知識がなくてもド迫力で楽しい『ミュシャ展』と、カメラを通した芸術鑑賞


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 国立新美術館で開催中の企画展『ミュシャ展』に行ってきました。

 ここしばらく美術館に行けておらず、いつ以来になるのかなー……とブログを振り返ってみたら、昨年夏の『ルーヴルNo.9』(現在は福岡アジア美術館で開催中)が最後だった模様。いやー、思っていた以上にしばらくぶりでござった。

 そもそも僕個人は、美術のみならず「芸術」分野に関してはド素人。なので、此度の企画展の “ミュシャ” についても、「なんとなく絵柄が思い浮かぶ程度」の知識しかありませぬ。アニメやマンガ、同人作家さんの作品のおかげで “ミュシャ風” のイラストには見覚えがあったけれど、肝心の「元ネタ」はとんと存じ上げなかったわけです。

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 そんな自分でも、結果から言えば「むちゃくちゃ楽しかった!」と満面の笑みで会場を後にすることができたのが、この『ミュシャ展』。

 何も知らなくても「すげえ!」と大口を開けて見上げることのできる超巨大油彩画が目に飛び込んできたかと思えば、そのド迫力の後にはポスターをはじめとする緻密な装飾絵が待っているという、とてつもないギャップの二段構えが楽しかったです。

 そんな『ミュシャ展』について。門外漢なりにおもしろかったポイントと、会場内の特に撮影可能エリアを見ていて思ったことを、だらだらと書き連ねました。

 

国立新美術館へ

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 毎度おなじみ、国立新美術館

 この日は六本木駅から歩いて来たのですが、チケット売り場が混んでいるのを見て、試しに反対側へ。乃木坂駅側もそれなりに並んではいたものの、どちらかと言えばこちらのほうが列の流れは速いように見えました。Twitterの声を読むかぎりだと、駅直結でない六本木側のほうが安定している模様。

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 ゴールデンウィーク明けの平日ということもあり、まあ連休ほどは混んでいないでしょう……と思いきや、それなりにお客さんが多かったのは予想外。

 案内を見ると、ミュシャ展は6月5日まで草間彌生展は5月22日まで。期間的にはどちらもまだ若干の余裕があるにも関わらず、いまだ盛況で客足が途切れていない様子。入場待ちの列がないぶん、連休や週末よりは空いているようですが、それでも場内は人でいっぱいでした。すっごい人気。

ド迫力の《スラヴ叙事詩》と、カメラを介した作品の“見方”

 さて、本企画展の見どころは何と言っても、チェコ国外では世界初公開となる《スラヴ叙事詩》全20作――らしいのですが、そういった事前情報や前提知識はどうでもいいのです。

 いや、どうでもよくはないのだけれど、知識がない人でも「なんぞこれー!?」と驚き楽しく鑑賞できるのが、此度の『ミュシャ展』の魅力なんじゃないかと思いまして。

 もちろん、知識ありきで臨むのは王道というか、芸術を趣味(仕事)にしている人にとっては基本のスタイルかと。でも逆に、何も知らず新鮮な気持ちで触れてみて、作品そのものや当時の歴史、芸術家個人の背景を学ぶことができるのも、美術展の楽しみ方のひとつだと思うのです。

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 そんなわけで、ほとんど何も知らないままに場内に入ってまず目に入るのが、縦6メートル×横8メートルの「原故郷のスラヴ民族」。間近に立つと、文字どおり “見上げる” ように首を傾けないと全景を見ることが叶わない、《スラヴ叙事詩》の1枚です。

 それだけでも「でけえ!?」とビビるほどなのに、そんなド迫力の絵画が20枚も展示されているのだからびっくり。一番小さなものでも縦3.9mはある作品が壁面に並んでおり、それを連続して20点も観られるというスケール感。まるで自分が小人になったかのようだ……。

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 しかも、そのうち5点は撮影可能

 15枚の巨大絵画を、まず近くで見、離れたところから全景を確認し、改めて間近に寄って気になるところをじっくりと眺めて満足したと思ったら、「残り5枚は自由に撮影しておっけー☆」というのだからすばらしい。そりゃあ疲れも吹っ飛ぶわい! わーい! 写真、撮るー!

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ロシアの農奴制廃止(1914)

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イヴァンチツェの兄弟団学校(1914)

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聖アトス山(1926)

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スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓い(1926・未完成)

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スラヴ民族の賛歌(1926)

 「撮影OK」と言われれば、そこはカメラを構えてしまうのがジャパニーズの性。スマホはもちろん、なかには複数の一眼レフカメラをぶら下げている人もおり、僕もほかのお客さんと一緒にパシャパシャと撮影に勤しんだのでした。いやはや、満足満足。

 そんななか周囲を見まわしてみると、単に「絵画の全体を撮る」だけでなく、少なくない人があれこれと試行錯誤しつつカメラを構えていることがわかります。距離を変え、いろいろな角度を試し、設定も微妙にいじりつつ、ファインダーを覗いている形。

 それまでに足を運んだ美術展とは向きが異なるその光景が、どこかおもしろく、印象的に感じられたのでした。と同時に、「カメラ」があることで作品の鑑賞の仕方にも若干の変化が現れているように思われたんですよね。

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 というのも、普通に絵画を鑑賞しているぶんには、周囲から「その人がどのように絵を見ているか」はわからない。他人の視線の動きまでまじまじと観察する機会なんてないし、その人が「何を」見ているかは視線で判別できても、「どのように」見て鑑賞しているかまでは計り知れない。

 けれど、そこに「カメラ」という媒介が設けられると、その人の「見方」が周囲からも垣間見える。もちろん、さすがに何を考えているかまではわかりません。ただ、どのようなカメラを媒介として選んでいるか、同じ絵画でもどの部分を切り取り写真にしようとしているかに目を向けてみると、その人の「絵」に対する向き合い方やスタンスが見えてくるんじゃないかと思います。

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 そのように考えてみると、「美術館での写真撮影の是非」はしばしば議論に挙がる問題ではありますが、カメラという媒介を通すことで見えてくる芸術作品の魅力もあるんじゃないでしょうか。……フラッシュやシャッター音の問題は別として。

 特に自分のような “芸術素人” の場合、カメラを通して初めて気づけることは少なくないように思います。

 まず全体を写真に収めようとするのは基本として、次にどの部分を撮影するか。どこへに視線を向け、どのような角度で撮るか考え、そのうえでシャッターを切る。その段階を踏むことによって、肉眼で漠然と見ているだけでは気づきにくい「自分の視線」を自覚できるのではないかと。

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 実際、本企画展で撮った写真をざっと振り返ってみた印象としても、それとなく共通点があり、自分が何を気にして見ているのかがなんとなくわかったように思います。

 具体的には、複数人が描かれている場合は中心人物よりもその周囲に目が向くとか、右よりは左下から見上げるような写真が多いとか、直線よりは曲線が気にかかっているらしいとか、意外に背景を見るようにしているとか。そのような傾向が見られました。あと、人や神を問わず筋肉が好物だとか。

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撮影エリア外ですが『ヤン・アーモス・コメンスキーのナールデンでの最後の日々』が好き(作品紹介|ミュシャ展)。

 写真データを確認するに、どうやら《スラヴ叙事詩》の20作品だけで1時間じっくりと鑑賞していた様子。ポスターをはじめとする次のエリアに移動したのも、周囲の混雑に押される形でやむにやまれずだったので、見ようと思えばもっと時間をかけて見ていたんじゃないかと思います。

 無論、続く展示スペースの80点も見応え充分。俗に言う “ミュシャ風*1” の作品も大量に展示されており、たっぷりと時間をかけて満喫してきました。

 国立新美術館で『ミュシャ展』が開催されているのは、6月5日まで。現在もそこそこ混雑しているものの、だいたい展覧会って終了間際は混むんですよね……。行くなら5月の平日、午前中と夕方以降はそれなりに空いているようなので、お早めにどぞどぞ(公式サイト)。

 

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