ぐるりみち。

平成生まれのフリーライターのブログ。本・映画・マンガ・アニメの各種レビューに、旅行・グルメ・街歩き日記など。

「新しい生き方」を否定し複数の選択肢を考慮する〜おすすめ本を添えて

 ノマド礼賛。フリーランス万歳。会社員とは別の「自由な働き方で楽しく生きよう!」という言説が活発になったのは、いつ頃だったかしら。少なくとも自分が大学生として過ごしていた2010年前後には、ウェブ上では既に耳馴染みのある論調となっていたのではないかと思う。

 とは言え、「じゃあ就職活動しない!」なんて盲信して飛びつくような人はほとんどおらず、「そういうすごい人もいるんだー、いいなー」といった程々の憧れと、「なんか怪しい……」という胡散臭さが同居していたような印象が強い。“そういうのもあるのか”、程度の他人事。

 

 書店にもその手の本が並ぶようになり、手にすれば“意識高い系”と揶揄されつつも水面下では注目を集めていた、それらの主張。同時期にいわゆる「ブラック企業」批判の言説がメディアで活発化していたことを考えれば、それはある種のカウンターとして提示されていたものであったようにも思う。

 

 過労死や企業体質の問題が大きく取り上げられるようになったことで、「じゃあこんなのはどう?」と示されることになった、ひとつの対案。それが、ノマドやらアフィリエイトやらプロブロガーといった、「新しい働き方」だったのではないかしら。

 

 そんな「働き方」について、考えたことをば。

 

 

「自由な新しい働き方」なんて存在しない

 ノマドにせよ、フリーランスにせよ、一般的な会社員とは別の「働き方」を記した本は書店に行けば数多く目に入る。この手の書籍に限ったものではないが、その中にはセンセーショナルな表現を駆使した、煽り調のタイトルも少なくない。

 当時の僕自身、やたらと煽る書名やブログ記事に胡散臭さを感じることは少なくなく、やれ自由だー、縛られないだー、サラリーマン死すべしーと鋭い言葉を飛ばす人たちにドン引きしていた1人です。そっかー、どうせたまたまうまくいっただけなんでしょー、良かったねー、と。

 

 しかし、実際にページを捲ってみれば、「会社員はクソだ!」なんて大声で極論を喚いているような本はむしろ少数派。そもそも著者にだって会社員を経験して独立した人は多いので、利点欠点の比較は冷静にしているように読める。……もちろん、中にはよっぽど会社に恨みがあるのか、全否定している人もいなくはないのでしょうが。

 

 それらの本の中で提案されているのは、あくまで「選択肢」に過ぎないものだと読める。人間、誰だって、合う・合わないがあって当たり前。企業、業種、職場などの環境要因だけでなく、根本的に「会社員」という働き方が合わない人がいたっておかしくない。

 そんな人たちに対して「こんな働き方もあるんですよ」と示しているのが、いわゆる“新しい働き方”の類の本なんじゃないかしら。会社員として、その企業で働き続けることに疑問や違和感を覚えている人に向けて一例を提案しているに過ぎず、「とっとと辞めろ」と直接的に唆している本は少ないのでは*1

 

 フリーランスだろうが、アフィリエイターだろうが、プロブロガーだろうが、それは別に“自由”でもなければ、決して“新しい”働き方でもない。言ってしまえば個人事業主。社会人の大多数を占める「会社員」とは別の、働き方の「選択肢」のひとつでしかないのです。

 

『脱社畜の働き方』

 “脱社畜”という表現のせいか、パッと見では「会社員なんて辞めちまえ!」系の本にも見える本書。一口で言えば「会社の中でうまくやろう」という、企業の理不尽に対する考え方を示した内容です*2

 

複数の「選択肢」を考慮することの重要性

 終身雇用制の崩壊が叫ばれ、僕らの世代は年金がもらえるかも怪しいと報道される中。ひとつの会社に留まり続けるのでない、複数の「選択肢」を持つことの重要性を説いた記事や本は、たびたび目にするものだ。“いざという時”のための、保険として。

 

 でもそれ以前の問題として、いろいろな場所で人間関係を持ったり、週末の趣味として楽しんだりするなど、普通に生きていく上でもそのような「選択肢」は大切なものだと思う。自分の所属する会社、一箇所に閉じこもり続けるのは、怖い。

 

 業種や企業によっても異なるとは思うけれど、「会社」という組織・環境は、小学校の教室並みに閉鎖性の高い場所であるように見える。基本的に日中の活動はその空間内で完結し、時には休日もイベントなどで拘束されるような形。

 縛られるのは物質的な部分だけではない。異動はあっても、年単位で人間関係が固定化されることの珍しくない環境において、不和が生じたときのリスクは底知れない。いじめ、無茶苦茶な指示、ちょっとした失敗などで一瞬にして居心地が悪くなり、場合によってはそれがずっと続く。そうなってしまえば、もはや地獄でしかない。

 

 そういう意味で、「退職」という決断まで行き着かなくても、職場外でストレスを発散できる趣味や、愚痴を吐き出し悩みを相談できる人間関係は重要になってくる。それらも等しく、会社の外の「選択肢」と言えるのではないかしら。

 一方、たとえ一人であっても、本を読むことで他者の考えをを知ったり別の世界に浸ったりすることはできるし、今はSNSで見知らぬ他人とつながり交流することだってできる。……あ、でもネットは怖い人が多いから、ほどほどにねっ☆*3

 

『ちょっと今から仕事やめてくる』

 入社一年目の主人公が、日々の忙しさと上司の叱責によって自分の無力さを思い知らされ、身投げしようとしたところを胡散臭い関西人に救われる話。「選択肢」としての「つながり」の重要性、視野狭窄の恐ろしさを教えてくれる作品です。【感想記事リンク

 

「選択肢」を知る余裕もない“働きすぎ”の社会

 それら「選択肢」を示してくれる本は、熟読と共に自ら考え理解することを必要とされる古典とは異なり、端的に知識や可能性を提示してくれる、知らせてくれる書物と言える。

 ゆえに、社会の現状や日本の労働環境について問題提起するまで文量を割くのは難しく、著者個人の「一人語り」あるいは「一般論」に終始してしまうのも仕方ないように思える。読む側も書く側も、そこまでの余裕はないのではないかと。

 

 断片的とは言え、ある読者自身の過ごす生活圏とは別の「選択肢」を教えてくれる本の存在は――読んだことで何らかの行動を喚起するかどうかは置いといて――、決して無益なものではないと思う。

 たとえ自分とは無縁の世界の、見知らぬ他人の主張であっても、そうやって生活している人の存在を知ることで、いざという時の行動の理由付けにはなるはずだ。その著者が特に権威的な肩書きを持っていない、“フツーの人”であればなお良い。自分と大差ない立場の人間の考えは、共感を呼び起こしやすいはずなので*4

 

 ところが一方、大前提として、そのような本を読む時間――本に限らず、「選択肢」を知る機会も余裕もなく仕事に忙殺されている人が、決して少数派としてではなく存在している点は大問題だとも思う。

 若者の時間を奪い、「やりがい」と称して金銭以上の働きを要求し、犠牲者が出ようとも労働環境の改善や意識改革を行おうともしない悪質な企業の存在。それによって社員は自分のプライベートな時間すらろくに持てず、社外の友人と話をする機会もなく、ただただ忠実な歯車として日々を過ごすのみ。

 

 そんな状態では他の可能性など知る由もなく、先ほどの『ちょっと今から仕事やめてくる』の主人公じゃないけれど、“社畜か死か”という極端な二択に迫られてしまっても不思議ではない。そこまで視野狭窄に陥ってしまえば、周囲からの働きかけによってしか選択肢を示すことはできないとも思う。

 

 つまり、どれだけ誰かが「こういう働き方もあるよ!」と本を書いて示そうと、個人のブログで「無職になったけど何とかなってるよ!」と投稿しようとも、それを他の誰よりも伝えたい層には届かない、届きづらいんじゃないかと、最近思うようになった。

 

 けれど、そうやって個人が自分の経験を記して残すことが、全く無意味だとも思えない。仕事の経験談、失敗談、当時の精神状態をまとめた文章を読んだ人が、身近な友人の共通点から危険な兆候に気付くかもしれない。本で読んだ知識が、ちょっとした助言につながるかもしれない。

 そう考えると、特別な肩書きや権威を持たない個人がブログでその経験や考えを書くことも、あながち無意義ではないんじゃないかと思います。実際、僕自身もメールで相談を受ける機会が何度かありましたし、お会いして話してみると、意外と読んでもらえているようなので。

 

 時には誹謗中傷あり、受け入れざるをえない真っ当な批判ありと躊躇うこともあるけれど、個人がブログで書く分には自由だし、意外と顕在化しない一般人が示す「選択肢」として、ニッチながらも需要のある記録となり得るものなんじゃないかしら。

 だから、個人的にはそういった十人十色の「経験」を読んでみたいし、それらを示す活動自体は何ら否定されるものじゃないと思う。もちろん、いたずらに退職を唆すような言説には反対だし、批判は甘んじて受けるべきだとも思いますが。

 

『若者を殺し続けるブラック企業の構造』

 「べき論」に終始せず、先行研究や既出の言説から、あくまで客観的に「ブラック企業」の構造を紐解いた内容。問題点を項目・視点ごとに整理し、改善策も提示している親切な構成。現代日本における労働問題の入門書として、おすすめの一冊です。【感想記事リンク

 

『大卒だって無職になる』

 若者の就職支援に携わるNPO法人の理事長さんによる著書。大卒で無職になった若者の退職理由や悩みを、活動の中で経験した実例と共に取り上げている。まさしく“フツーの若者”の体験談を記した内容とも言えるので、退職を悩んでいる人の参考になるのではないでしょうか。【感想記事リンク

 

『レールの外ってこんな景色』

 手前味噌で失礼します。半年前に参加させていただいた共著でございます。「レールの外」というタイトルになっているものの、執筆陣の共通点は「ブロガー」であることのみ。会社員、学生、無職とさまざまなので*5、“フツーの若者”のいち意見として読んでいただければ。

 

トピック「新社会人」について

 

関連記事

*1:全部を読んだわけじゃないので、そうとは言い切れませんが。

*2:Amazonの低評価レビューを見ると、読まずに脊髄反射的に批判しているっぽい人が散見されるような……。

*3:毎日何時間もネットに張り付いている人の言。

*4:かと言って、安易に退職・独立に結びつけてしまうのは怖くもあります。

*5:当時とは肩書きの変わっている人が多いのもおもしろい。