「半年ROMってろ」が僕らに教えてくれたこと


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 僕がインターネットの世界に飛び込んだのは、いわゆるFLASH黄金時代*1と呼ばれる頃だった(関連記事:平成生まれの僕が見てきたインターネットの世界

 いろいろなサイトを見て回って、おもしろがって、楽しんで。そうして行き着いた先が、2ちゃんねる。他の個人サイトとは違う殺伐とした空気感に面食らいつつも、勇気を出してバカ丁寧に書き込んだ初心者に対して、こんなレスが付くことがあった。

「半年ROMってろ」

 今となっては目にする機会も減り、「ネット古語」のような趣すら感じる言いまわし。しかし、昨今のネットの様子を見ていると、思わずこう言いたくなってしまう人がたびたび見受けられる。

 当時は単に「初心者お断り」という排他的なニュアンスしか感じられなかった、この言葉。しかし今になって考えてみれば、僕らはこう言われることで、自ら調べ、学び、ネットの「楽しい使い方」を身につけたのではなかっただろうか。

 今回はそんな、「ネットリテラシー」についてのお話。

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「ネットリテラシー」とは

 そもそも、「ネットリテラシー」とはなんだろう。「ネット」は、言うまでもなく「インターネット」のこと、「リテラシー(literacy)」は、本来は「識字能力」を指すらしいけれど……?

ネットリテラシーとは、情報ネットワークを正しく利用することができる能力のこと。

ネットリテラシー - インターネット用語辞典 - | OCN

具体的にどのような能力のことを示すのかといえば、例えば「ネットを利用して自分の欲する情報を得ることのできる能力」や「その情報が正しいものであるかを判断できる能力」、「ネット絡みのトラブルに巻き込まれないための自衛能力」などが挙げられる。

ネットリテラシーとは - ニコニコ大百科

 ひとつめの引用では「正しく利用する」と説明されているが、その「正しく」という部分が、ふたつめの引用の中で補完されていると言っていいと思う。簡潔にまとめると、「適切な情報収集能力」「妥当性を問う判断力」「危機管理・自衛能力」といったところでしょうか。

 情報技術を使いこなす能力、と聞くと、もう10年は前に話題となった「デジタルディバイド*2が思い浮かぶ人もいるだろう。パソコン、インターネットを使いこなせる人と、そうでない人の格差。

 ネットリテラシーは、大衆が等しく情報にアクセスできるようになったその後、「それ(=ネット)をどのように使うか」という点で現れてきた問題だと考えられる。ネットを使うのは当たり前、だいたいみんなできる。じゃあ、それを「適切に使えていますか?」という話だ。

「ネットリテラシー」は可視化できるのか

 小学生はもちろん、おじいちゃんおばあちゃんまで。老若男女、誰もがインターネットに接続することのできる環境にあると言っても過言ではない現代。パソコンなんて買わなくても、携帯端末と通信料を払えば、ほら簡単。おいでませ、インターネット。

 バイトを探す学生。歌や絵を投稿するクリエイター。生放送をするおじいちゃん。ネトゲーをする無職。あらゆる人が、多種多様な目的でネットに接続している現代日本社会。ネット利用者の世代ごとに、リテラシーの差はあるのだろうか。そもそも、「ネットリテラシー」は可視化できるのか。

 こちらの記事によれば、ネットリテラシーのテストを行なった結果、青少年は年齢が上がるに従って正答率が上がり、保護者は年齢が上がるにつれて正答率が下がる傾向にあったという。

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上記記事より引用

 調査での質問内容をざっと見てみたが、「SNSでの個人情報記載」や「違法サイトからのコンテンツダウンロード」など、社会的な常識や教養の範疇と言える、基本的な問いばかりだった。

 ここで問われている「ネットリテラシー」の大半は、前述の3項目で言えば、「危機管理・自衛能力」に当てはまるものになると思う。インターネットを利用するに当たって、最低限は弁えておくべき「常識」や「マナー」といったもの。曖昧な表現だけど。

 ゆえに、保護者世代の正答率は全体的に高く、青少年は高校生が一番高くなっていると考えられる。ネットという仮想世界とはいえ、結局は現実世界の延長であり、リアルで「やってはいけないこと」は、ネットでも適用される。なので、分別を知る “大人” たちの正答率が高いのは、当然の結果と言えるだろう。

 他方で、この調査において興味深いのは、他の世代と比べて「20代」の正答率が特に高くなっている点だ。さほど歳の離れていない30代とも3.6%の差があり、60代とでは6.4%も差がある。

 ネットに親しむ高齢者が少ないのは分かるが、大差のない30、40代と比べて、20代だけが高すぎるように見えなくもない。この差はいったいなんだろう。

2ちゃんねると「半年ROMってろ」

 ──というところで、ようやっと冒頭の話題に戻ってくるわけです。

 今の20代と言えば、おおよそ1984〜1994年生まれ。この世代とインターネットの関係性を考えてみたとき、僕は「ネットコミュニティ」がひとつのキーワードになるんじゃないかと思う。

 初期の日本のネット上に現れた大きなコミュニティと言えば、1999年に開設された「2ちゃんねる」。そこでの書き込み数がピークとなったのが、2005年*3。そして、その頃の該当世代の年齢は、11〜21歳。小学校高学年〜大学生であり、この頃からネットを見るようになった人は多いのでは。

 そして、きっかけに個人差はあれど、ネットの世界にハマった彼らは2ちゃんねるを始めとするネットコミュニティへと向かい、そこで「半年ROMってろ」の洗礼を受けることになるのです。

半年ROM、または半年ROMってろは、空気の読めないレスコメントをする者に対して使われるネットである。以下のように使われる。

475 名前: ひろゆきどうやら管理人  投稿日: 04/07/16 04:28 ID:???
banananってなんだろう?

496 名前: 動け動けウゴウゴ2ちゃんねる 投稿日: 04/07/16 04:3ID:LODdbtec 
>>475
半年ロムってろ

掲示板等において、空気の読めない者(主に中高生や初心者)が書き込みを行ったとき、その場の雰囲気・空気を読んだ書き込みが出来るようになるまで書き込まずにROM(Read Only Member:閲覧のみのユーザ)しておけという意味合いで使われる。

半年はあながち間違いでも無い…と思う。

半年ROMとは - ニコニコ大百科

 この物言いの根本にあるのは、「空気嫁」という、初心者に対する牽制のようなものだと思う。単純に「面倒なのが来やがった、あっち行け」などと、追い払う感じで使っていた人も相当数いただろうけれど。

39 : ななしのよっしん :2009/12/03(木) 21:04:33 ID: Y9yLU5bT1g>>38
ことわざみたいなもんなんだから
額面通りに受け取るなよ
初心者自重してよく空気を読め」
というぐらいの意味だぞ

 こちらは上記のニコニコ大百科のコメント欄の書きこみを引用したものですが、簡潔でわかりやすい説明のように感じた。もちろん「好意的に解釈すれば」の話。

 ここでの「空気嫁」は、よく言われる「同調圧力に従え」とはまた違ったニュアンスに見える。それは、2ちゃんねるという独特のコミュニティが持つ「マナー」のようなものに近い。

 長文などの “マジレス” を嫌い、仲良しこよしの “馴れ合い” を鼻で笑い、荒らしはスルーし、各々が好き勝手に書き込みつつも、そこにある流れを楽しむ形。それを邪魔する新参者に「おい」と声をかけ、注意を促す意味での「半年ROMってろ」。

 そう考えると、優しい先輩の助言のように聞こえてきませんか?

デジタルネイティブとmixi

 2ちゃんねると同様に00年代に流行ったネットコミュニティと言えば、「mixi」の存在が挙げられる。そして、先ほどの84〜94年生まれの世代にとってのmixiを調べていたところ、おもしろい記事が見つかった。

 物心がついた頃からITに親しんでいる世代を表す言葉として、「デジタルネイティブ」というものがある。それについて記した本『デジタルネイティブの時代』の著者、木村忠正*4さんによれば、次のような調査結果が出たそうだ。

ライフサイクルと情報メディア環境の変化の組み合わせを追っていき、1982年生まれ以前を第1世代、1983年~87年生まれを第2世代、1988~90年生まれを第3世代、1991年生まれ以降を第4世代というふうにデジタルネイティブを4つの世代に分けました。

その上で、世代間にどのような違いがあるか、調査データを分析してみたのです。すると、その人たちのミクシィ上のフレンドである「マイミク」の数が、第2世代で平均30人くらいだったのが、第3世代になると平均100人を超えて、きれいに第2世代と第3世代が分かれたんですね。別にマイミクの数で世代を分けたわけではないんですよ。他のライフサイクルと情報メディア環境の変化から4つの世代に分けてみたら、マイミクの数が見事に違っていた。

デジタルネイティブを取り巻くコミュニケーションの姿とは?――ネット時代の文化人類学 文化人類学者・木村忠正氏インタビュー - SYNODOS JOURNAL

 ここで言われるデジタルネイティブ第3世代とは、現在の24〜26歳。20代のちょうど中間層に当たる。その層では、mixiのマイミク数が特段に多いとのことなので、利用時間も長くなっていたと考えて間違いないだろう。

 つまり、2ちゃんねるに限らず、20代の多くがmixiというネットコミュニティにも親しんでおり、しかも積極的に使っていたことの証左になるのでは。ユーザー層を見ても、2005年の調査では全ユーザーの半数が20代となっており(参考:(mixi、ユーザー登録数が200万人を突破。4カ月で100万会員を獲得))、2011年のアクティブユーザー数でも同様だ*5

ネットコミュニティという学びの場

 要するに、ネットリテラシーが高いとされる20代は、多感な学生の頃に2ちゃんねるやmixiといったネットコミュニティに親しみ、その中で「インターネットの使い方」を覚えたのではないか、ということだ。

 2ちゃんねるでは、情報ソースの不確実性や、荒らしへの対処法、空気を読む力。mixiでは、SNSの使い方や、他人と交流する際のマナー(足あと機能とか)、オフ会に行ったことのある人も少なくないと思う。

 そして、それら複数のネットコミュニティを経験してきたことによって、それぞれにまったく異なる「空気」や「文化」があり、その流れに乗ることの必要性をその身をもって実感し、学んできたと言える。だからこそ、彼らは感覚でネットリテラシーを “知って” いるのではないだろうか。

 ただ情報に触れるだけではなく、同じ空間で過ごし続けるのでもなく、複数のコミュニティを渡り歩き、多くの人と触れ合いながら、そこで多様な「ネット」を学び、成長した世代。

 30代以上ともなれば、その時期は働いていて自由な時間も限られていただろうし、10代は、TwitterやLINEといった、特定のコミュニティしか知らない人も多いはず。そう考えると20代は、「ネットコミュニティ」に関してはどの世代よりも経験が豊かだと言って間違いないと思う。

 僕自身、今年25歳を迎える1989年生まれであり、20代ど真ん中の世代だ。FLASHアニメからインターネットに入り、2ch、チャット、個人HP、お絵かき掲示板、前略プロフ、mixi、mobage、Facebook、Twitterなどなど、多くのサービスに触れてきた。

 ブラクラに引っかかったのは2度や3度だけじゃないし、エ口に釣られてグ口画像を開いたこともあった。自分のホームページではレンタル掲示板に来る荒らしに辟易させられたし、チャットでは自分の正しさを証明すべく激論を繰り広げた(黒歴史)

 そんな感じで多くのサービスに触れつつ、痛い目も見てきたことで、自然と身についたものもあるんだろう、と思う。今も釣りネタに引っかかることはあるし、デマを拡散してしまうこともあるので、自分がそこまでネットリテラシーが高いとは思わないけれど。

 そう考えると、それぞれのコミュニティが割と閉じられた空間にあった僕らの頃と比べて現在はTwitterに代表されるように、常に開かれた場所が多いような印象が強い。だからこそ “失敗” ができず、簡単に炎上するし、晒し上げられがちだ。

 だからと言って、LINEなどの閉じられたコミュニティに移行すればいいかと言うと、そちらはそちらで、いじめなどの問題がありそうで怖い。閉じられてはいるが、適度に「周囲の目」があるようなコミュニティがあればいいのだろうけれど……。

 いずれにせよ、00年代にインターネットに親しんでいた僕らが、その魅力と危険を存分に知り、今も(一応は)平和にネット生活を続けられているのは、当時、いろいろ教えてくれたどこかの「名無しさん」たちのおかげだと言ってもいいんじゃないかと感じた。

 どこの誰かは知りませんが、ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。

 どこかの誰かさんへ。どこかの誰かより。

 

 

連載「ネットリテラシー」について

 それぞれが本文中で挙げた、「適切な情報収集能力」(第2回)、「妥当性を問う判断力」(第3回)、「危機管理・自衛能力」 (第4回)に関する内容になります。