著作権を勉強したい人のための入門書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。』


 鷹野凌@ryou_takanoさんの著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。』を読みました。思っていた以上に簡潔明瞭な内容となっており、途中引っかかることもなく読み進め、さっくりと読了。

 一口に言えば、「著作権を基本の “き” の字から再確認できる本」。おそらく中学・高校生でもスイスイと読むことのできる書き口で、「初歩中の初歩すぎて、恥ずかしくて聞けない!」という部分から、非常にわかりやすく説明されています。すんごい読みやすかったです。

「著作権」を知るための、はじめの一歩

 本書の構成は、「弁護士の先生」に対して著作権の何たるかを質問し答えてもらうという、会話調の展開となっております。ゆえに、むちゃくちゃ読みやすい。受け答えの中でちょいちょいネタが挿入される点は、読んでいて好みの分かれる部分かもしれませんが。

 かと言って、最初っから最後まで延々と会話が続くでもなく、解説中にはしっかりと著作権法の条文が引用されていますし、章と章の間にはコラムや1Pマンガなども挿入されています。少なくとも、読み進めていて「飽きる」ということはないでしょう。

 本文も、第1章第1節が「そもそも著作権ってなんだろう」から始まっており、順々に「著作権」の内容と関連する事柄を紐解いていく展開となっています。中高生でもわかる、著作権のハナシ。

 ひとつひとつの話題について具体例や裁判の判例を例示し――というわけにはいきませんが、まずは広い意味での「著作権」を知ってもらうための1冊となっているように感じました。特にクリエイターやインターネットと絡めた話題も多く、そちらの層向けでもあるかと。

 逆を言えば、過去にふんわりとでも「著作権」を学んだことのある人にとっては、既知の内容が多いかもしれません。ただ、他方では2015年の最新事情やネットの話題とも紐付けているため、読んでまったくの無駄ということにはならないと思います。

 というのも僕自身、そこまで真面目に受けたつもりもない、大学の講義で聞いた記憶のある話題が多かったので。知識を再確認する意味での「復習」にはなりましたが、やはり判例・実例の類が少ないため、読んでいて若干の物足りなさを感じたのは事実です。

 そうした点から、「これから『著作権』を学ぶ人のための最初の入門書」としては、最適と言っても過言ではない本なのではないかと思います。おすすめ。

ネットコンテンツ・同人界隈の最新事情も

 一方では、「復習」としての物足りなさを補完するような意味でも興味深く読むことができたのが、インターネットやクリエイターの周辺で見られる、著作権に関連する最新の話題について。

 大学の講義、あるいは少し前の解説本の場合、やはりどうしても昨今のインターネットの権利事情を知るには適していないため、それらにまでしっかりと言及している本書は為になります。――普段からネットウォッチをしている人なら、この辺も断片的には知っているかも。

「実際のところ、映画の著作物だけが特別扱いなのは、映画がフィルムで配給されていたアナログ時代のなごりです。今はデジタルシネマが主流になっていますから、実態と法律が合わなくなってきているのは確かです。頒布権はそろそろ見直すべきなのかもしれません」

「YouTubeが面白いのは、無許諾動画を自動検出して権利者に連絡し、削除するか、広告を載せて収益を得るかを選べるようにしている点です。無許諾動画への広告によって、7年間で10億ドルの収益を権利者にもたらしているそうです」

 現代の著作物を取り巻く事情が、過去に作られた「著作権法」とは適さなくなってきている点にまで触れられている点。

 他には、非公式から公式になったファンサブ投稿サイト*1、ワンダーフェスティバルの当日版権システム*2、TPPによって懸念される影響などなど、「そういうのもあるのか!」と初めて目にする話題もあったため、読んでいておもしろかったです。

 なので前述のような「入門書」としてのみならず、書名のとおり “クリエイター” さんはもちろんのこと、最近たびたび取り沙汰される「無断転載」に関する基本的な考え方も学べるという点から、ネット上で情報発信をしている多くの人に勧められる一冊とも言えそうです。

 まずはこちらを読んでみて、次に他の関連書籍に手を拡げていくのが確実かなー、と。本書の監修にも携わっている弁護士・福井健策さんも何冊もの著書を出版されているので、そちらと合わせて読むのもいいかもしれないですね*3

 

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