1枚」のフォーマットを使って説明する。

 さらに、インプットとアウトプット、2つの学習法を紹介して終わりかと思いきや、本書にはまだ続きがある。最後に登場するのは、それまでに登場した「紙1枚」学習法の集合体。「仕事に活かす」という目的に特化して最適化された「1シート・ラーニング・システム」なるものが登場する。その内容は、ぜひ実際に本書を読んで確認してみてほしい。

 他の誰よりも、勉強の目的を見失いがちな人こそおすすめしたい、『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』。

 インプットやアウトプットが苦手な人でも実践できる「型」を教えてくれるハウツー本として、本書が「学び」の取っ掛かりとなる人も少なくないはず。「これだけ丁寧に説明されたら勉強するしかねえ!」という学習意欲をもたらしてくれる点でも、多くの人におすすめしたい1冊です。

 

 

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*1:僕のフォロワーさんにはそんな人はいませんが! やさしいせかい!

*2:この一言もちょうど全角20字分ですね。

*3:もちろん「本質」=「正解」ではないとも筆者は本文でふれていますので、念のため。導き出される「本質」は学習の目的によって変化し、複数の切り口から別の「20字」を考えることもできる。