ぐるりみち。

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経験値は申告制?ファンタジー世界の“労働”を紐解く『竜と勇者と配達人』がおもしろい!

 いつの時代も、どこの世界でも、働く人は大変だ。

 労働それ自体の苦悩や職場問題は言うに及ばず、ただ目の前の仕事に取り組んでいれば自動的にお給料が振り込まれる――わけではないのがダルい。取引先との折衝に書類の整理&提出、業界は常に変化し続けているし、いつまでもその職が安定しているとも限らない。

 そして、そういった “お仕事事情” はどうやら、どの時代、どこの世界にも共通したものらしい。そのなかでも大変なのがお役所仕事であり、剣と魔法が支配する(支配していた)ファンタジー世界においても、役人さんは面倒な役回りを押し付けられるのが常のようだ。

 ――というわけで、そんな最新の “お仕事マンガ”(?)として、『竜と勇者と配達人』の1巻を読みました。作者は、先日の記事(関連:剣士、吟遊詩人、ドルイド――中世に実在した職業100種以上をまとめた『十三世紀のハローワーク』で取り上げた本と同じく、グレゴリウス山田@yamadievalさん。

 『十三世紀のハローワーク』に登場した実在の職業も描かれており、しかもそれがファンタジーなジョブと交わる、とても新鮮かつ愉快なマンガ。お仕事マンガであると同時に、RPGのシステムやファンタジー世界の「お約束」に切り込んだ内容にもなっており、楽しく読むことができました。

 

役人目線で見る、ファンタジー世界のお仕事事情

 さて、本作『竜と勇者と配達人』の主人公は、タイトルにある “竜” ではなく、 “勇者” でもなく、とあるファンタジー世界の都市の駅逓局に勤める新米 “配達人” の吉田

 良くも悪くも真面目で実直、眼前の問題は力技で対処するたくましさを持った、ハーフエルフの女の子でござる。ただし、戦闘力はそうでもない模様。本文中のステータス表記によれば、戦闘力は “やや攻撃的な一般女性級” だそう。ついでに後輩属性持ち。吉田かわいい。

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.37

 そんな吉田ちゃんは、都市の駅逓局で働く見習い配達人。一般的なお手紙から督促状に収入証書まで、あらゆる書簡を届けてまわる役人さんでございます。

 街中をとっとこ行き来することもあれば、ダンジョンがごとき断崖絶壁の上に住む魔術師の家へ向かうこともあるという、なかなかの重労働に励んでいる模様。届け先が一癖も二癖もある人ならばまだマシで、そこに魔法やら剣やらが関わってくるからさあ大変。命がいくつあっても足りない。

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.14

 しかし、そこはやっぱりファンタジー世界。明らかにやべえダンジョンには「セーブポイント」の存在がある。――ただし、多くのRPGよろしく安価で100%復活、とはいかない様子。

 具体的には、あらかじめ「復活の呪文」を対象者にかけておく必要があり、その行使をする専門職として「復活司祭」「復活修道士」と呼ばれる聖職者がいるとの話。あわせて、対象者が死んだ場合に聖職者のもとへと運ぶ「死体回収人」とペアで活動していることが多いそう。

 人件費や諸経費を考慮すれば、たしかに “セーブ” が安くないのもさもありなん、といったところなのかしら……。でも、そう考えると、安価すぎるド◯クエ世界の教会はどうやって資金繰りしているんだろう……寄付? そして、ポケ◯ンセンターはやっぱり税金で運営されているのだろうか……。

 

一大事業を創出する「勇者」という職業

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.46

 またあるときには、勇者一行のパーティに同行することになった吉田ちゃん。戦闘力は皆無なので当然、伝令役として後方にいて戦闘には参加しないわけですが――このエピソードが、これまたおもしろい。

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.44

 やたらと大所帯な勇者御一行の面々を見ると、前線で戦うおなじみの「戦士」や「魔術師」のほかにも、「刀鍛冶」「武具持ち従者」「車力」「酒保商人」「カレー係」といった専門職たちがぞろぞろと。むしろ非戦闘員の数のほうが多いほどである。

 そしてそのなかには、上のような「経験値記録官」の姿も。――そう、なんとこの世界、 “経験値” は申告制なのです! でも言われてみれば、一定の経験値がたまってテレッテッテーするのはデジタル世界ならではの感覚よね……。それにしても申告制とは……確定申k……うっ、頭が……。

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.51

 竜と戦う戦闘職に比べれば地味にも見える彼らだけれど、彼らにしかこなせない役割があり、そのために画面外で働いていると考えれば、これほど頼もしいことはありませぬ。どうにも肩書きが “それっぽく” てカッコいいから困る。あ、この世界に転生するなら、ファンファーレ係になりたいです。

 また、狩りが終われば、皮やら牙やら鱗やら、各種素材の “競り” が始まる。RPG基準で考えると違和感バリバリなのに、リアル基準で見ればありえそうだからおもしろい。ここでもきっと、後ろでは商人系の役職ががんばっているんだろうなあ……。ボス級の魔物を解体し、素材として切り分け、換金し、さらに街まで持ち運ぶ。そのすべてを、ゲーム上の4人程度のパーティでこなすのは無理がありますしおすし。

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グレゴリウス山田『竜と勇者と配達人』(1) P.58

 そして、その場における主人公・吉田の役回りはずばり “飛脚” 。大捕り物を達成した勇者一行の戦果を街へ戻って報告し、現地で必要となるだろうジョブの皆様に応援を頼む重要な役職である。ちらっと「物乞い」らしき人が混ざっているような……。

 こうして、竜の死骸の周囲には工場と村ができ、たくさんの雇用と富を生み出すことになるのだとか。一度の狩りで一大事業を生み出す彼らは――なるほど、「勇者」と呼ぶにふさわしい職業なのでしょう。……全体的にお金の匂いしかしないぜひゃっほぅ! だが、それがいい。

 

 ――とまあそんな感じで、ファンタジー世界における労働、職業、共同体、行政といった存在に焦点を当てているのが、本作『竜と勇者と配達人』でございます。ちなみに先の “勇者御一行” は、江戸時代の捕鯨組織「網組」をモチーフとしているそうな。その辺の解説コラムも興味深く読めます。

 このほか、配達人という職業ならではの「紙(羊皮紙)」事情や、街の外で魔物と遭遇したときの狩猟権の問題、技術不足を魔法で補った結果として顕在化した魔術師の過重労働など、切り口はさまざま。それこそリアルにおいても無縁ではない労働事情が描かれており、胃痛を伴いながらも楽しく読むことのできるマンガです。徴税……確定申告……あばばばb

 同作者さんの『十三世紀のハローワーク』とあわせて読むとより楽しめると思いますが、そちらは内容の充実さも相まってそこそこいいお値段するので、まずは本書から読んでみるのがいいかもしれません。『となりのヤングジャンプ』で連載中(リンク:となりのヤングジャンプ : 竜と勇者と配達人なので、興味のある方はぜひぜひ。吉田かわいいよ吉田。

 

© グレゴリウス山田/集英社

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