このゲームを中学・高校生でプレイできる世代が、心底から羨ましい。
ハマれば、きっと一生ものの作品になるだろうから。
僕自身、クリアした瞬間は、リアルに頭を抱えて「どぅわーっ!」と声を出すほどには衝撃的だった。……いや、正確には「に゛ゃー!」だか「ぎゃーす!」だったかもしれない。いずれにせよ、毎周のエンディングのたびに何かを叫び、むせび泣き、頭を抱えてしまうなどしたことは覚えている。
特に3周目、最後まで終わらせた直後の自分の状態は、一口に言えば「虚無」だった。目の前の結末に呆然としてしまい、しばらくは何もできなかった。ゲームの内容に関する並々ならぬ衝撃もあったけれど、それ以上に、自分が “選んでしまった” ことへの後悔の念が大きかったように思う。
感動と、絶望と、悔恨と──そして、そんなとてつもないセカイを創り上げた作者さんへの賞賛もあった。やべえ作品だとは聞いていたけれど、1本のゲームによってこれほどにも感情を乱され、愛憎の混ざった感慨を抱くことになるとは……プレイ前には思いもしなかったぜよ……。
そして、何より “頭を抱え” ることになった一番の理由は、「こんな作品、どうやって紹介すればええっちゅうねん!」という問題に直面してしまったから。
何を書いてもネタバレになりかねないし、変な先入観を抱かせてしまうんじゃないかという懸念がある……というか、すでに抱かせていたらごめんなさい。現時点で数多くのメディアやブログで取り上げられているし、別に無理に紹介する必要もないのでしょうが……でも、そこはほら、語りたがりのオタク気質な人間としては、好きなものは率先して布教したくなっちゃうんですよ。
──というわけで、この記事では『UNDERTALE』の紹介と感想を書いていこうと思うわけです。
ストーリーの “直接的な” ネタバレは避けてまとめるつもりではありますが、「もともと興味はあったけれど、まだプレイできていない」という方には、この時点でブラウザバックを推奨します。とりあえず遊んでみて! おもろいから! Steamでたったの980円で、ノートPCでもプレイ可能よ! Switch版も出たぞ!!
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『UNDERTALE』とは
『UNDERTALE』は、クラウドファウンディングの資金をもとにToby Fox氏らによって制作された、2015年リリースのRPGである──。
──とまあ、レビュー系のブログだったらこのように書きはじめるのかもしれないけれど、ぶっちゃけ公式サイトを見たほうが早そうなので省略。特に、公式のABOUTページはまっこと “この作品っぽい” ページ構成になっているので、PVとあわせて見ればゲームの世界観がなんとなく伝わるんじゃないかと思います。
さて、公式サイトやPVの文句にもあるとおり、『UNDERTALE』の特徴は「誰も死ななくていい優しいRPG」であること。登場するモンスターは愛嬌たっぷりで、【こうどう】コマンドで特定の選択をすれば、戦わずして【みのがす】ことができるのです。非暴力バンザイ。
もちろん、普通に【たたかう】で倒すことも可能。
従来のRPGよろしく「LV」の存在があるので、HPなどのステータスを強化したいなら当然、敵を倒してLVを上げる必要がある。モンスターを【みのがす】とEXPがもらえないので、LVを上げるには【たたかう】しかないのだ。
モンスターと心を通わせ、平和主義を貫くか。あるいはほかのRPGよろしく、ばったばったと敵をなぎ倒していくか。
ゲームをどのように進めるか──殺すか殺さないかは、プレイヤー次第。
また、本作がそのプレイヤー以外にも波及している理由のひとつとして、「音楽がむちゃくちゃ人気である」点も挙げられるんじゃないかと思う。というか僕自身、このゲームを知ったきっかけが「海外で人気のゲームがあるんだけど、知ってる? 曲がかっけえぞ!」という妹の話だったので。
その人気ぶりは、「一番人気の楽曲は、YouTubeで4600万回再生されている」*1ことからも伝わるのではないかしら。
ファンによるアレンジ曲や演奏動画ですら、人気の投稿は数百万~千万単位で再生されているという桁違いっぷり。ゲーム音楽が好きな人は、どこかで聞いたことがあるかも……?
そういった点を踏まえると、僕がまさにそうだったように、「音楽が好みだから」という理由でプレイしはじめた人も結構いると思うんですよね。音楽がきっかけであれば少ない先入観で自然とゲームに入りこめると思うので、本作への入り口としては最適かもしれない。
なので、もともとゲーム音楽が好きな人などには、まずはサウンドトラックを聞くことをおすすめしたい!
本作の楽曲はAmazon Prime Musicでも配信されており、プライム会員であれば無料で聴くことができるので、会員の方はぜひぜひ。で、何かビビッとくる曲があったら、ゲームも遊んでみて!
その場合、この記事はこれ以降読まなくていいです。
逃れられない「選択」と、「壁」の向こうの世界
独特のゲームシステムと、かわいらしいモンスターと、懐かしくもエモい音楽。外側から見た『UNDERTALE』の魅力は、おそらくそういった部分にあるんじゃないかと思う。
でも当然、それだけじゃあございません。
本作を本作たらしめているのは、何よりも「プレイヤーがその世界に入りこめる」点にある。第一印象は、昔ながらのドット調のグラフィックで構築された簡素な世界。しかし気がついたころには、その世界に魅了され、夢中になってしまっている。
それは、単に「感情移入しすぎてヤバい」という話ではありません。もちろん、世界観やキャラクターにどれだけ感情移入できるかによって、ゲームを楽しめる度合いは変わってくるはず。でもそこまで夢中にならなくても、本作は必然的に “入りこまざるをえない” 世界になっているのです。
プレイヤーはゲーム内において、多くのRPGと同様に「選択」を迫られることがたびたびある。キャラクターの質問に「はい/いいえ」で答えたり、目の前の出来事の対処方法を選んだり。操作するキャラクターはその選択に従って動き、時にはそれが物語の結末を左右する場合もある。
ところが、『UNDERTALE』における「選択」は、それだけにとどまらない。
ある選択がその後の展開やエンディングに影響を及ぼすのはもちろんのこと、一度「選んだ」という事実は「なかったこと」にはできないのだ。
たとえゲームをセーブせずに終了しても、その選択や行動はしっかりと記録されており、リセット前にイベントを「見た」という事実はNPCとの会話に反映される。それはまるで、ゲームに「見られている」ような感覚を覚えるものだった。
加えて、本作においては「プレイヤー」自身も、決して蚊帳の外の存在ではない。
RPGにおける「主人公」といえば己の現し身であり、彼/彼女を操作して物語を進めていくのが普通。『UNDERTALE』もその流れに沿ってはいるものの、ゲームを進めていくなかで、何度か「主人公」とは異なる「プレイヤー自身」の姿が垣間見えることがある。ゆえに “入りこま” ざるを得ない。
──というここまでの話で、類似の作品や「○○の壁」という言葉が思い浮かんだ人もいるかもしれない*2。本作は、まさにそんな人にこそおすすめしたい。 “壁” を壊すどころか、僕らをその向こう側へと引きこんでくる──それがこのゲームの魅力のひとつであり、そういった世界の仕組みを楽しむことができる人にとって、『UNDERTALE』はきっと特別な作品となるはずだから。
ひとたびゲームを始めれば、あっという間にその最中へと迷いこみ、世界の当事者のひとりとして選択を迫られ、そして最後には……夢中になってイヌをナデナデしているはずです。
「プレイしなければよかった」と心から後悔した日
自分の場合、プレイする前に聞いていた情報として「『UNDERTALE』には3つのルートがある」というものがありました。前述のように「殺すか殺さないか」を選べる本作では、モンスターとどのように向き合ってきたかによって結末が分岐するのだとか。
それと同時に耳にしていたのが、「第三のルートは無理にプレイしなくてもええんやで」という助言。ゲーム中で示されるヒントを元にプレイした場合、最後のルートはやらなくてもいい──とのこと。
……はて? せっかく物語が用意されているのに、「プレイしなくてもいい」とは……?
何か良からぬ空気を感じたとはいえ、ゲーム中に用意されている以上、当初は普通にプレイするつもりだった3周目。だって、せっかくのゲームだし、遊ぶなら隅々までプレイしたいじゃん?
ところが、実際にゲームを遊びはじめ、2周目のエンディングを迎えたところで……なるほどと納得した。たしかに、あんな結末を見たあとに別の可能性を模索するのはためらわれる。2周目で世界の謎はあらかた明らかになっているのに、その道を選ぶ必要があるのだろうか──と。
それでもやっぱり、必ずしも「裏」要素というわけではなく、ゲーム中でもはっきりと示されている物語を追いかけないのはもったいないと考え、半信半疑で始めた3周目。しばらくストーリーを進めたところで、再び納得し、後悔することになった。
これは、マジでキツい。
苦しい。辛い。
それまでの2つのルートと違って、あからさまに雰囲気が違う。多くのRPGで当たり前だったことが、今はただただ重苦しく感じる。目の前の数字が大きくなればなるほど、喪失感は高まるばかり。達成感なんて欠片もない。
そうして、たどり着いた終盤。それまでの2ルートを真っ向から否定するような高難易度に絶望し、何十回、何時間とゲームオーバー&コンティニューを繰り返すことになった。とてもじゃないけれど、それまでやっていたゲームと同じものとは思えない。
寝る間も惜しんで試行錯誤を繰り返し、ようやく成し遂げたのはある日の深夜のこと。あまりに何度も何度も繰り返しすぎたため、終わった瞬間にはさすがにガッツポーズをした……のだけれど。次の瞬間、ふと我に返ったところでみたび納得し、心底から悔やむことになったのでした。
本気で後悔した。
やらなければよかった。
けれど、どれだけ悔やんだところで、 “選んだ” のは自分であるという事実が重くのしかかる。ゲーム中で示唆されるまでもなくそれは自覚していたので、本気で愕然として落ちこんだ。……ただのゲームなのに。
──そう、傍目から見れば「何をゲームごときで」と思うかもしれない。けれど、それだけ自分は『UNDERTALE』の世界に夢中になっていたんだなあと、そこで改めて自覚したのでした。
大好きな世界を最後まで堪能できたと考えれば、なんだかんだでプレイしてよかったと言えるのかもしれない。終わった瞬間は後悔したものの、一夜明けて冷静になり、最後に見た絶望と喪失も含めて『UNDERTALE』という作品の魅力だと考えるようになった。……という言い訳。
まあ、そうでも考えて自分を納得させないと、とてもじゃないけれど4周目を楽しめそうになかったので……。3周目は3周目で間違いなく本作を構成する大切な要素ではあるものの、人に勧めるかどうかは別問題。たしかにアレは、「プレイしなくてもいい」やつでしたわ……。
ただいま、ぼくのだいすきな「ゲーム」のせかい
そんなこんなで、もはや今更感も甚だしいかと思いますが、「『UNDERTALE』はいいぞ」という話でした。さすがにすぐに4周目に取りかかる気力はないので、今は二次創作をあさって楽しんでいます。
こうして感想をまとめるにあたって、「『UNDERTALE』という作品を表すのに、最もしっくりくる言葉はなんだろう?」と考えていた。数多くのメディアやブログで絶賛され、誰もが「ネタバレは避けて!」と口を酸っぱくし、それでも語らずにはいられないほど虜になっている、その世界。
いくつかのレビューや感想記事を読んで、そのどれもに頷き共感しつつも、どうにも「これだ!」とピンとくる表現がなかった。見た目とは裏腹に多彩な要素を有し、その解釈も好きなポイントも人それぞれに異なる『UNDERTALE』の世界は、一言で説明するにはあまりにも広大すぎる。
そんななかで目に留まったのが、ゲーム情報サイト・AUTOMATONに掲載された記事。本作がリリースされた2ヶ月後という早いタイミングで書かれたレビューに、次のような一節がありました。
個人的な解釈ではあるが、本作は過去に『MOTHER』や『moon』をプレイしていたが、今はもうゲームで遊んでいないようなプレイヤーへ向けた作品だ。君たちがふたたびゲームへと帰ってきた物語が、『UNDERTALE』では描かれるのである。
("レトロ系"に終わらない愛の2DドットRPG『UNDERTALE』レビュー、あなたが「現実」から「ビデオゲーム」へと帰るとき | AUTOMATON)
本作を遊んでいる最中、エンディング後、そしてひととおりプレイしきった今現在に至るまで、共通して抱いている感覚──それがまさに「これだ!」と思った。
『UNDERTALE』を遊ぶことは、子供のころに遊んでいた「ゲーム」と再会するような体験であり、ビデオゲームの楽しさと魅力を思い出させてくれるもの。自分ではうまく言語化できなかったけれど、それはまさしく “ゲームへと帰る” ような感覚を覚えるものだったのです。
事実、本作をプレイしたあとの自分の行動が、15年くらい前に「ゲーム」を楽しんでいた小中学生時代の自身の行動そのままで、思わず笑ってしまったくらい。
というのも──少し話は逸れますが、当時の自分はゲームと同じように「ゲーム音楽」が大好きで、魅力的な作品と出会ったあとには、決まってゲーム中のBGMを繰り返し聞く習慣がありまして。
小学生の頃はゲームボーイの音量をMAXにして部屋のBGMにし、中学生になるとおこづかいで初めてのサウンドトラック(J-POPや洋楽よりも先に求めたのは『聖剣伝説2』のCDだった)を購入し、高校生になるとネット上でアレンジ曲を聞きあさっていた。で、同人音楽やボカロにハマっていくわけですが。
最近はゲームを遊んでもサントラを買うくらいのもので、アレンジ曲をあさることまではしていなかった……のだけれど、『UNDERTALE』に関してはもう、速攻だった。すぐにYouTubeで検索し、毎日のようにアレンジ曲やファンによる演奏を聞きあさり、好きなアーティストがアレンジCDを出していると知るや否や、翌日には秋葉原へと走る。子供の頃に戻ったような勢いだった。
ゆえに、上の記事で書かれている「ふたたびゲームへと帰ってきた」感覚が、自分にとってはものすごくしっくりきたわけです。
どこか懐かしい雰囲気のゲームではあるけれど、まったくの新しい感慨を抱かせられる、とてつもない作品でもある。と同時にそこには、暇つぶしの娯楽と言い切るにはあまりにも思い入れが強すぎる、少年時代に大好きだった「ゲーム」の世界があった。
それはまるで、昔なじみのホームに帰ってきたような感覚。であればこそ、「みんなもこっちにおいでよ!」と言いたくもなるのです。
放課後、ゲームボーイやコントローラーを片手に友達の家に集まり、ギャースカ騒ぎながらゲームを遊んでいた思い出。『UNDERTALE』は1人用ではあるけれど、その周囲を取り巻く雰囲気は、過去に “みんな” で遊んだゲームに近しいもの。間違いなく記憶に残る、特別な作品となりました。
1周プレイするのに、およそ6時間。変に冗長な物語ではなく、バトルも作業じみた感じにはなりづらく、何と言っても音楽がすばらしい。たかがゲームであり、されどただのゲームとも言い切れない。必要なのは、ゲームを遊ぶための時間と、ちょっとした “ケツイ” だけ。日本語版が配信されてますます盛り上がる『UNDERTALE』の世界に、さあいらっしゃい。そして一緒に、イヌをなでよう。