「退職前の“引き継ぎ”が楽しかった」という思い出話


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 「年度末」と聞くと、思い出されるのは営業員時代の記憶。前職の同期とはしばらく連絡を取っていないものの、おそらくは「プレミアムフライデー? なにそれ食べれるの?」という具合でもって蹴っ飛ばし、休日出勤かつ連勤に精を出しているはず。

 そもそも営業職にとっての「月末」と言えば、ただでさえ胃が痛くなる時期だ。毎月の売上目標達成は当然のこと。営業成績のより高みを目指して数字を上げるべく、営業マン全員でもって担当地区内を駆けまわる。最近はマシになったらしいが、何年か前は日を跨ぐのも当然だったそう。爆ぜろ。

 

 各々に割り振られた売上分を確保するまで営業所に帰ることは叶わず、最悪の場合……自爆に至る。俗に言う「自爆営業」である。その威力は時と場合、営業所と営業マン個人の裁量によって上下し、数千円程度であれば平気で加算する人もいるとかいないとか……*1むしろ自分たちが爆ぜていた。

 年に12回あるそういった「月末」のなかでも、「年度末」はさながら地獄だ。早朝出勤は当たり前、「朝礼なんざやってる暇はねえ!」と言わんばかりに罵声が飛び交い、最悪な雰囲気の営業所から逃げ出すべく平社員は我先にと営業車で出発し、暗くなるまでノンストップで担当地区を全力疾走する。そのなかでも逐次、売上の状況を上司に報告し、誰かのマイナスは営業マン全員で補填しなければならない。つまり、とてつもなく、ダルい。

 

 ――とまあ、そんなダルみMAXな繁忙期も、慣れれば許容できていたのだけれど。この時期になると、なんとなーく営業マン時代を思い出すのです。なんだかんだで楽しかったよなーと。

 今なら多分、もうちょいうまく立ちまわりながら、仕事を楽しみつつ営業成績も上げられる……と思ったけれど、やっぱり気のせいだった。……無理だ。体力が追っつかない。夏になったら死ぬ。おそらく、お盆休み前のフル稼働を経た翌日の夏コミで腐海に沈む。満面の笑みを浮かべながら。

 

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 そんなことを考えていてふと思い出したのが、退職前の2ヶ月間。

 

 そのころにはもう「HAHAHA! 先輩方よ! 僕は一足先にスタコラサッサさせてもらいますぜ! 今までお世話になりまひゃっほぅ!」と触れまわっており、干支が一回りは離れた歳上の中途採用さんに引き継ぎを始めていた。気さくな方だったので、自分としてもやりやすかったと記憶している。

 そう、やりやすかった……というか、「楽しかった」んですよね。間違いなく。学生時代は塾講師を前向きにこなしていたくらいだったので、もともと「人に教える」という行為が好きだったのだと思う。わずか1年半とはいえ、先輩から学び、自分なりに体系化してきた「働き方」を他人に伝えることが、とても楽しくおもしろく感じられた。決して優越感のようなものではない……はず。たぶん。きっと。

 

 もちろん、後任の中途さんが、社会人経験も人生経験も自分の何倍も豊富だった点も大きかったと思う。拙い自分の説明を酌み取ってくれるだけでなく、先回りして「こういうことだよね?」とすいすい業務内容を把握していた格好。……あれ? これ、単に後任さんが優秀なだけじゃね?

 それまでは工場のラインで働いていたという話でしたが、それでも営業先のお客さんとの話ぶりを聞いていると、「やっぱり大人は違うなー」とむしろ自分が勉強させてもらっていたくらい。

 どちらかと言えば高齢のお客さんが多い担当地区において、「入社間もない若者」としてかわいがってもらっていた自分とは逆に、「共通の話題も多い壮年の男性」として会話・営業をこなしていらっしゃった印象。大人には大人の文脈があるんだなー……なんて言うと、「いつまで学生気分でいるんだ!」とツッコまれそうではありますが、素直な感想として。

 

 他方で、営業活動それ自体は問題なくとも、事務とルートまわりが不安だと語っていた中途さん。実際、彼に引き継ぐルートの顧客数は100近くにも及び、各々にそれとなく決められた「ルール」や「好み」があり、それを覚える(伝える)必要があった。

 営業職の方は心当たりがあるんじゃないかと思いますが(業種にもよるでしょうが)、当然、取引先によって販売している商品は異なるし、うちは食品系だったので、好みの傾向も違ってくる。現在取り扱っている商品はもちろんのこと、販売終了となったものの過去に好んで買っていただいた商品なども把握しておけば、今後の新商品の案内にも役に立つ。

 

 同時に、訪問時間・曜日などの指定がある顧客も数多く、それぞれをうまくルートに組み込んで車で回る必要もある。途中で予期せぬ注文やクレームが入ることもあり、そうした場合の優先順位も意識して動かなければいけない。当然、エリア内の道も覚えるのが大前提。

 そういった立ちまわりはやはり慣れないと大変なもので、中途さんも苦労していたようでした。……となれば、引き継ぐ側も気合いが入ろうというもの。「よーし、パパがんばっちゃうぞー!」と言わんばかりに(むしろ彼がパパである)、資料作成に取り掛かったのでした。

 

 ――で、この資料作りがまた楽しかったんですよね。

 

 もともとは本社へ企画を提案するべく、勤務時間外にいつでも資料を作れるようにと購入したまま埃を被っていたプリンターを引っ張り出し、全100近くの顧客リストとルートマップを作成。

 各顧客の過去の取引データを洗い出し、季節ごとの売れ行きやおすすめ商品を分析し、最新1ヶ月の売上傾向ほかと合わせてExcelに記入。担当者さんの名前と電話番号、好きな商品やよく話す話題といった基本情報のほか、近くの地形情報や見込み客なども盛りこんだうえで、全体のルートマップにも各顧客を番号で記載。それなりに膨大な「資料」作りに精を出しておりました。

 

 ……でも結局、無駄に力を入れすぎたせいで完成しなかったんですけどね! はっはっは。あと2週間は欲しかった。

 

 ともあれ、そういった「資料制作」も合わせて「引き継ぎ」をする一連の流れを楽しく感じられたのは、会社を辞め(ようとし)たからこそ得られた気づきだったのかなーと。

 そもそも2年目に後輩社員が入社していれば、こういった面で楽しみを見つけられていたのかもしれないけれど……まあその辺は、巡り合わせとしか言えないでしょうし。こういう方向での「仕事」の楽しみを知ったのが、たまたま退職前だったという話。

 

 ともかく、「引き継ぎ」というある種の「振り返り」ができたことによって、現在も前職を肯定的に捉えられている一面はあると思う。「自分はこう教わった」「教わったものを自分なりに形にした」「形にしたものを整理して後任に伝えた」という、一連の流れを経たからこそ。

 それは見方を変えれば、他のあらゆる行為・活動にも当てはまる過程と言えるかと。それこそ、こうして文章にして書き出す行為も「教わり、形にし、伝える」ものだし、退職後3年にわたって書き続けているブログそのものも、その流れを酌んでいるように見える。

 

 何事も見方次第……というか、つまるところは「アウトプットって大切だよね!」というありきたりな話なのかもしれない。そろそろ前職の記憶も薄れつつはあるけれど、折に触れては振り返っていきたいところでございます。

 退職後、偶然にもコミケで出会った先輩によれば、自分の在職中に在籍していた先輩の多くは今や転職するか転勤するかでいらっしゃらないようですが……。あと、それなりに仲良くしてくださっていた営業先のおじちゃんたち、元気にしてるかなあ……。

 

 

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