ぐるりみち。

日々日々、めぐって、遠まわり。

『文中の(  )にあてはまる文字を入れなさい』

 

 タイトルと表紙イラストに釣られて、気づけばポチっておりました。仮想出版社「隙間社」さんによる電子書籍第2弾『文中の(  )にあてはまる文字を入れなさい』(著:弍杏(@kyouko_chang)さん)。

 

 Amazonの商品ページの内容紹介からしてやたらとハイテンションだけれど、案の定、本文も疾走感がとんでもなかった。

 「移動中に読むかー」と電車の中でKindleを起動し、あれよあれよという間に物語は疾風迅雷に光陰矢のごとき展開。池袋を通り過ぎ、果ては山の手・西日暮里にて、秋の日は釣瓶落とし。摩訶不思議な心持ちのまま、あっという間に読み終わってしまいまして候。ごっそさんでした。

 

 

ら・ら・らにハイテンションなボーイミーツガー……?

 ききき緊張で足がガクガク震えています。高校生の頃はよくふざけて両足をプルプルさせて「生まれたての子鹿!」とかやってたけれど、まさか大学生にもなってリアルバンビちゃんになる日が来ようとは。 

 

 いざ読まん、と本書を開いて、一行目からこれでござる。語り部はとある大学生の“少女”。さあさあバンドだ! ボーカルだ! どんな青春模様が始まるんだ! ……と思いきや、続く章で挿入されるのは、まったく無関係と思しき漫画家志望の“少年”視点。

 あーいるわーマジこんな大学生いるわー“宝くじ”云々とか心当たりありすぎてつれーわー……という生活模様が描写され、「よしわかった!ぜんぜん関係ないと思われる2人の視点がやがて交錯し収束していく展開ですね!」……と思いきや、気づいたら“少女”が摩訶不思議空間に行ってた。なんじゃこれ。

 

「困ったことになったね」

「え?」

 びっくりして声が聞こえた方を見てみると、そこには女の子の胸の高さくらいの身長の奇妙な生き物が立っていました。大きなつるりとした顔に直接手と足がはえているオバQのような生き物です。

「困ってるんだろう?」

 

 「いったいなにがはじまるんです!?」とツッコまんばかりの超展開。途端に結末がまったく読めなくなったにも関わらず、遠慮なくテンポよく進んでいく、ふたつのストーリー。――いやはや、こんなにさっくりすっきり読める素敵作品に出会えて、ぼかぁ幸せです。

 

 正直なところ、序盤の文章のハイテンションっぷりを苦手と感じる人も、中にはいるかもしれません。だけど、それも読んでいるうちに気にならなくなってくるというか、言い回しの小気味よさとリズム感に、“乗らざるをえなく”なってくる感じ

 物語の先行きも気になるものの、とにもかくにも文章を追いかけるのが楽しい。というか、はっきり言って、サミーちゃんかわいい*1。文体もテンションもまったく別のはずなのに、『夜は短し歩けよ乙女』*2の“黒髪の乙女”をふと思い出しました。

 

“文中の(  )”の在り処

 そのような、独特の疾走感と不可思議感を発揮する本作でございますが、結末もまた、わかるようでわからない。

 「こういうことなんだぜ」というのは文中で示唆・説明されてはいるものの、ではそこに示された “(  )” とはいったいなんぞや? と問われれば、はっきりと言語化するのが難しく思われました。 “(  )”の中身というより、“書名の意味”として考えると、しっくりくる感じではあるようにも*3

 

 一口に言えば、広く「物語好き」な人にオススメできる小説である、といった感想です。なんやかんやで交わっていくふたつの物語はおもしろいし、挿入される“異世界”の設定も個人的にはすんごい好み。あと、サミーちゃんかわいい。

 文量に関しても、本を読むのが早い人なら30分ちょっと、じっくり読む人でも、おそらく1時間前後くらいで読みきれるボリュームなのではないかしら。ちょっとしたスキマ時間に、あるいは移動時間にでも、さっくり読むのにオススメしたい一冊です。ごちそうさまでした。

 

 

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*1:※“少女”あるいは“女の子”、あるいは……。

*2:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』角川文庫

*3:地味に人称が変わっていることに途中で気づいた。