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ぐるりみち。

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『新海誠Walker』神木隆之介さんとの対談が最高にアツい、ファン必読の書

 『君の名は。』関連書籍  

 

 映画『君の名は。』を観に行ってきたのは、昨日のこと(感想記事)。そのあまりの出来栄えに感動して夢うつつだった帰り道、小説版を買うべくアニメイトに立ち寄り、表紙と帯の文句に心惹かれ、思わず一緒に購入してしまったムック本。それがこの、『新海 誠Walker』です。

 

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 てっきり、最新作を観て興味を持った人向けの「入門書」的な内容かと思っていたのですが、いざ帰って本を開いてみると、その多彩なコンテンツとボリューム感にびっくり。

 新海誠作品が好きな人にとっては最高に嬉しい、設定資料集や絵コンテとともに過去作品を辿れるガイド本となっており、むしろファン必読の一冊。中でも、新海監督と神木隆之介さんのロング対談は他で読めない、最高にアツく濃い内容で、これだけでも買う価値がありそう。

 自身も監督の作品の大ファンでありながら、役者の視点からも語られる神木隆之介さんの作品評と、それに呼応するように繰り広げられる、新海監督のものづくり観。おもしろかったです。

 

 

 

最新作『君の名は。』のキャスト&スタッフインタビュー

 本書『新海 誠Walker』は、最新作の公開に合わせて発売された、新海誠作品のガイドブック。巻頭ではまず『君の名は。』を20ページにわたって徹底解説しています。

 ネタバレをしない範囲での各キャスト・スタッフさんへのインタビューが掲載されており、まだ映画を観ていない人向けの「予習」としても読むことのできる嬉しい内容。もちろん、すでに観てきた人が読んでも「そういうことだったのか!」と気付きのある話も多くあります。

 

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 キャラクターデザインを担当した田中将賀さんへのインタビューからは、田中さんの仕事への姿勢や、デザインの心構えを垣間見ることができます。続く作画監督・安藤雅司さんの話と合わせて、アニメにおける「オープニング」の立ち位置の話も興味深かった。

 

絵には自分の興味のあること、自分の置かれている状況が露骨に出てしまうものなんです。そういう意味では、一番信用できないのが自分自身の目です。人からの評価によって仕事を得ている以上、自分の感覚を外にさらして、今何がはやっているのか肌で感じていくほかない。ひたすら上達したいので、現状には全然満足していません。常に上を目指してあがいていないと、続けられない仕事だと思っています。

『新海 誠Walker』田中将賀 INTERVIEW P.009より

 

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 さらには、主役2人の声を担当した神木隆之介さん&上白石萌音さんに加えて新海誠監督も交えた鼎談に、映画を音楽で彩ったRADWIMPSメンバーとの対談も。

 こちらではそれぞれ、作品全体における「音」の役割に関して言及されており、鑑賞する際には気をつけて“聴きたい”ポイントと言えます。……となればやはり、立川シネマシティの「極上音響上映」が最強なのでは……? とも思ったり。実際、RADの楽曲がむっちゃ澄んで聞こえたので。

 

【新海】本作は、瀧と三葉の物語なので、瀧が何を語って、三葉が何を語り、その次に洋次郎さんが何を歌うかっていう、3つの声を軸に据えました。テンポ感も含めて、音のリズムで組み立てた作品です。ところどころドアが開くガラガラって音も本編に入っていますけど、あれはリズムをそこで刻むためのカットだったりするんです。そして、その前後の音を引き立たせるために、時々無音の瞬間もあるんですよね。そういったことを意識して作品を作っていたので、『君の名は。』は、音の映画でもあるというふうには思っていますね。

『新海 誠Walker』神木隆之介×上白石萌音×新海 誠 P.018より

 

設定資料や絵コンテと共に振り返る、過去作品の徹底ガイド

 続いて掲載されているのは、「新海 誠フィルモグラフィ」と題してまとめ上げられた、過去作品の徹底ガイド

 『ほしのこえ』に始まり、『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』まで、全56ページにも及びます。加えて、『彼女と彼女の猫』『だれかのまなざし』『クロスロード』などの短編アニメも取り上げられているのは嬉しいですね。さすがに、過去に担当したゲームのオープニングムービーまでは書かれていなかったけれど。

 

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 イメージボードなども掲載されており、文字どおりの“保存版”。そして最後には、『機動戦士ガンダム』のキャラデザ・作画監督を務めた安彦良和さんの「新海誠語り」もあり、これが本書の中でも絶妙なバランスを持っているように感じました。

 決してべた褒めするでなく、時に批判的な目線で語りつつも、それでもなお新海作品の魅力を論じている――という印象。単なる作品評で終わらず、クリエイターとしての新海監督自身についても第三者目線で語られた話として、読んで良かったと思わされる内容でした。

 

世間で言われているような「ポスト宮崎」とは、あまり言いたくないんですよ。宮崎監督が(長編アニメ制作を)辞められて、後は誰がいるんだ?と話題になっていますけど、新海さんにはそういうことにはあまり惑わされないで、自分の本領でこの先も行ってほしいなと思います。興行的なものに妥協する必要なんてないと思いますし。だからといって今回の作品が無理に妥協している感じかというと、そんなことはないですし。「いかにも新海 誠の映画だな」っていう感じでした。

『新海 誠Walker』安彦良和 新海 誠を語る P.081より

 

過去作品を監督・役者・ファンの視点から“旅する”対談

 ここまでのコンテンツだけでもお腹いっぱいになりそうな本書ですが、冒頭にも書いたとおり個人的に良かったのが、新海監督と神木隆之介さんのロング対談。「神木隆之介が旅する新海 誠の世界」と題され、12ページにも及ぶ内容となっています。文字数にして、約19,000字?

 

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 この対談の何がおもしろいかと言えば、監督ご自身が語る作品に込めた思いや裏話は当然のことながら、対談相手である神木さんが複数の視点を持っており、他ではなかなか読めなさそうな話題が展開されていることにあると思うのです。

 映画に出演した役者さんでありながら、それ以前から監督の熱狂的ファンでもあったため繰り返し作品を観ており、さらに今回の抜擢によって研究を重ねたとの話。もともと持っていたファン目線に加えて、創作物に携わっている役者としての視点、さらに実際に演じたことで見えてきた出演者としての見方も加わり、むちゃくちゃ濃い対談となっていました

 たとえば、『秒速5センチメートル』について話されている、以下の部分。

 

【神木】この作品については、どこからどうお聞きしていいのかわからなくなってしまうのですが、とにかく僕は、タカキに憧れています。タカキの持っていた感情を僕も持ちたいし、いかにタカキに近付けるか意識しながらナレーションを練習してきました。吐く息が白くなる季節に「ハアッ」と息を吐いてみたら、何か変わるかな…と試してしまうぐらい、タカキというキャラクターは僕の人生、役づくりに影響を与えています。

 

【新海】そういう話は、初めて聞きました。特に、役者さんにそういう影響を与える作品だとは思っていませんでした。だけど、わかる気もします。というのも、『秒速〜』は何も特殊なシチュエーションはないし、特に何も起こらないし、単に道を歩いているだけの作品じゃないですか。でも、アニメーションでそれを作るということは、たとえ単に電車の中に座っている絵であっても、1つ1つ考えて描いて“決めた絵”にしているわけです。その“決めた絵”は、ことごとく日常芝居なわけです。そういう点では、実写の役者さんとリンクする部分があるのかもしれない。

 

【神木】おっしゃるとおりで、実写の役者は“作った日常”や“作った自然”を演じなければならないんです。しかも演じている役は、自分自身ではないわけです。タカキは普通に歩いて、ただ空を見上げているだけなのですが、だからこそ憧れますし、彼の生活の仕方、気持ちの持ち方を美しいと感じます。

『新海 誠Walker』神木隆之介が旅する新海 誠の世界 P.085より

 

 この箇所のみならず、監督ですら「考えたこともなかった」という劇中の演出・共通性などを何度も対談中で挙げており、本当に大好きで、本気で研究していることが伝わってくるんですよね。

 ただでさえ、「新海作品を監督と一緒に振り返る」というテーマだけでもファンとしては気になるのに、これだけ「そういう見方もあるのか!」と目からウロコの濃い話をされてしまったら……自分でまた、各作品を見返すしかなくなるじゃないですか! ファンに対しては改めて作品を観ることを促し、『君の名は。』から入った人には過去作品への興味を喚起する、最高に読みごたえのある対談でした。

 

 ほかにも、『雲のむこう、約束の場所』の原点である短編漫画『塔のむこう』や、過去作品の背景美術のカットを厳選して掲載したコンテンツもあり、徹頭徹尾、本当にボリュームたっぷりの一冊となっている、『新海誠Walker』

 同時期に発売された『君の名は。』公式ビジュアルガイドと比べると少しお値段は張りますが、過去作品を一挙掲載した保存版として、ファン必携のガイドブックと言えるのではないでしょうか。『君の名は。』を鑑賞した帰り道にでも、ぜひ探してみてくださいな。

 

 

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