7つの比喩の型を知り、言語感覚を活性化させてくれる名著『レトリック感覚』

 誰もが当たり前に使っているのに、実はすっごい曖昧なもの。
 定義がしっかりしているようでいて、実は簡単に変化する適当なもの。

 そして言うまでもなく、魅力的でおもしろいもの。そんな「ことば」の多様性と再会できる1冊、佐藤信夫著『レトリック感覚』を読みました。

 

 

 振り返ってみればここ数年、「言葉の使い方」や「文章の書き方」を紐解いた本を何冊も読んできた自分。でも、そんななかでスルーしていたのが、この「レトリック」でした。

 ……だって、これ、なんとなく小難しいイメージがありません? なんだか、文芸部に所属する理屈系文系男子が、眼鏡をクイッと上げながら説明してくれそうな感じ。基本的な作文技法や論文の書き方とは異なる範疇にある、専門的な言語表現という印象が強かったんですよね。

 それこそ、「小説家志望の人や文章を生業とする人が学ぶ技術」のような。自分には無縁の分野であると考えて、これまではスルーしてしていた格好です。しかし最近、普段から読んでいる書評ブログで、しかも複数の人がおすすめしているのが目に入り、気になって読んでみることにしたのでした。

 

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おやつは3冊まで

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 本棚の整理をしていたところ、ふと「おまえは今まで買った本の冊数をおぼえているのか?」と、頭の中で声がした。はて……4桁には達しないはずだけれど、実際はどのくらいになるんだろう……。

 デジタルで購入記録が残っている電子書籍ならばともかく、紙の本をすべて数えるのはさすがにダルい。そもそも、過去に捨てたり売ったりした本も含めれば、そのすべてを振り返るのはさすがに不可能だ。アカシックレコードに聞いてください。そろそろ誰もがクラウドで閲覧できるようになっても良いと思うんだ、アカシックレコード。

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切なさと温かさが込み上げる、アンドロイドの少女の許されざる恋物語『甘えたい日はそばにいて。』

 ふと気になり、手に取ったマンガ『甘えたい日はそばにいて。』

 『まんがタイムきらら』で連載中の4コママンガであり、作者は『幸腹グラフィティ』の川井マコト@kwimkt05先生──という前情報しか知らなかったので、完全に油断していた。

 だって『きらら』と言えば、「ゆるふわ日常もの」の作風を持つマンガを多く掲載するコミック誌*1。しかも、おいしいごはんとあたたかな交流を描いた『幸腹グラフィティ』の作者さんの新作とくれば、同様の日常ものを想像してしまっても不思議じゃないように思う。

 ところがどっこい。
 いざ読みはじめてみると、思いのほかシリアス要素マシマシだったので驚いた。

 たしかに序盤は日常もの、ほんわか系お姉さんアンドロイドと無表情系男子高校生の生活を描く、ラブコメマンガではある……のだけれど。物語が進むにつれて高まる不安感は、想像すらしていなかったもの。「4コマでもこんな物語が描けるのか!」とドキドキさせられ、すっかり惹きこまれていたのでした。

 

 

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*1:『まんがタイムきららフォワード』掲載の一部作品などを除く。

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死後に“ロスタイム”があったら?死者に寄り添う少年少女の青春小説『時給三〇〇円の死神』

 死にゆく人の未練を晴らすべく奮闘する、少年少女のハートフルストーリー。
 ──そう聞くと、フィクションとしては別に珍しい設定でも何でもないように思う。

 その手の物語において主人公が関わるのは、何らかの未練や無念を残した幽霊=死者たち。ある人は家族や恋人を慮り、ある人は遣り残したことが気掛かりで、あの世へ旅立てずにいる。

 そして幸か不幸か、そんな幽霊の姿を見ることができてしまう主人公は、その未練を晴らすために奮闘する。たくさんの後悔や別れと向き合い、辛く悲しい思いを重ねながら、それでも最後には笑顔で旅立つ人々を見送り、自分も日常へと戻っていく──というのが、その手の作品でよく見るストーリー展開かしら。

 しかし、本作『時給三〇〇円の死神』で描かれるそれは、 “ハートフル” とは程遠いところにある。

 家族と仲違いしたまま、不慮の事故で死んだ学生。定職に就けず、家族も壊し、己の不甲斐なさと社会の理不尽を呪いながら死んだ中年男性。虐待を受け続け、殺されてなお母親を求める子供。夫から愛されず、産むことだけを求められ、使い捨てられたも同然の新婚生活を送る女性。

 思わず「救いはないんですか!?」と叫びたくなるほどにやるせない、絶望のただ中で亡くなった《死者》たち。死にゆくだけのそんな彼ら彼女らと向き合うのは、彼自身もまた、絶望と諦観を抱えて生きている高校生。金に困っていた彼がスカウトされたのは、 “死神” のアルバイトだった。

 時給300円という絶望的にブラックなアルバイトを始めることになった彼と、その同僚であり、クラスメイトでもある少女。少年少女を中心に据えたこの小説は、決して心温まるとは言えない《死者》との交流を通して、2人がひとつの「答え」にたどり着くまでの物語だ。

「この世にはね、死んだはずなのに死ななかったことにされた人たちがいるの」

(藤まる著『時給三〇〇円の死神』Kindle版 位置No.495より)

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