ぐるりみち。

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『心が叫びたがってるんだ。』思春期の“言葉にできない本音”の行き先

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映画『心が叫びたがってるんだ。』

 

 映画『心が叫びたがってるんだ。』を観てきました。あれこれ感じたこと、考えたことはあるけれど、一口に言えば「最高か!」の一言でござる。

 「言葉」云々というテーマからして自分の大好物なのに、そこにドロドロ&さっぱりが程よくミックスされた“学園青春モノ”という舞台を用意したら……。そりゃもう、終始ニヤニヤせざるをえない。順ちゃんもかわいいし。水瀬いのりさんの本領発揮。

 

 『あの花』のメインスタッフによる新作ということで、「どうせお涙頂戴なんだろ!(わくわく)」と、“泣ける物語”を期待して観に行く人も中にはいるのではないかしら。この点は、周囲の反応を見るかぎりでは微妙なところ。肩透かしを食らうかもしれません。

 そういった点や、青春モノならではの“青臭さ”を鑑みても、明らかに好みが分かれる作品ではあるものの、長井龍雪監督の過去作品が好きな人は等しく楽しめそうな物語。小説家なら重松清さんや森絵都さん、ラノベなら『とらドラ!』や『ココロコネクト』が好きな層に刺さりそう。

 

 というわけで、ざっくりと感想をまとめました。ネタバレはしていない……はず。

 

 

“玉子”によって“声”を封じられた少女

 

 物語の中核をなす登場人物は、4人の男女。言葉を発することができなくなった女の子と、寡黙で本音をさらけ出すのが苦手な男の子。それに、チア部部長で優等生タイプの女子に、肘を壊した野球部エースの男子。デコボコに見えて、みんなどこかネガティブ。

 担任教師の一存によって、地域交流会の実行委員に指名された4人。双方に交流もなく、ぎくしゃくとした仲のまま出し物も決まらず、それとなく流してしまおうかというところに「ミュージカル」の話が持ち上がる。クラスの雰囲気も悪い中、喋れない少女・順が“声”をあげたことで、物語が動き出す――といった流れ。

 

 順の声が奪われたエピソードに関しては、冒頭でさっくりと描かれております。無垢な子供ゆえの無邪気さから、大人の不義を暴いてしまうという不幸。

 そこで登場する“玉子”も含め、コミカルに描写されてはいるけれど、あからさまに胡散臭い。この“玉子の王子”、第一印象は「かわいい!でも声はイケメン!」だったのに、二言目には「あ、これアカンやつや」ですもん。某QB先輩を彷彿とさせるセールストークでござった。わけがわからないよ!

 

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 序盤から中盤にかけては思いのほか淡々と、大きな波もないままにストーリーが進行していく形。出し物がミュージカルに決まり、その話し合いの過程でキャラクター各々の“傷”が示されつつも、具体的な解決は見ずに時間が経過していくような。

 言い換えれば、それだけ“唐突さを感じない”物語展開だった、とも。順が周囲の人間と関わり、仲を深めていく様子も丁寧に描かれていたように見えるし、「喋るとお腹が痛くなる」という“呪い”の存在も、場面の移り変わりと自然な展開に一役買っていたような印象を受けました。

 

 だからこそ、終盤のミュージカルシーンも盛り上がろうというもの。過剰な演出はないけれど、それまでの積み重ねと劇伴の曲調の変化によって、じわじわと響いてきた。この点は、下記インタビュー記事、NON STYLEの井上さんの話に全力で同意です。

 

「あの花」の音楽は強めの右ストレートだったと思うんですよ(笑)。「やばい泣きそう」と思った時にZONEの「secret base ~君がくれたもの~」が流れたら、そりゃ泣いちゃうじゃないですか。でも「ここさけ」はもっとジャブ的な感じで、最後まで効果的に音楽が流れていて、ラストにそれが一気に効いてくる感じでしたね。

NON STYLE井上裕介が語る「心が叫びたがってるんだ。」 新しくて懐かしい青春映画の魅力に“超ポジティブ芸人”が迫る (2/3) - 映画ナタリー Power Push

 

 各々が閉じ込めてきた感情を吐露するシーンでは、「声優ってすげえ!」とビリビリくる感じ。王道の青春群像劇でありながら、予定調和では終わらせないキャラクターの感情の変遷と、想いの行き先から目が離せない。いいぞ、もっとやれ。

 

言わない本音と、言えない本音と、言葉にできない言葉

 この『ここさけ』では、“「言葉」の伝え方”について劇中で何度も問われているように感じました。あえて口にしない言葉と、口にできなかった言葉、自分でもよくわからない本音の存在に、“話す”以外の行為によって伝わる言葉と感情。などなど。

 

 それらを「思春期特有のモヤモヤと葛藤」と片付けてしまうのは簡単だ。けれど、何歳になろうと「言葉」を媒介に他者とコミュニケーションを取らなければならない以上、この文字どおりの命題を避けて通ることはできない。いつだって付いて回るものでござる。

 言葉によって伝えられる情報・感情が語り手と聞き手によって異なるのはもちろん、そこで「語られなかった言葉」や「言語化できなかった感情」まで考慮しようとすれば、それこそもう、わけがわからない。本作では、その「言葉」をなるべくしっかりと語るようにしつつ、同時に「あえて語らなかった言葉」を残し意識させるような演出がされているように見えました。これはずるい。

 

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 そんな言葉を発することができない順は、普段はメールやメモを使って、そしてミュージカルでは「歌」に乗せて感情を伝えようとする。それは喋れないという“呪い”のせいもあるのだけれど、それぞれ言葉の伝え方によって口調(文体)が変わるのもおもしろい。

 「歌」によって伝わる感情もある一方で、目を見て話すことでしか伝えられないこともある。そして、そういった伝え方――“玉子の殻の破り方”は、人によっても異なる。口下手で人見知りな自分に置き換えるなら、こうして文章を書くことで「言葉にできない言葉」を言語化する作業があり、それに当てはまるんじゃないかと思ってます。

 

 本作の主人公と言っても過言ではない彼女、順に関しては、もともと活発な性格だったこともあり、喋れないだけで感情表現は素直。これがね……もうね……さいっこうにかわいくて、たまらんのですよ。

 「無理に喋ろうとするけれど喋れない部分の行間を埋める」という水瀬いのりさんの演技もすごいのですが、そうした苦悶とは真逆の、嬉しさを表すときの息遣いやら何やらが映像の小動物っぽさとシンクロして、もうね……もうね……。なんだこのかわいいいきもの。

 

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 ――とまあ、あれこれ語ろうとすると「順ちゃんかわいいいいいい!水瀬いのりさん、最高です!!」とかキモい方向に感想が向かいそうなので、ぜひ続きは劇場で! 歌もうまくてびっくり。先日、某アニメで「愛などわからぬ!」と歌っていたのと同じ人だとは……*1

 音楽面では、クラムボンのミトさんと、アニメ『四月は君の嘘』などでおなじみの横山克さんが担当していたり、劇中歌には有名クラシックや民謡、ミュージカル映画の楽曲が使われていたりもするので、耳でも楽しめる作品でござる。サントラ、買います。パンフレットは買った。

 

 冒頭に挙げた作品が好きな人には、全力でおすすめできる本作品。何度も繰り返し見返したい、素敵な青春モノでした。ブルーレイ、買おう。

 

 

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