ぐるりみち。

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人の心を動かす『「売り言葉」と「買い言葉」』を考える

 最近、ネット上で話題となる言説や、量産されまくっているウェブメディアの記事を読んでいると、「ことば」があまりに軽視されているような文章をたまーに目にしてモヤモヤする。

 

 新たに出てきた単語の定義を明らかにしないまま、自分の印象だけで決めつけてそれ以外は認めない人だとか。

 ある発言や文章に対して、ほんの一部分だけを切り抜き過大解釈して、読者の感情を煽るだけ煽って反応を集めるサイトだとか。

 

 かたや言葉を権威のように捉えて自分の都合の良いように解釈し、他者と意味合いを共有する気のない自己完結。

 かたや数字こそが正義だと言わんばかりに一方的にレッテルを貼り、周囲にはお構いなしに言葉を乱用するディスコミュニケーション。

 

 そういった様子を見ていると、コミュニケーションのいち手段として使われているはずの「ことば」であるにも関わらず、その方向性がちょっとズレているんじゃないか、と。

 自分さえよければ、話題になりさえすれば良いのかしらん……とモヤモヤしていたところに、コピーライターの方が書いた本を読みました。

 

 

 

「ことば」を介して“行動をうながす”ためには

 本書『「売り言葉」と「買い言葉」心を動かすコピーの発想』の著者は、コピーライターの岡本欣也*1さん。有名どころとしては、JTの「大人たばこ養成講座」シリーズのコピーを生み出している方ですね。これは僕も知ってる。

 

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岡本欣也『「売り言葉」と「買い言葉」 心を動かすコピーの発想』(NHK出版)

 

 本文で紹介されているのは、著者の作品を含めた200以上にも及ぶコピーの実例。かなり昔のキャッチコピーも取り上げられており、人によっては懐かしさすら覚えるものかもしれない。糸井重里*2さんくらいしか知らない自分は、楽しんで読むことができました。

 もちろん「コピーの紹介」はコンテンツの一部に過ぎず、本書のメインテーマとなるのは、書名にもなっている“「売り言葉」と「買い言葉」”。実際のコピーを「売り言葉」と「買い言葉」に分類し、その言葉の性質や込められた思いを読み取っていく内容となっております。

 

 情報を正確に伝えるだけでは、コピーライターの仕事としては不十分なのです。伝えることを通じて、動かす。それが、僕らに求められていることです。つまり、コピーライターとは、言葉で人を動かす仕事とも言えるのです。

 でも、これはコピーライターに限った話ではありません。人が何かを伝えようとしたとき、その根底には相手の気持ちを動かしたい、そして行動をうながしたいという目的がある場合がほとんどではないでしょうか。

 

 普段から当たり前に使っている「ことば」を再考し、より正確に自分の考えを伝えるための考え方。しかし、それだけではまだ不十分。伝え、伝わり、最終的に相手を“動かす”段階にまで至ってこそ、その「ことば」の力が発揮されたことになる、と。

 話題となっているのは「コピー」ではありますが、本書で示されているのは、広く“行動をうながす言葉”の発想と視点。長文は言うに及ばず、日常的な会話などの対面コミュニケーションにも応用できる内容だと言えそうです。

 

「売り言葉」と「買い言葉」

 では、「売り言葉」「買い言葉」とは具体的にどのようなものを指すのかと言えば、一言でまとめると以下のような表現を指すらしい。

 

  • 売り言葉……売り手の目線で書かれたコピー
  • 買い言葉……買い手の目線で書かれたコピー

 

 「売り言葉」はわかりやすい。文中に企業名や商品名が入っていることも多く、誰の目から見ても、それが何の広告であるかが明らかであるコピー。“チョコレートは明治”だし、“セブン-イレブンいい気分”ですよ、と。イラストや写真がなくとも、字面で伝わる文言。

 一方、「買い言葉」は目にしただけでは何を示しているのかわからないこともしばしば。“きれいなおねえさんは、好きですか。”と聞いただけじゃ「はいっ!!」と元気よく答えるくらいしかできないし、“最後の一撃は、せつない。”を知るのは実際にプレイした後である。

 

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きれいなおねえさん - Wikipedia

 

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最後の一撃は、せつない。とは - ニコニコ大百科

 

「売り言葉」とは、言わば「黒子」のようなもの。商品そのもののニュースを前面に出すために、裏方に徹します。「買い言葉」とは、言わば「主演」を演じるようなもの。商品自体に際立ったニュースがないとき、余裕を感じさせたいときに、広告が前に出ることでニュースや話題をつくろうとする。

 

 「売り言葉」がパッと見のわかりやすさと、端的な文章でありったけの情報を伝えることに注力している一方で、「買い言葉」はそれ自体が感動を訴えかけるべく機能し、それによって具体的な行動をうながすことを目的にしている。

 加えて、前者が他の商品との「違い」を強調する効果があるのとは反対に、後者は消費者と「同じ」であるという共感を呼び起こすような構造になっているという指摘も。同じ「コピー」であり、同じ「ことば」を使っているにも関わらず、性質も効果も真逆であるのは面白い。

 

なぜたくさん考えなくてはいけないのかと言うと、言葉には正解がないからです。強いて言えば、商品がたくさん売れたとか、多くの人に知ってもらえたとか、そういうものが正解だと言えるかもしれません。でもそれは結果論にすぎません。事前に効果がわからない以上、あらゆる可能性を考え、ひとつひとつ検討をしていくしかない。おそらくそれが正解に近づくための、たったひとつの道だと僕は思います。

 

 「ことば」の力でもって大勢を動かそうとするのは、冒頭に挙げたレッテル貼りをしているようなサイトの場合でも、本質的には同じなのかもしれない。たとえ決めつけだろうと、「ことば」を取捨選択し、人を動かしていることには変わりがないので。

 でもやっぱり、普段から当たり前に使っている「ことば」だからこそ、その扱い方には気を配りたいし、大切に選び選び、遊び遊び使っていきたいと思う。その点、コピーライターの方々はどう考えているのか、ちょっと聞いてみたいなー、とも思いました。

 

 本文中では、「売り言葉」と「買い言葉」の特製と考え方について、さらにそれぞれ実例と合わせて紹介していく流れになっており、言葉遊びを楽しみながら「コピー」の基本を学べるような内容となっております。

 短い「コピー」だからこそ奥が深く、「ことば」を考えるにあたっては基本となる視点を説明しているとも言える本書。文量としてはかなり少なめで、さっくりと読める一冊となっていますので、改めて「ことば」を意識するにあたっての導入としていかがでしょうか。

 

 

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