「書くことは楽しい!」を教えてくれる『書く習慣』は、ネットで何かやりたい人のためのマインドセット

 

いわゆる「文章」をテーマにしたハウツー本には、それぞれにテーマがある。

 

たとえば、『新しい文章力の教室』

この本のテーマは、ずばり「完読されること」。読者に完読してもらえる文章を書くにはどうすればいいのか。コミックナタリーの元編集長が、自社の新人教育で提示していた「文章術」をまとめた内容だ。

あるいは、『伝わる・揺さぶる!文章を書く』

こちらは「読み手の納得・共感を得る」ことに主眼を置いており、読者の気持ちを動かすことに狙いを定めた「書き方」を提案する1冊だ。中高生に作文の指導をしている筆者が教える「問い」の立て方は、文章以外の分野でも活用できる。

ほかには、『日本語の作文技術』

書店に行けば必ずと言っていいほど置いてある定番本であり、30年以上も読まれ続けているロングセラー。テクニックとしての「文章術」以前の、「作文」の基本を学ぶことができる。選んで間違いのない「最初の1冊」だと言えるだろう。

このように「文章本」も多岐にわたるが、今回読んだ『書く習慣』もまた、それらの本とは異なるテーマを持つ1冊だった。ある意味では現代にぴったりの、これから何かを「書こう」と考えている人にこそおすすめしたい本だったので、簡単に紹介します。

書く習慣

書く習慣

  • 作者:いしかわゆき
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
Amazon
続きを読む

歩いて、覗いて、止めて、撮る。

 

――出かける理由探しをしている。

「理由なく外出する」ことを躊躇するようになってから、はや数年。そろそろ普通に出かけてもいいだろうと思いつつ、でもまだ遠出するのはためらわれる、今日この頃。

だって、別に電車に乗って都心に出なくたって仕事はできるし、オンラインでだって人と話すことはできるから。遊びや会話だって、VRで十分に事足りている……というかむしろ、「VRのほうが楽しい」まである。都心の見知らぬ街を、何時間も歩きながら写真を撮りまくっていたように、仮想現実の意味不明な世界を、時には朝まで散策しながら写真を撮っている。

VRはいいぞ。たのしいぞ。おいでおいで。

 

 

近未来都市に、リアルでは入れない廃墟、どこまでも続くコロニーに、次々に景色が移り変わる異国の団地。それらバーチャル世界をカメラ片手に歩きながら、でも同時に、靴を履く理由を探している自分もそこにはいて。すっかり汗臭さの染みついたヘッドマウントディスプレイを横に置き(たまには手入れしようね)、ほとんど臭うことすらなくなった玄関のスニーカーを履いて(もともとそんなに臭っていなかったので念のため)、遠く遠くへ出かけたい。そんな気持ちも、やっぱりある。

まるで「自宅警備に励んでいます」と言わんばかりの書き方をしてしまったけれど、まったく外に出ていないわけではございません。週6〜7でスタバに通う生活は今も続いているし、最低でも週に1回は10km以上をとっとこ歩く日を設けている。散歩はもともと好きだし、Podcastを聞きながらだったら、割といくらでも歩いていられるのです。そう、歩ける……のだけれど、このご時世である。用事がなければ電車に乗って遠出することはないし、カメラ片手に街を歩く機会はとんと減ってしまった。

だから、臭くない。スニーカーが。もっと臭くてもいいのに。いや、やっぱりよくない。そのままのキミでいてほしい。臭わない靴は、清潔と健康の証。たぶん。

スメルの話はさておき。靴を履いて遠出したい気持ちは、やっぱりある。カメラを持って、知らない街へ繰り出したい。知っている街でもいい。生活圏からちょっとだけ外れて、写真を撮りながら楽しくお散歩ができるなら。VRは最高だけれど、リアルワールドを散策したい気持ちだって、やっぱりある。出かけるための、理由が欲しい。

 

そんな折にやってきたのが、春だ。

 

 

正直に言って、3月から4月にかけての時期が特別に好きというわけではない。日々少しずつ暖かくなっていく陽気に気持ちを膨らませていたのは少年時代の話であり、今はそれよりも、「今年も……来ちゃったかぁ……」の感覚が強い。

そう、春とはすなわち、花粉の季節。

暖かな陽の光や、小鳥のさえずり。肉体にとっては心地が良いはずの「春」の情報を、花粉に苦しめられてきた経験が、精神面で拒絶してしまうのだ。ああ……今日もあったけえなあ……花粉が飛びまくってるんだろうなあ……なんて考えていたら、鼻がムズムズしてきたなあ……ックショーイ! ったぁ! ゆるせねえ!!

とはいえ、それも一時の我慢である。4月も上旬になれば憎き敵の気配も徐々に薄まり、ようやく僕らの「春」が始まる。――春はあげぽよ。桜もまだぎりぎりで咲いているし、新年度に浮足立つ街の空気に誘われて、外へと出かけたくなってくる。出かけちゃっても……いいんじゃね?

 

 

「春」には、出かける理由が、ある。

 

桜が咲いているから。暖かくなったから。花粉も収まってきたから。新年度だから。新しいお店ができたから。春服を買いたいから。イベントがあるから。

そう考えてみると、たくさんの出かける理由を与えてくれる「春」という季節が、自分は結構好きだったのかもしれない。カメラを持って、心置きなく街へと繰り出せる、この4月が。ロードバイクを引っ張り出して、春の空気をいっぱいに吸い込みながら、ペダルを漕ぐ……のは、まだちょっと躊躇われるものの。花粉の残滓があるあいだは。

 

 

だから、歩く。自分の足で歩いて、ファインダーを覗いて、体の動きを止めて、シャッターを切る。

両手のコントローラーで自由にカメラ操作ができるVRとは違って、リアルワールドの「撮影」は不自由極まりない。カメラを空中に固定できないし、ドローン操作による上空からの俯瞰図は撮れないし、壁を貫通して移動できないし、ワープもできない。でもだからこそ、ただ美麗でエモいだけじゃない、自分の「足」で撮ってきた写真たちが、なんとなく愛おしく感じられる。

長時間のVR体験で得られる充足感とはまた異なる、心地の良い倦怠感。シャッターを切るときに呼吸を止めるのは、自分が“ここ”で生きている証だ。

 

 

関連記事

原作未読で映画『BLUE GIANT』を観た結果、玉田に感情移入し、最後はおじいちゃんになった

映画『BLUE GIANT』予告編 - YouTubeより

胸の奥底にしまい込んだ、青春の残り火を保管してある部屋の扉を、常にノックされ続けているかのような映画体験だった。

続きを読む