ぐるりみち。

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“マジックワード”とは?その正体を紐解く本『その言葉だと何も言っていないのと同じです!』

 「マジック・ワード」と呼ばれる言葉がある。直訳すれば「魔法の言葉」。さまざまな場面で使われる「便利な言葉」のことであり、説得力があるようでその実、とても曖昧な言葉を指す表現だ。

唱えるだけで何かを「やった」という雰囲気にはなるのだが、実際はうまく問題解決できない。問題が難しいとき、我々はこういう言い方に頼りがちだ。

 このマジック・ワードについては、ブログでも何度か取り上げてきた。「コミュニケーション能力」や「ゆとり」といった頻繁に使われる言葉でありながら、その本質がよくわからない言葉。そもそも明確な定義があるのかすら定かではない言葉について、たまに考えている。 

 そんなある日、ふと目に留まったのが本書『その言葉だと何も言っていないのと同じです!』です。多種多彩な「マジック・ワード」について、その意味と本質、対処法や考え方などを解説するにとどまらず、「論理的思考法」の方法をも紐解いた一冊となっています。

 

目次

 目次は、以下のとおり。

  • 第1章 便利だけれど、何も言っていない「マジック・ワード」
  • 第2章 会社の定番用語だけれど、意味不明な「マジック・ワード」
  • 第3章 メディアで使われやすいけれど、中身のない「マジック・ワード」
  • 第4章 「自分の考え」を論理的に伝える技術
  • 第5章 反面教師で学ぶ「マジック・ワード」を使ってしまう人の頭の中 

 

社会に蔓延る「マジック・ワード」

 第1章〜第3章にかけては、日常生活・会社・メディアと、それぞれの場面に分けて具体的な「マジック・ワード*1を挙げて概説した内容となっている。

 実際に使われる会話場面を例示し、そのマジック・ワードに対する「つまり、どういうことなの?」という突っ込みを加え、その言葉が表す意味、その意味が現出してしまう構造についてまとめていく構造だ。

 

 例えば、「主体性を持って取り組め」という言葉がある。著者はこの言葉を「理屈より力がものをいう系」の言葉として分類し、会社の上司が部下に対して使用する場面を想定している。

 そのうえで、これがいわゆる「ポジション・トーク*2の構造を持っていると指摘。他人から独立した自分の判断で行動することを「主体性」と言うはずなのに、他の誰か(=上司)が作った目標に対して「主体性を持て!」と命令するのはおかしい。この場面で「主体性」を持っているのは他ならぬ上司だろう――と説明している。

 つまりこの言葉は、「目標は発言者が一方的に決めて、命令されたほうがその現実に取り組むという奴隷的状況を隠蔽する言葉」だとしてまとめている。対策としては、このような上司に抵抗するのは難しいため、「同意するふりをしつつ、言葉の本義にしたがって、自分の判断で時には上手にサボる」ことを勧めている。

 

 また、本書の説明がわかりやすく、また、非常に読みやすいのは、全ての言葉が一定の流れに沿って解説されている点にあると思う。以下のように。

「マジック・ワード」が使われている具体的な会話例

           ↓

「その表現、おかしくない?」という違和感と突っ込み

           ↓

言葉がどのような構造・思考のもとに使われているか解説

           ↓

「マジック・ワード」に対する対処法・考え方

 会話例はよく耳にするものばかりだし、構造の解説に当たっては、順を追って要素を簡易図にして示しているものもある。さらに、最後には「まとめ」として問題点を箇条書きにしているため、全体像の把握が容易な点もありがたい。

 取り上げられる「マジック・ワード」自体も「あるある!」と感じるものが多く、それに対する突っ込みも軽快。しかも、簡潔ながら論理的。どの言葉もぴったり4ページに収まる文量で解説されているので、スイスイ読めて楽しい一冊だ。

 

マジック・ワードに立ち向かう為の「論理」

 続く第4章では、マジック・ワードを素早く見抜き、それに振り回されないようにするための手段として、自分の考えを「論理的に伝える技術」を身につけることを提案している。

 第3章までの「マジック・ワード」に関する突っ込みだけで本文の3分の2を占めているため、そちらがメインコンテンツとも考えられる。しかし個人的には、この4章こそが著者の最も伝えたい主題であるように感じた。サブタイトルにもなっているくらいだし。

 

 その「論理的に伝える技術」として、第4章は、次のような順序で考え方を示している。本章については、ぜひ実際に本の中で読んでいただきたい。

  1. まず言葉を定義しよう
  2. 首尾一貫して考えよう
  3. 主張の正しさは根拠で示そう
  4. 論理とイメージを対応させよう
  5. 結論まで同一のないようにしよう

 人によっては、「え? 当たり前じゃね?」と思われるかもしれないが、自分が読んでいて最も気づきが多かったのが本章だ。一応は「マジック・ワードに対する考え方」として説明されているが、これはそのまま「ブログの書き方」にも転用できると思う。

 「隠された前提を考える」「問題の形は3つだけ」「論理展開=言い換え」「論理とデータを対応・一致させる」など。書店に行けば「論理的思考法」のような本も数多く見かけるが、本章の解説はそれを平易かつエッセンス的にまとめているように感じられた。

 「マジック・ワードは歌のサビ」という表現がツボ。

 

思考停止しない為に

 最後の第5章は、マジック・ワードを乱用する人たち、使いたがる人たちの特徴をあぶり出し、そうならないための考え方を提示する内容となっている。

 5章を読んでいると、自然とウェブ上で騒がれている諸問題が想起された。粗雑なイメージで行われる若者批判、善意で陰謀論を生み出す原発問題、固定化されたステレオタイプでもの申すネトウヨ――などなど。「自分が正義だ!」と強い語調で大声を上げている人ほど、マジック・ワードに踊らされ、思考停止してしまっているように思えてならない。

 

 本書だけでも、全36個のマジック・ワードが取り上げられているが、僕らの生活上ではもっとたくさんの「魔法の言葉」が溢れていると思う。――便利で思わず使ってしまうけれど、曖昧な言葉。

 自分の考えとして、それらを全て否定して「使うな」と言うつもりはない。本書で紹介されている言葉に関しても、それぞれの会話例に当てはまらない適切な「使い方」があると思う。そのような意味では、本書の内容を完全に鵜呑みにするつもりもない。

 「ことば」は、僕らが考えている以上に移ろいやすく、曖昧なものだ。時代や地域によって定義も変わるし、文脈で意味合いを判断する必要性もある。だからこそ、これまでの「マジック・ワード」に限らず、日頃から接している「ことば」を改めて見つめ直す機会は大切だ。よく知る言葉を自分なりに再定義する作業も、時には必要になってくる。

 自分が思考停止しないためには、考え続けるしかないのだから。

 

 

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*1:普段は「マジックワード」と書いていますが、本記事では本書に倣って統一します。

*2:ポジショントークとは - はてなキーワード