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ぐるりみち。

日々日々、めぐって、遠まわり。

VOCALOIDは「物語」の語り手である

 この動画を観ていたところ、初めてVOCALOIDに出会ったころのことを思い出して懐かしくなった。もう5年以上も前という事実に戦慄。

 僕がVOCALOIDを聴くようになったのは、2007年の9月下旬ころから。『初音ミク』が発売されて1ヶ月、ちょうど「みくみくにしてあげる♪」が投稿され、最初のブームが起こっていた最中のことである。

 

第一印象は、「なんじゃこりゃ!?」

 当時の習慣だった、ニコニコ動画のランキングをチェックしている中で目に留まったのが始まり。何かのアニメのキャラクターソング?とか思って開いてみたら、どうやら違うらしい。というか……機械音声? えええ?

 正直、ちょっと引いた。と同時に、おもしろい、とも思った。

 FLASHアニメなどで機械音声に馴染みはあったけれど、それがちゃんとした「歌」を歌っていることに純粋に驚いた。カタコトだけれど。でも、メロディと歌詞のついた「歌」。

 

 その後は、いつの間にかハマっていた。「Ievan Polkka」「White Letter」「Dreaming Leaf」「教えて!! 魔法のLyric」「moon」などなど、ランキングに上がっている曲から関連動画を探して、聴きあさって楽しんでいた。

 中学生のころから、インターネットでゲーム音楽のアレンジをよく探しては聴いていたので、それと同じ感覚だったかもしれない。そんな経緯もあり、後に同人音楽全般のファンになる訳ですが。

 

「初音ミク」の物語

 最初に「キャラソン?」なんてことを考えていたが、初期から実際に『初音ミク』というキャラクターを主題とした楽曲が多く生まれていた。

 「恋スルVOC@LOID」「ハジメテノオト」「あなたの歌姫」「えれくとりっく・えんじぇぅ」「タイムリミット」など、挙げればキリがない。

 

 このころは物珍しさもあってか、それともミクさんの魅力のせいか、キャラソンのような楽曲が多く投稿され、視聴者にも人気だった。ミクさんかわいい。

 そこで歌われるのは、さまざまなボーカロイドPが考える『初音ミク』の物語。歌声はみんな同じだが、それぞれが違った物語を語っていた。

 このように当時は、作曲者が好きなように作った曲を歌わせる、というよりは、『初音ミク』という素材を元に考えた物語をみんなで共有し、楽しんでいるようなイメージが強い。それはそれでとっても楽しかったけどね。

 

「ボカロP」の物語

 2007年末、おなじみの「メルト」が投稿され、爆発的にヒットしたことで、全体の流れが少し変わったように思う。

 それは、『初音ミク』というキャラクターを主体とした曲ではなく、音楽の作り手であるボーカロイドP自身の「物語」が自然と作られるようになったということ。歌詞やメロディに重点が置かれ、VOCALOIDはあくまで楽器となった。

 

 つまり、従来のJ-POPなどの大衆音楽と変わらないのではないか――と思ったけれど、そんなことはなかった。市民権を得た今となっては、大衆音楽であることに間違いないだろうが、視聴者のスタンスはちょっと異なるように感じる。

 スタンスの違いとは、楽曲の主体がどこにあるか、ということ。僕個人のイメージだけど、それぞれこんな印象が強い。 

  • J-POP……歌手中心。作曲家はほとんど注視されない。
  • VOCALOID……ボカロP(作曲家)中心。歌手は同一(VOCALOID)。

 注目されるのが、歌い手であるか、作り手であるか、という差。些細なようにも見えるが、これは従来の音楽界隈からすれば大きな変化なんじゃなかろうか。

 なぜボーカロイドPが注目されるかと言うと、それはやはり「歌い手がVOCALOIDだから」という結論になる。調整の仕方で変化は現れるが、根本的には「同一の声」であるVOCALOIDだからこそ。

 

 VOCALOIDは特定の、単一化された声であるがゆえに、本来なら歌手が持っているはずの個性がない。するとどうなるか。

 その曲を、音楽を単純に聴くことになる。そして、その作り手であるクリエイターの姿が見えてくる。J-POPなどでは歌手の影に隠れてしまっている、音楽の担い手が。

 

 これは大きな違いであるように思う。僕はその「作り手が見える状態」が好きだ。シンガーソングライターならわかるけれど、他人の作った曲を借りて歌う歌にはどこか違和感が拭えない。……考えすぎかもしれないれど。

 

「歌」を聴くか、「曲」を聴くか

 この大きな違いは、「歌」に重点を置くか、「曲」に重点を置くか、と言い換えることもできるのかもしれない。

 歌手が歌う「歌」としての音楽を聴きたいのか、作曲家が作る「曲」としての音楽を聴きたいのか。聴く「音楽」は同じものだけれど、その目的は全く別であるように見える。

 

 僕は「音楽」を「物語」として楽しむ傾向にあり、そのふたつは切り離せないものだと考えているので、純粋に物語を楽しむことのできるVOCALOID曲は肌に合っている(ここで言う「物語」は、文字通りの起承転結がある楽曲であったり、クリエイター自身の考え・思想を反映した楽曲であったり)

 これまでの内容を鑑みると、VOCALOIDが音楽界隈にもたらした一番の変化は、よく指摘される「誰もが歌謡曲を作って発信できるようになった」ことではなく、「本来の音楽の作り手が注目されるようになった」ことだと思った。

 

 ずっとJ-POPを聴いてきた人にとっては、作り手を意識することで音楽に対する認識がすごい変わるんじゃないかな。めっちゃ世界観が広がって楽しいと思う。

 逆に、同人音楽界隈的には後者が当たり前の文化として根付いていたので、前者の恩恵の方が大きかったような気がしなくもない。それはそれで革新的だよね。

 

いくつもの線は円になって 全て繋げてく

 5年前は「このブームもいつまで続くことやら…」なんて囁かれてもいた。だがしかし、気付けばもう5年ですよ。ミクさんもびっくり――なんてことはないか。

 この5年間でメジャーアルバムが発売され、ライブイベントが開催され、テレビCMに出演し、ファッションモデルとなり、ミクさんの存在は何に束縛されることもなくどこまでも広がっている。

 もはや一時の流行りということはなく、ある意味で「文化」とも化したVOCALOIDが消えてなくなることはないでしょう。その存在によって、たくさんのクリエイターをネット上に生み出したように、国境も超えてあらゆる壁をぶち破り、みんなに愛される存在であって欲しい。一人のファンとして、そう思います。

 

 

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