ぐるりみち。

平成生まれのフリーライターのブログ。本・映画・マンガ・アニメの各種レビューに、旅行・グルメ・街歩き日記など。

『電子書籍で1000万円儲かる方法』クリエイターとしてこの先生きのこるには

 

 鈴木みそ*1さんと、小沢高広*2さん。

 

 コンテンツとしての「電子書籍」に関心を持っており、このお二方を知っている人も多いのではないかしら。

 2人とも、日本国内では早い段階で「電子書籍」による作品発表に取り組んだ漫画家さん。一般的にはまだあまり知られていない“中堅マンガ家”だと自称されているものの、電子書籍での地位は既に不動のものかと。

 

 そんなお二人の共著『電子書籍で1000万円儲かる方法』を読みました。マンガ業界の今昔に始まり、現代の出版社が抱える問題点、“マンガ”を電子書籍化させることの意義、ネットでクリエイターとして成功するには、などなど、対談形式で様々な話題が取り上げられています。

 

 多方面から「コンテンツ」に関する問題提起がされており、広い意味での創作に携わっているクリエイターの方々におすすめできる内容であるように読めました。

 もちろん、「電子書籍」ということで「ネット」との関わりも指摘されており、「ブロガー」もその「クリエイター」の範疇に入るんじゃないかしら。おもしろかった。

 

 

暗黒のマンガ業界でこの先生きのこるには

“マンガだけ描いて飯が食えて、出版社といい関係ができてればそれでオッケー”
“書店営業をすることに対しても、昔はいい顔をされなかった”
“ストーリーラインや内容に深く関わるタイプの編集者は、出版社から独立したほうがいい”

 

 「マンガ業界はとんでもなくブラックだ!」
 「出版社も旧態依然としていて既に死に体」
 「これからはクリエイターが“個人”として稼いでいく必要があるのでは?」

 

 そのように問題提起しているのが、主に第2章までの内容。マンガ家や出版業界の仕事内容なんて、それこそ『バクマン。』*3などの創作作品でしか知らなかった僕からすれば、「あ、でもやっぱりキツいしヤバいんだ」といったある種の得心をもたらしてくれるものでした。

 

小沢 話を聞いてみると、みそさんの出発点って〝セルフプロデュース〟というよりも〝サバイバル〟ですよね。自分をどのように売り込むか、ではなく、どうやって生き残っていこうかという戦略を立てたってことじゃないですか。

鈴木 うん。セルフプロデュースなんて、カッコいいもんじゃなかったな。

 

 本書を読み始めて数ページ目でこのようなやり取りがあります。この後は割と話題があっちゃこっちゃ行ったり来たりする内容にはなっているものの、読み終えてみれば一冊を通してのテーマとしてこの部分が際立っているように感じました。

 すなわち、“サバイバル”。デジタルでもアナログでも多彩なコンテンツで溢れかえり、その消費速度も速くなっている現代において、クリエイターがこの先生きのこるための考え方

 クリエイター側の視点から「電子書籍」や「マンガ」について語られている言説にはあまり触れたことがなかったので、非常に刺激的かつ示唆的な内容として興味深く読めました。

 

「1000人の村」で生きていく

 中でも面白かったのが、鈴木さんの「1000人の村説」の話。

鈴木 「1000人の村説」っていうのは、自分と同じ考えをもっている人が、世界中を探せば1000人くらいはいるだろうな、っていう考え方。その人たちに向けて発信することができるような場所を作れば、濃く長く、作家活動を続けることができるんじゃないかと思っているんですよ。note*4を使えば、かなりそれに近いことができるんですね。いわば『月刊鈴木みそ』みたいな、自分だけの月刊誌を出すことができちゃう。僕は、いろんな雑誌で連載を持っているわけですけど、ファンならばそれをまとめて読みたいわけじゃないですか。だったら、1か月遅れだけど、ここに来れば、僕の作品がまとめて読めますよって。

小沢 (中略)みそさんがいう「1000人の村」もそうですけど、自分と波長があう人は、海外にもきっといるはず。そう考えると、やっぱりマーケティングで当てに行くことほど、馬鹿馬鹿しいことはない。自分が描きたいものを歪めてまで、マーケットに迎合するのは、もはや古いやり方ですよ。

鈴木 さっきも言ってた、昔の出版社や編集者の考え方ですよね。今は、自分で描きたいものを描いて、それでプロになれなくてもいいじゃないっていう時代。でも、ネットを活用すれば、「1000人の村」の中で、ギリギリ食っていくことも可能かもしれない。

 

 自分の価値観や考え方を押し殺してまで作品を発表する必要はなく、自分で創りたいものを自由に創って、それを数少ないコアなファンに提供するだけでも自分の生活を賄えてしまうような。ネットが発達した現代においては、その環境が整っているとも言える。

 特定のファンの「囲い込み」ではないけれど、実際にそれで稼いでいる人は既に存在しているわけで。例に挙げられている「note」はまさにそんなサービスだし、自分の「好き」を特定層に発信しているYouTuberだってそうだと言えなくもない。

 

 また、この部分を読んで思い出したのが、2014年6月にラジオ番組「文化系トークラジオ Life」で語られていた「里山ウェブ」の話。

要するに、「プロのクリエイター」であろうとする人たちにとって、いまのウェブ環境はまったく「おいしくない」ものになっています。先のスガシカオさんの発言は、そういう背景の中で理解すべきものだと思うんです。

じゃあどうするのか、って考えた時にひとつの道としてあるのは、不特定多数の人たちに作品をばらまいていくのではなくて、自分の作品の価値を理解してくれる人のところにきちんと届くような流通手段をとること。CDやアナログ盤や限定版っていう選択肢は、そういう風にも受け止められると思います。

文化系トークラジオ Life: 2014/06/22「里山ウェブの時代」 アーカイブ

 

 表現に違いはあれど、言っていることはだいたい同じであるように思うんですよね。コンテンツが買い叩かれクリエイターやその周辺の環境が変わりつつある現在、不特定多数への発信と同時に「特定小数」に価値あるコンテンツを提供する視点も必要になってきているのではないか。

 クリエイターとしても消費者としても、いま一度「コンテンツ」に対する向き合い方を再考する時期に来ていると言えるのではないでしょうか。

 

『電子書籍で1000万円儲かる方法』という書名について

 余談。本書のAmazonレビューを見ると「タイトルと内容が合ってねえ!」という感想が散見されますが、全く何ひとつ嘘は言っていないんですよね。

 

 『電子書籍で1000万円儲「」る方法』なら明らかに偽りありだけど、
 『電子書籍で1000万円儲「」る方法』なので。実際、“儲かって”ますし*5

 

 確かにほぼ「マンガ」に焦点を当てた内容ではあるけれど、他のジャンルの電子書籍にも当てはまるものではないかと思います。詳しくは、内容を読んでいただければ。

 

 

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