読みました。AmazonのKindleストアを中心とした電子書籍情報サイト「きんどう」を運営する、zon(@zoknd)さんの著書。その内容は読んで字の如く、 “Kindleのまとめサイトでどうにかこうにか1000日間生計をたてた話” となっています。
いちブログ運営者として興味深い話題も多く、何度も「それな」と頷きながら読ませていただきました。……いや、うちはそもそも収益化も狙っていない泡沫ブログではあるのですが、それでもブログを「メディア」として捉えた場合、共感できる部分が多かったので。
電子書籍にとどまらない、オウンドメディアのつくりかた
本書のメイントピックは、「メディア運営」について。
冒頭でその想定読者を、 “他業界や、出版者業界で編集や紙書籍の営業から、電子書籍の担当になった人” としているように、1冊の半分以上は「電子書籍メディアのつくりかた」を紐解いた内容となっております。
具体的には、「きんどう」で実際に取り組んできた施策や考え方を取り上げつつ、「電子書籍を売るためのメディアを作り、実績を上げる」ことを目標にして説明している格好。
どういったコンセプトにすれば良いか。記事作りの方向性はどのようにするか。ソーシャルメディアの運用方法、各媒体の役割とはどのようなものか。──参考となる既存のサービスや筆者自身の経験も例示されており、わかりやすい説明・構成となっているように読めました。
電子書籍はネット経由で売れるコンテンツですから、ネットで流行るという文脈をどう理解していくか、今何が流行っていて盛り上がっているのかを知らないのはかなり無謀です。
読者の信頼を勝ち取るためにメディアをやるわけですから、半端な距離感は意味が無いです。地を出して読者と一緒に汗をかくのが愛される近道です。
ただ、その一方で読み進めながら感じていたのが、「これって、他の『オウンドメディア』の類にも当てはまる考え方っぽい?」という点。
読者との距離感、更新頻度や告知のバランス、他社コンテンツを“紹介”することの意義など、「電子書籍」にとどまらない、現代の「インターネットメディア」を運営するうえでの基本的な考え方がしっかりとまとめられている──そのように読めました。
特に現在、Twitterにおける企業アカウントの運用方法を見ていると、その内容ははっきりと二分されているように見えます。ざっくりと分ければ、「単に更新通知を垂れ流すだけ」か、「消費者・他社との交流によってファンを獲得している」か。
そこで前提となる視点のひとつが、上でも引用した “ネットで流行るという文脈” を理解しているか否か。本質的な部分であるにも関わらず、この点を言及している「ソーシャルメディア運営術」関連の言説は意外と少ないのではないかしら。
そういった意味でも、本書は「電子書籍」だけでなく、広い意味での「ネットメディア」にこれから携わらんとする担当者さん(特にネットに疎い人)におすすめできる1冊だと感じました。
(ただ、本書を読んだ他の感想でも目にした覚えがありますが、「ネットの文脈」を知るためにまず参照するサイトが「はてなブックマーク」であることについては、「え!?飛ばしすぎじゃね!?」と思わなくもないです。かと言って、他に何を勧めれば良いのか、と聞かれると……悩む)
いろいろと試しながらも根幹は、ただただ続ける“千日手”
話はちょいと変わりますが、「ネットメディアの運営で、一番大切なことは?」とメディアの運営者さんに質問したら、返ってくる答えは、意外とバラけるんじゃないかと思います。
ある人は、「コンセプト」だと言うかもしれない。またある人は、「読者本位であること」だと答えるかもしれない。「コンテンツの質」「更新頻度とボリューム」「飽きさせない記事作り」──などなど、ぶっちゃけ、メディア各々のジャンルによって異なるんじゃないかとも。
しかし、その「メディア」がブログに代表されるような「個人メディア」であった場合。あるいは、特定ジャンルを取り扱う「情報サイト」を個人で運営する場合。重要になってくるのは、「揺らぎ続けながらも、揺るがないこと」なのではないでしょうか。
矛盾しているようにも見えますが、だって、その「メディア」が存在する場所は、なんでもかんでもあらゆるものを内包する、魑魅魍魎が跋扈する「インターネット」。
何かひとつに決めたところでその価値観が不変であるとは限らず、かと言ってコロコロと変えまくっていては見向きされない。そのメディア独自のコンセプトを持ちながらも、周囲の環境や価値観の変化に即座に対応・対処できる「余白」が必要なんじゃないかと思います。
その点、「きんどう」さんのバランス感覚は、ひっじょーに絶妙なところで保たれているように見えるんですよね。
でもわたしが成功したのは「タイミング」「運」「継続」がたまたま噛み合っただけです。
ご本人は文中で、なんでもないことのように書かれていますが。言われてみれば確かに、他のウェブサービス・メディアの運営者さんの話で、同じようなことを言っている人も相当数いらっしゃったような気がするため、納得はできます(具体例が思い浮かばないのでアレですが)。
特に重要なのは、この「継続」。簡単に「続ける」とは言いますが、これってむちゃくちゃ大変なことだと思うんですよ。そりゃあもちろん、1,000日間も休みなく更新を続けるだけでも、とんでもない時間を割く必要があります。
が、それ以上に、その期間中、常に周囲の動きと環境の変化に気を配りながら、根っこの部分は変えずに水面下ではあれこれと試行錯誤を続けるという、そのバランス感覚が尋常じゃない、と。1,000日間にわたってほぼ同じことを続けながらも、それとは別の一手を常に考えているような。
zonさんのツイートを見るだけでも──Twitterアカウントもフォローしてから2年ほど経ちますが──、電子書籍界隈の動きをウォッチしつつ、「きんどう」の読者にリプライを飛ばしつつ、KDP作家や他の電子書籍サイト運営者ともやりとりをするという立ち回りっぷり。
「きんどう」本体にもまったく批判がないというわけではありませんし(と言うか、2chにヲチスレがあるんですね)、その計算された“キャラクター”に異論を唱えている人もいる様子。それでも、ここまで再起不能になるほどの大きな炎上もなく、収益も確保しながらひたすら更新を続けてきた筆者の忍耐力は、“鬼気迫るもの”と形容できるレベルなんじゃないかしら……。
そんなこんなで、たびたびセール情報でお世話になっていることもあり、応援したいという気持ちから購入&読ませていただきました、『Kindleのまとめサイトでどうにかこうにか1000日間生計をたてた話』。
「メディア運営者向け」ということは、割と「ブログ運営」にも通ずるところが多いとも言えるので、自分のブログを持っている人は興味深く読める内容なのではないかと。発売当初はちょっと誤字や句読点が気になったものの、現在は修正済みとの話。少しでも気になった方は、ぜひぜひ。