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ぐるりみち。

日々日々、めぐって、遠まわり。

新入社員がビジネスの雰囲気を掴める本『まんがで身につく 孫子の兵法』

 

 普段は読むことのない本に手を出してみようと思い、『編集会議』2015年秋号で言及されていたこちらを読みました。経営コンサルタント・長尾一洋さんの著書『まんがで身につく 孫子の兵法』でござる。

 『100円コーラ』に『7つの習慣』など、マンガによるストーリー仕立てのビジネス書を書店で目にしない日はありません。一種の流行ですよね。この手の「マンガによる解説書」といえば思い出されるのは、投函されたDM……予定調和の物語展開……進研ゼm……うっ、頭が……。

 

 正直なところ、当初は「どうせ都合のいいストーリー展開で、『孫子の兵法』が魔法のようにすべての問題を解決しちゃうんだべ?」という穿った目線で読み始めたのですが(まあだいたいそのとおりだったんだけど)。意外とおすすめできそうな内容だったので、ご紹介。

 

 

まずは既視感をあえて楽しむ

 本作の主人公は、表紙にも描かれている27歳のゆるふわ女子、米倉舞ちゃん(かわいい)。のほほんとした表情に、左手にタブレット、右手にビッグサイズの握り飯を装備したそのビジュアルは、紛れもなく“腹ペコキャラ”の存在感……! というのは置いといて。

 

 そんな彼女、東京の大学を出て入社した企業でミスを犯し、異動した先の営業部でも理不尽な出来事に巻き込まれ、やむなく退職。地元のお米屋さんに転職し心機一転、これからがんばるぞい! ――というところまでがプロローグ。

 ネガティブ思考ながらも仕事に励んでいたところ、大口の取引先が潰れて、さあ大変。「我が社もやべえ!」と社長をはじめとする会社の仲間があたふたしていたところ、耳に馴染みのない言葉が聞こえてきた――!

 

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『まんがで身につく 孫子の兵法』【(C) あさ出版/Kazuhiro Nagao 2014】

 

 ――この展開、知ってる! 進研ゼミ(のDM)でやったところだ!

 

 というような感じで、主人公と会社に次々と襲いくる問題に対して、『孫子の兵法』の考え方を参考にしながら解決していこうという物語展開でござる。

 

 言うまでもなく『兵法』を解説するための書籍であるため、ストーリーはわかりやすいテンプレートとなっています。ただし、類似の“マンガDE解説本”にありがちな飛躍した解釈は見られず、思いのほか疑問を持たずにトントン拍子で読むことができました。

 他方ではぶっちゃけた話、この類いの本に関しては「胡散臭さ」や「都合の良さ」が悪目立ちしてしまう一面もあるので、人を選ぶ本ではあるとも思います。僕自身、途中までのテンプレ展開にニヤニヤしておりましたし。――これ、進研ゼm

 

会社経営と営業活動に触れられる、企業ストーリー

 物語展開や解説に関しては、良くも悪くもどこかで見たような既視感を覚えるテンプレート。

 しかし一方では、会社に振りかかる問題や出来事が「普通に実際の現場でもありそう」な事例となっており、読者の身近な話題として共感しながら読める構成になっているという印象を受けました。……人によっては、胃が痛くなりそうなくらい。

 

 商品開発にせよ、営業活動にせよ、他社との競争にせよ、「どっかでありそう」な話だからこそ、自然に読み進めることができる。その解決方法には『兵法』が用いられているわけですが、その解釈もうまく現代っぽく「翻訳」されているのでわかりやすい。

「営業の速きこと風の如く、傾聴すること山の如く、提案すること火の如く、値引かざること山の如し」

 ……一部だけを抜粋すると、ちょっとネタっぽくも読めますが。見方によっては、「当然のことを『兵法』に当てはめて語っているだけだ」という印象を受けなくもないものの、それがゆえに『兵法』の内容を学びやすくなっているとも言えます。

 

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『まんがで身につく 孫子の兵法』【(C) あさ出版/Kazuhiro Nagao 2014】

 

 巻末解説が充実しているのも特徴……というか、こちらが本編かもしれない。マンガの中でもそれぞれの『兵法』についての説明は出てくるけれど、ストーリー展開に合わせた説明となっているので。

 「孫子の兵法は現代文にそのまま訳すだけでは使えない」という発言も作中であったように、物語展開において限定された状況での「解釈」がひとつあり、巻末で筆者によって論じられているビジネスにおける「解釈」もひとつあり、決してひとつの意味に断定していないんですよね。

 

 なればこそ、本書は『孫子の兵法』の入門書として理想的な立ち位置にあり、おすすめできる一冊なのではないかと。

 身近にも感じる物語中での「解釈」を導入として、筆者が示す「ビジネスにおける兵法」を参考に、最終的には読者自身が「翻訳」する余地が残されている。実際に『兵法』を読むに至れば最善。でも必ずしもそうする必要もなく、自分なりに仕事の場で生かせれば万々歳。

 

 実際問題、メーカーで営業として働いていた過去の自分が読んだら、間違いなく影響されてましたもん。なんとなーく環境が似ていなくもないし、自分では自信のなかった営業手法がしっかりと言語化されているし。孫氏先生にひれ伏していたはず。

 そういう意味でも僕としては、右も左もわからないまま社会に出る前の学生、もしくは社会人1年目サラリーマンにおすすめしたい一冊でございます。営業活動に活かせるかどうかは置いといて、「社会人の初心者」が企業活動の雰囲気を知るには最適かと。

 

 ――って書くとますます、高校入学前の中学3年生に送られてくるベネッセの封筒っぽいっすね。わかりやすさ重視の『孫氏の兵法』入門書として、これ以上にない出来だと言えるのではないかしら。

 

 

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