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比嘉智康『たまらん!』は言葉遊びと多角関係がたまらんラノベ

 マンガでもアニメでもそうだけれど、第1巻あるいは第1話の時点で「これはこの先、絶対におもしろくなる!」と感じる作品と出会えたときの喜びは最高のものだと思うのです。続きを待つことができるわくわく感。……それが苦手な人もいるでしょうが。

 

 

 今回、そんな感じで久しぶりに「2巻発売前の1巻でハマった」のが、こちら。比嘉智康さんの『たまらん! メチャクチャな青春ラブコメに巻き込まれたけど、生まれてきてよかった。』でござる。タイトルなげえ。

 「たまらん!」という作品名からして、パッと見ただけでは「えぇ……?」と軽く引いてしまいかねない一面は間違いなくあるかと。――またハーレムか。男女割合2:8くらいか。相関図にすると主人公に矢印が一極集中しているやつか――みたいな。

 ところがどっこい。読んでみたら、それらのテンプレ的な予想は尽く打ち砕かれてしまったのでござった。なんじゃこりゃ……むちゃくちゃおもろいぞ!

 

「余命一週間」から始まるドタバタラブコメ

 悲壮感漂うプロローグからして、なかなかにぶっ飛んでいた。

 

 “たまらん”こと、主人公・玉木走太の独白で始まる物語。思いのほか地の文が多く、序盤はほぼ彼のひとり語りでストーリーが進行する。

 ――春休み、病院で余命一週間の申告を受けた。残りの生を3人の幼なじみと共に過ごすことにした。最終日、幼なじみたちが「プレゼント」として片思いの相手との時間を作ってくれた。終わりの日に最高の思い出を得ることができた。満足して逝けると思った。

 

 家に帰って、いつもの癖でとりあえずテレビをつけた。そこにはじゃんけんをするサザエさん。

『来週もまた見てくださいね』

 フグ田さん、俺余命一週間なんですよ。

 ヘタしたら、これが俺の人生で見る最後のサザエさんかと思ったら、チョキを出すサザエさんの姿に、なんだろう、泣けた。

 

 プロローグだけでもそこそこ長く、死へのカウントダウンという点からも「最初からクライマックス」な感じが甚だ強い冒頭部分。おお、たまらんよ。死んでしまうとはなにごとだ……。

 ――まあもちろん、死なないわけですが。
 ファンタジー要素はないようです、はい。

 つまるところ、「実は誤診でした☆」というオチ。「え? この『余命一週間』のくだり、必要なの?」 と思わなくもなかったけれど、このプロローグ部分に諸々の伏線と、その後の展開につながる心境の変化などが散りばめられており、読み終えたあとにはすっきり。なるほど、これはたまらん。

 

誰も幸せになれなさそうなゴチャゴチャ多角関係

 読み終えてみると、全体的に良い意味で「軽い」印象の作品でござった。

 

 しっかりとキャラ立ちした登場人物はみんな魅力的だし、会話の掛け合いも笑える。加えて、変に回りくどい説明やネタを盛り込むというよりは、純粋な「言葉遊び」で起伏を持たせている文章がすごく好み。うむ、これぞ“ライト”ノベルでござる。楽しい。

 ところが一方で、ストーリーとしては徹頭徹尾「賑やかラブコメディ」というわけにもならない予感。1巻時点で関係性の「重さ」は感じないものの、キャラクター配置と人間関係が今後の波乱を予感させるものとなっているのです。……こんなごちゃごちゃの多角関係、久しぶりに見た。

 

 先ほど「またハーレムか」なんて冒頭で書きましたが、そこで自分がイメージしていた「テンプレのラブコメ」に対して、本書は以下のような要素を持っておりました。

  1. ハーレム? ――いいえ、多角関係です。
  2. 女子ばっか? ――いいえ、メインキャラは男女半々です。
  3. 矢印一極集中? ――いいえ、ごちゃごちゃ過ぎて意味不明です。

 主人公・たまらんと、その片思いの相手。たまらんの幼なじみ3人と、後半で登場するもう1人のキーキャラクター。男3・女3の計6人がそれぞれ、別々の相手に片思いをしており、恋慕の矢印がわけのわからない状態になっているのです。……被っているのは、1人だけかな?

 

 そして、全てではないものの、その全体図をほぼほぼ把握しているのは、主人公のみ。1巻ではそんな6人のキャラクターの立ち位置をそれぞれのエピソードを挟んで説明したところで終わっているので、余計に続きが気になる。アレで打ち切りとかやめてください死んでしまいます。

 作品の導入部分である1巻が消化不良で終わっている点は、他の人の感想を見ても賛否両論となっている様子。たしかに「おあずけ」感が尋常じゃないんですよね……。それも含めて“たまらん”ってことか! ちくしょう! これも作者の術中のうちなのか……!

 

 自分としてはむしろ、最初の1冊で6人もの人物の「キャラ」をしっかりと立たせたうえで、違和感のないレベルで片思いの理由とごちゃごちゃ多角関係を描ききっている時点でびっくり。忘れっぽい自分が、1回読んだだけの本のキャラと名前を6人も覚えている……だと……!?

 まるまる1冊を舞台設定と人間関係の描写に費やしたと考えれば、続刊に対する期待値も高まろうというもの。一部ではなかなか2巻のアナウンスがないことから、絶望的な声も上がりつつあるようですが、そこをなんとか……! 個人的にも応援したいので、読んで読んで!

 

 ちなみにメインキャラクターは男女含めてみんな好きですが、特に“心臓の鼓動が高鳴るような少女マンガより、心臓の鼓動が止まるような格闘マンガを愛好する柔道娘”こと、幼なじみ女子の靜香ちゃんが好きです。

 小動物系パワフルボクっ娘とか最高か! 彼女にだけ他のキャラから矢印が伸びていないのは、きっと読者からの矢印を期待してのことでしょう! うん! そういうことにしておこう!

 

「いったいどこに落ちたんだ? ちゃんと受け身は取れたか?」

「恋に落ちたの。全然受け身は取れなかったよ」

 

 

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