ぐるりみち。

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本・人・旅の3つが教養を培う?『人生を面白くする 本物の教養』感想

 

 出口治明@p_halさんの『人生を面白くする 本物の教養』を読みました。

 ライフネット生命保険株式会社の創業者である出口さんの本を読むのは、これが2冊目。幼いころから活字中毒だったという筆者の「読書論」を紐解いた『本の「使い方」』*1に対して、本書のテーマは幅広い意味での「教養」となっています。

 とにかく「本」と「読書」について掘り下げていた『本の「使い方」』に対して、非常に幅広いトピックについて取り上げている本書。学問・知的生産・時事問題といった少テーマで持論を述べつつ、タイトルにもある「本物の教養」を身につける方法をまとめています。

 

「教養」とは?

 日常的にもしばしば聞く言葉ではありますが、そもそも「教養」ってなんだろう? 試しにいくつかの辞書・サイトで調べてみたところ、次のような説明がなされていました。

  • 個人の人格や学習に結びついた知識や行い*2
  • 学問、幅広い知識、精神の修養などを通して得られる創造的活力*3
  • 心の豊かさ*4
  • 物事に対する理解力*5
  • 社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識*6
  • 社会人として必要な広い文化的な知識*7
  • 学問、知識などによって養われた品位*8

 細かなニュアンスは異なるものの、いずれにせよ、社会で生きるにあたっては必要不可欠な「知識」や「振る舞い」を指すものだと言えそうですね。あと本筋とはまったく関係ないのだけれど、自分がこの言葉を初めて知ったのは『ルドルフとイッパイアッテナ』だった気がする……。

 

 辞書で説明されているこれら定義に対して、本書によれば、筆者が考える「教養」とは次のようなもの。曰く、 “人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツール” であり、その本質は “自分の頭で考える” ことにあるそうです。

 辞書的な定義を言い換えただけにも読めますが、ポイントは “ツール” という表現にあるのではないかしら。それは、つまらない物事を “面白く” する道具であり、ひいては “人生の楽しみを増や” してくれる存在である。なくても困りはしないものの、身につけることで己の視野を広げ、選択肢を増やし、人生の幅を広げてくれる便利スキル。それが「教養」である――と。

 

 同時に、もうひとつの本質として挙げられている、 “自分の頭で考える” という視点も忘れてはいけません。ただ知識を身につけるだけでなく、他人の話を鵜呑みにするでもなく、自分の頭で考え、自分の言葉で意見を表明できる人。それすなわち、教養人。

 一般的に抱かれている「教養」のイメージとしては、こちらのほうが近いかもしれません。ですが、誰もが “自分の頭で考える” ことができているのかどうかと考えてみると……実際のところ、実践できていないようにも思えてくるんですよね……。少なくとも僕自身は、普段から情報を摂取するばかりで、個々の内容を吟味する時間を取れていない現状があるので。

 

とくに最近は安直に「答え」をほしがる傾向があり、それに応じてきれいに整えられた「答え」や、一見「答え」のように見える情報が、ネット空間などにはあふれています。ランキング情報やベストセラー情報などは、その最たる例です。あるいは情報がコンパクトにまとめられたテレビ番組もたくさんあります。多くの人が、まるでコンビニへ買い物にでも行くかのように「答え」の情報に群がり、分かった気になっています。

出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より

 

 僕らが日常的に目にしている “「答え」の情報” は、良くも悪くもわかりやすい。しかも、その途中の “考える” 過程は専門家や有識者が代替してくれているため、“自分の頭で考える” 必要がない。そもそも、専門家でもない素人が考えたところで「答え」を導き出せるとは限りませんしね。

 しかし、「わかりやすいから」といって無思考に受け入れ納得してしまうのも考えもの。なればこそ、ある事物に対して時に「面白い」と感じ、時に「おかしい」「違和感がある」と感じ、自ずから是非や妥当性を考えるための「教養」を身につける必要がある。本書は、その手助けをしてくれる1冊となっています。

 

筆者の教養を培ってきた「本・人・旅」の存在

 では、具体的にはどういったことを心がけ、何をすれば「教養」を培うことができるのか。その考え方と方法が、全10章・261ページに及ぶ本文中で紐解かれていくわけです。

 なかでもわかりやすく、すぐにでも実践できそうな考え方として説明されているのが、4〜6章の部分。その前の3章で「数字・ファクト・ロジック」の3要素で考えることの大切さを述べたうえで、その考え方を前提としながら、実際に筆者の教養を育んでくれた存在について言及しています。

 

私にいくばくか教養のようなものがあるとすれば、それを培ってくれたのは、「本・人・旅」の三つです。私はこれまでの人生で、「本・人・旅」から多くのことを学んできました。あえて割合を示せば、本から五〇%、人から二五%、そして旅から二五%ぐらいを学んできたといったところでしょうか。

出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より

 

 4章「本を読む」で書かれているのは、「速読は百害あって一利なし」「古典は無条件で優れている」といった、筆者の読書論。これは冒頭にも挙げた『本の「使い方」』のエッセンシャル版とも言える内容なので、既読の人にとっては繰り返しの内容になりますね。

 5章「人に会う」は、「相手を人脈としか考えない人は、自分もそう見られている」「必要のないおつき合いは極力省く」など、他者との付き合い方について持論をまとめた内容。ビジネス的な人間関係にモヤモヤを抱えている人は、学べる部分もあるのではないでしょうか。

 6章「旅に出る」に至っては、「『きれいな女性』に会いたくて海外へ」「中国の書店で毛沢東の本は埃を被っていた」といった、旅の流儀と旅先でのエピソード。よく目にするバックパッカーの旅日記とは異なり、筆者ならではの「旅」の楽しみ方を知ることのできる章となっています。

 

 元も子もない言い方をしてしまえば、これらはすべて筆者の「自分語り」であり、結果論に過ぎないという見方もできます。何百冊と本を読んだところで教養人とは思えない人も普通にいるし、旅を実りあるものにできるかどうかはその人次第の運次第。誰しもに当てはまるものではありません。

 少なくとも “本から五〇%、人から二五%、そして旅から二五%” という割合に関しては、出口さんゆえの数字なんじゃないかと。「毎日十四、五時間は読書していた幸せな日々」という小見出しもあるほどに活字中毒だった筆者が、本から多くを学んできたというのは自然な帰結。ゆえに、人によってこの割合は変わるでしょうし、これら以外の要素が加わる人がいてもおかしくないと思います。

 

 しかし他方では、「実際にこのようにしてきた」という体験談は、参考にして取り入れることもできるわけで。

 例えば、本を読んでもピンとこなかった人は、筆者の読み方を真似することで読書に目覚めるかもしれない。人との付き合い方に思い悩んでいた人は、シンプルな考え方を読んで気が楽になるかもしれない。そのようなある種の処方箋として、本書が役立つ人は少なくないのではないかと。

 それこそ「本」である本書を、そのまま “自分の頭で考える” きっかけにしてもいいわけです。1冊のなかでどの部分に共感し、あるいは疑問を抱くかは、読者によってさまざま。本書をテーマに、「教養」について語る勉強会につなげることもできるんじゃないかしら。

 これは考えすぎかもしれませんが、続く7〜9章あたりを読むと、さまざまな話題についてあえて筆者の主張を断言的に書くことで、読者に “考える” ことを促しているようにも読めたので……。全体として「広く浅く」の読後感を持ちながらも、いろいろな読み方ができるという印象を持ちました。

 

 あまりロジカルでないと感じられた方も多いかもしれませんが、このほかにも「教養」を身につけうる考え方として、本書では多彩な指摘がなされています。

  • 「タテ」の時間軸と、「ヨコ」の空間軸で考える
  • 「修飾語」を取り除いて考える
  • 「本音」と「建前」を見分ける
  • 「幹」と「枝葉」を峻別する

 そしてなにより、本書が信頼できるのは、以下のスタンスが冒頭で示されており、さらには、あとがきでちょっとした “ネタバレ” が書かれているから。いずれも決して珍しくはない書き口だと思いますが、わざわざ表明したうえで本にしているあたり、出口さんの人柄が現れているのかなあと。

 

この本で述べていることは、すべて私が身をもって体得した原理原則です。ですから、誰にでも当てはまるものではないと思います。「あなたも絶対こうしてください」と言っているわけではありません。あくまで「私の場合、こうしたらとても具合がよかったのでその方法を述べますが、採用するかどうかはあなた自身でよく考えて決めてください」というのが本書のスタンスです。価値観の押し付けほど、私が嫌いなものはほかにありません。

出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より

 

 個人的な印象としては、「教養」云々は抜きにしても、「社会に出て学習欲が出てきた」「仕事とは無関係でもいつか役立つ可能性が高い知識を得たい」という人にハマりそうな読後感を抱きました。

 ビジネスパーソンをはじめ、社会に出る前の学生さんまで。「教養」とは何たるかを改めて考えたい人であれば、何歳からでも勧められる1冊です。また、特に「本の読み方」について詳しく知りたい人には、本書よりも前に出ている『本の「使い方」 』もおすすめです。

 

 

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