数年前、とある界隈で「単著もないのに」*1という言葉が流行したらしい。単著があれば圧倒的な影響力を持つことができるんです? じゃあぼく、たんちょだす!(出せない)
「単著」ってなんぞや?
ここで言われている、ネタ的に使われている「単著もないのに」が示す “単著” とは、おそらく「その人の名義で出版社から発行された商業出版物」を指し示すものだと思われます。確かに最近、ネット上での活動を経て書籍化するという流れは当たり前になった。
00年代はブログ、あるいはテキストサイトから出版へ至るケースが多かったと記憶しているけれど、最近はブログに限らず特定のコンテンツが書籍化され、他のメディアミックスへ広がりを見せるケースも少なくない。映画化もした『ビリギャル』*2とか『脳漿炸裂ガール』*3とか。
一方、ネット上での実績を買われて商業出版に結びつくケースだけでなく、現在は個人あるいは集団で電子書籍を刊行するような活動も珍しくない。日本独立作家同盟さんの『月刊群雛』*4とか。
これまでにもあった「自費出版」とは別に、デジタルとは言え資金ゼロで自分の「本」を出せる環境が整っている現状は、多くの “本好きさん” にとってありがたい状況だと言えるのではないかしら。もちろん、売上を気にしなければ、だけれど。成功者はほんの一部っぽい。
自分もブログを書いている身ではあるので、「本を出せたらいいな……」なんて思いを漠然と抱えていたことはある。でも、冷静になってみたらわかる。「え? いったいこのブログのどこに、そんな『本』として出せる要素があるのん?」と。……うん、ないわ。
どんなブロガーが単著を出せるの?
もしも現在、あるブログを書いている人が「出版」をゴールに設定して取り組む場合には、どういった戦略で攻めていくのがいいのだろう。探してみるといくつか言及している記事がありましたが、中でもわかりやすくて個人的に納得がいったのが、下記の言説です。
- 卓越した文章力と切り口、取材能力を持つネットワーカー
- 特化した専門性とネット知名度を元に書籍化
- 編集者のハートを直撃する企画で一本釣り
過去に「単著」を出しているブロガーのブログを見ても、ほとんどはこの3パターンのいずれかに当てはまるのではないかと。オールラウンダーか、スペシャリストか、プランナーか。
上記2つはわかりやすいですね。ブログに限らず、複数媒体で記事執筆をこなしているライターさんなどは「1」の能力を兼ね備えている印象。文章を愛し、言葉を愛し、常にあれこれ試行錯誤しながら、「書く」こと、あるいは「伝える」ことを楽しんでいる人たち。
「2」は言うに及ばず、本業の延長線としてブログを継続し、名実ともにその筋の専門家として認められている人。ただ、最近は大衆の趣味嗜好が細分化したことで、 “本業” とまでいかずとも “趣味” として何かしらのジャンルに特化していれば、出版に結びつくような気もする。
「3」に関してはいくつか攻め方があるんじゃないかと思うけれど、ブログもそのひとつ。しっきーさんみたいにひとつのエントリを全力で書き上げて、それがバズり、編集さんの目に留まって――といった流れと。
もしくは、最初から自分で「電子書籍」として出版してしまうのもいいかもしれない。はてなブックマークのホットエントリーではなく、AmazonのKindleランキングで上位に入ることを目指す形。出版社の編集さんなら、あの辺のランキングの推移は確認してそう(イメージです)。
ただ、そこで大事になってくるのが、上記記事でも示されている大前提。冒頭で引用されている記事中の「共通項」がなければ、そもそもブログが続けられないし、「出版」に代表される何かしらの成果に結びつきにくいんじゃないかなー、と。
その共通項は、ほぼ間違いなく全員が「書く」ことが好きで好きでしようがないブロガーだということです。ことあるごとに発作的にキーボードを掴んで言語化せすにいられない、それぐらい書くことが好きで好きでしようがない人種なんだと思うんですよ、この手のブロガーって。「昨日、ブログを更新したから暫くは更新しなくていい」なんて冷静より、「あっ!これはもう書くしかないっ……」と書く欲望に引きずられるように文章を綴らずにいられないのです。
息をするように文章を書き連ねる、ブログジャンキー。承認欲求だとか広告収入だとかは二の次で、とにもかくにも「言葉」ありきで語り出さずにはいられない生き物。そうした人たちが、自分の「単著」を出すに至っている、と。
この点についてraf00さんは、プラスアルファとして以下のようにも書いています。
そうした基本的な欲求の先に、「ブログによってどれだけ読み手に与えることができるか」が問われるのではないか、そう思うのです。
(中略)
「分水嶺はどこか?」と問われたら、その「与えるものの多さ」というシンプルなところに至るんじゃないかなぁと思います。少なくともこれまでネット経由で単著を出された方たちは「際立ってネットユーザーに何かを与えて来た人たち」でした。
言い換えれば、書いた文章が読者に「伝わる」かどうかという部分。 単なる自意識の発露、自己表現の結果として現れ出た「文章」では終わらず、それによって読者に何かが “伝わり” 、何らかの心境の変化や行動の誘発に至ったかどうか。
もちろんこれらだけが全てではなく、具体的に必要となってくる要素は他にもあるんだろうし、最終的には運やらタイミングやらにも左右されるのでしょうが。でも、もしも「出版」を目指すのなら、こうした視点もあるんだよ、ということを意識しておいても損はないと思う。
具体的に、どんな本が出ているの?
じゃあ実際のところ、どういったブロガーさんがどんな「単著」を出しているのだろう? ということで、とりあえずこの数年に「はてなブログ(ダイアリー)」経由で出版に至った(っぽい)ブロガーさんの著作をいくつか並べてみました。
わぁい。好きなブロガーさんがいっぱい。こうして見ても、やっぱり何かしらのジャンルに特化しており、普段のブログの内容が反映された著作になっているような印象を受けます(※ほかにも「はてなユーザー」で単著を出している人は数多くいらっしゃいます)。
ただ、彼ら彼女らが最初から「書籍化」を考えていたかというと、多くの場合はそういうわけでもないんじゃないかと。好きで書いていたことが注目されるようになり、評価されるようになり、自然な流れとして「成果」に結びついたような、そんなイメージです。
また、『醤油手帖』の杉村啓さん、『ゆかいなお役所ごはん』のくらふとさんは同人サークルとして過去に多くのオリジナル創作同人誌を発行しており、そちらの活動でたまったコンテンツの実績が評価された――という側面もあるのかもしれません。
特にここ数年はグルメ系の創作同人が盛り上がっているため、もしかすると今後も書籍化の動きが出てくるのかも……? グルメ以外では、ゆず屋さんのフォント本なども。こちらの場合、過去の同人誌+ブログ記事を加筆修正したものだそうです。
そんな事情もあり、「とにかく書籍化したい!」という人は、とりあえず自分で形にしちゃうのも一手なんじゃないかな、とも思ったり。
最近は「株式会社はてな」が同人誌即売会たる文学フリマ*5を後援したりと、創作同人に対する各所からの注目が集まったり、制作側のハードルが下がったりしてきている印象もあるので。
とは言え、同人誌を作るにはお金が必要。そこで、「まずは試しに電子書籍!」というのも悪くはないと思うんですよ。割とちょちょいとできちゃうっぽいので。自分のブログの過去記事をまとめてみるもよし、他のブロガーさんと共著にするもよし。
個人的にも今、売上などは度外視でシコシコ書いてみたりしている最中。それをやってみて意外と簡単にできそうだったら、何かしらテーマを絞って複数人で集まってやってみるのもおもろいんじゃないかと。例えば数十人くらい集めて、各々が勝手に好きな本を語るブックガイドっぽいのとか。あ、でも本の表紙画像は権利面で厳しいのかな? その辺も勉強しないとですね。
何はともあれ、まずはやってみてもいいのでは。
書籍化云々は置いといて、ブログの延長として。
実際に作ってみました
関連記事
*2:STORYS.JP→書籍化→映画化 - 学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話 - Wikipedia
*3:ボカロ曲→小説化→映画化 - 脳漿炸裂ガール - Wikipedia